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【前世の記憶】息子は映画脚本家の生まれ変わり


アメリカ・イリノイ州。ジェニファーとジムにはエリックという7歳の息子がいる。 

夫婦は妊娠するまでに長い期間を要し流産も経験したため、第一子のエリックを授かった時はとても喜んだ。

エリックはハイハイが早く11ヶ月で歩き始め、1歳の誕生日には短い文章を話すことができた。 

エリックが悪夢を見たことを伝えたのは1歳半の時。実際毎晩悪夢にうなされていたため、彼が生まれてからからというものジェニファーは一度も夜通し眠ったことはなかった。

彼はエリックとして生まれる前に、空のお城にいたと言う。生まれる前にそこで両親となるジェニファーとジムに会ったのだと。

「お城の色を覚えてるよ。青だった。大きい雲の上にあったんだ。」

エリックは空にあるお城での生活や見下ろすと皆が見えたことを話した。どうやってママとパパを選んだのかも。

お城を去ってエリックとして生まれてくることはとても怖かったと言う。怖かったから1度目は来なかったのだと。

それを聞いたジェニファーはすぐに流産のことを思い出した。エリックはジェニファーが流産した子は自分だったのだと言う。ジェニファーは安堵感に包まれた。彼女は一度も抱けないまま流産した子のことを忘れたことはない。

息子の前では涙を見せないように落ち着いてふるまったが、あの時生まれてくるはずだった子供は戻ってきていたのだと感情的にならずにはいられなかった。

どうやって下に降りてきたのかと聞くと、エリックははしごをつたって降りてきたと言う。

そしてお城を去る時期だとどうして分かったのかと聞くと彼はあきれたように言った。

「だって僕の誕生日だよ」

エリックの3歳の誕生日が近づいていた時、彼はとても楽しみにしていて、何度もカレンダーを見たいと言った。

エリックの誕生日は6月21日なのだが、なぜか彼はそれを否定し、6月26日が誕生日だと主張。両親にはその理由が分からない。

しばらくすると再度同じようなことが起こる。エリックのミドルネームはColeなのだが、自分はEric Coeだと主張する。Lの発音がしにくくてCoeと言っているのだと思ったジェニファーは、Coleだと発音を正すと彼は、

「違うよ、Coeだよ。ママの名前だったの。」

と言う。

ジェニファーは、

「あなたのママの名前はジェニファーでしょ」

と言うと、エリックは、

「それがママの名前なの?」

と言うので、

「そうよ、私、あなたのお母さんよね?」

と言うと

「違うよ、僕の子供でしょ、僕の娘。」

と言った。

訳の分からないジェニファーは動揺する。

彼女は息子が作り話をしているのではと思うこともあった。想像力がとても豊かな子で、それを自分と共有したいのかもしれないと。

エリックは言葉を話せるようになってからは毎日のようにハリウッドについて語り、仕事があるからハリウッドに行きたいと言う。

もう一つの家でやることがある、家の修理をしたりそのために必要なものを買ったりしなければいけない。そのためにはハリウッドで仕事をしてお金を稼がなければならないと言うのだ。

成長するにつれ、彼はいつまでもハリウッドに連れて行ってくれない両親に対して怒りを表すようになる。ハリウッドに連れて行ってくれるまでは学校に行かない、食べない、お風呂にも入らない、寝ない、何もやらないと抵抗したことも。

彼のハリウッドへのこだわりは非常に強く、両親がが目覚めるよりも早く椅子に登ってチェーンを外し、一人で行こうとするのではないかと心配するレベルにまで達していた。

両親は息子のハリウッドへの興味はテレビからの影響なのかもしれないと考えた。しかしエリックが観るのは漫画で、ハリウッドが登場することはほとんどない。加えて、専業主婦のジェニファーは、子供が観る番組については全て把握していた。                     

その間彼の悪夢はひどくなっていた。悪夢を見ては毎晩目覚め、泣くこともあった。そして自分は事故で死んだと訴えることも。

親なら誰でも子供を守りたいものだが、そのすべはない。

エリックが覚えている間違った誕生日、もう一人の母親、別の家、ハリウッドへの強い執着、どれをとっても説明ができない。

息子に何が起こっているのだろうと夫婦で話し合う中、ジムが言う。もしかしたら前世のことを覚えているのかもしれないと。

ジェニファーはそうに違いないと同意する。いろいろな仮説を立てた中で、唯一理に叶うものだった。これならエリックの奇妙な行動も納得がいく。

ジェニファーは輪廻転生について常にオープンだったが、エリックに関しては考えが及ばなかった。

ある日いつものようにエリックがハリウッドに戻って仕事に行く話をしている時、ジムは聞いてみる。

「ハリウッドでどんな仕事をしてるの?」

「まあ、いろいろとね」

とぼかすように言う。当時の彼はまだ2歳か3歳である。

ジムが俳優だったのかと聞くと、違う、演じるのは好きじゃないと言い、ディレクターだったのかと聞くと、肩をすくめる。

そこで脚本家だったのかと聞くと

「そうだよ。映画を書いたり他にも書くよ。」

と言った。

「カサブランカ」や「ベン・ハー」を書いたのかという質問に彼は「ノー」と言う。

そこで「風と共に去りぬ」を書いたのか聞いてみると、顔がパッと明るくなり頭を上げて言った。

「そうだよ、あの映画、僕が手がけたの。あの映画を知ってるの?僕の映画だよ。」

ジェニファーはすぐに「風と共に去りぬ」の脚本家について調べると、シドニー・ハワードという男性の名前が浮かび上がる。

最初に目に止まったのは彼のミドルネームはCoeということ。エリックは自分のミドルネームはColeではなくCoeだと主張してきた。

読み進めるとCoeは彼の母の旧姓でもあることが分かる。エリックはミドルネームは母親にちなんで名付けられたとも言っていた。

また彼の長女は通称ジェニファーという名前で通っていた。エリックが母親の名前がジェニファーだと知った時、自分の娘の名前だと言っていた。

そして彼の誕生日は6月26日。エリックが自分の誕生日だと主張し続けている日にちと同じだ。

この時点ではすでに、ジムはエリックはシドニー・ハワードの生まれ変わりだと信じていた。

シドニー・ハワードは自分の農場でトラクターにひかれて亡くなっている。エリックは恐ろしい死の体験を毎晩夢で再体験していた。

しかし助けてあげることができなければそれを防ぐこともできない。落ち着かせることすらほとんどできなかった。

ジムは前世の記憶が現世に影響を与えるのではないかと心配する。息子が体験していることは誰にも言ったことはなかった。からかわれたり疑いの目を向けられたりしないように、息子を守ってきた。エリックが前世の記憶を持っていると信じていたからだ。

3歳の頃には、エリックのハリウッドに対する執着は極度に増していた。

ジェニファーはエリックが前世でやり残したことがあるのではと感じていた。両親はシドニー・ハワードの生存している二人の娘を探し当てる。そして連絡を取り、会いに行くことになる。ハワード邸にエリックを連れて行くことにより、悪夢を見なくなることを期待して。

マサチューセッツ州にあるハワード邸に到着する。シドニー・ハワードの娘たちはフレンドリーで、エリックにハグをし快く受け入れてくれた。そして家の内外、ファームハウスを案内してくれた。

シドニー・ハワードの家のすぐ下に滝のある小さい人工池がある。エリックはそこへ行くと滝のそばに立ち、ここがお気に入りの場所だったと言う。その池があるところはシドニー・ハワードと彼の妻が泳ぐのを楽しんだ場所だった。いわば夫婦のロマンチックスポットだ。

エリックはそこで良い1日を過ごした。普段は新しい家に行ったり、大勢の人がいる場所ではシャイな子である。そこでのエリックは緊張感もなく、帰るべき場所に帰ったようだった。

エリック家族はシドニー・ハワードが眠っているお墓へ行く。エリックはこの場所を知っていると言うが、怒っているように見えた。

「何でここに来たの?」

そう言いながらもエリックはシドニー・ハワードのお墓へ直行する。案内は必要なく、彼がその場所を知っていることは明らかだった。

シドニー・ハワード邸への旅から帰ってきた後も、エリックは悪夢を見続けた。

映画「風と共に去りぬ」はシドニー・ハワードが亡くなった年に公開された。そして彼はオスカー賞を死後に受賞した初の人物となる。オスカー賞の授賞式には彼はいなかった。

彼は「風と共に去りぬ」がどれほどヒットしたかを十分に知ることなく他界した。エリックにやり残したことがあるのかは分からないが、シドニー・ハワードは48歳で亡くなっている。

エリックの体験したことを改めて考える時、親として打ちのめされる思いだった。息子のためなら何でもする。が、何をやっても悪夢の解決にはつながらなかった。

そこでジェニファーは唯一残っていることを遂行することを決める。ハリウッドに行くことだ。

「ハリウッドにずっと行きたかったんだ。小さい頃からずっとハリウッドの話をしてる。昔ハリウッドに住んでたんだよ。」

ハリウッドに到着したエリックは興奮していた。彼が一生待ち望んでいた場所へ来て、様々なものを見ることで前世とつながり、解決することをジェニファーは望んだ。

親子はハリウッドミュージアムへ行く。ジェニファーは「風と共に去りぬ」の専門家にシドニー・ハワードツアーをしてくれるようアレンジしていた。

専門家に将来脚本家になりたいかと聞かれたエリックは、イエスと答える。

アカデミー賞を持ってみたいか聞かれ、うなづくエリック。そしてアカデミー賞を手にしたエリックの顔は輝いていた。

ジェニファーがエリックをハリウッドに連れてきたのは、それが彼の人生の大きな部分を占めてきたから。

それ以来エリックの悪夢は大幅に改善に向かう。ハリウッドから帰ってきてからのエリックは、普通の7歳児らしい男の子になった。自転車に乗って近所を回ったり公園まで行ったり、友達と遊ぶのを楽しんだりするようになる。

シドニー・ハワードは前世の人となり、本来のエリックとして前進して行くのが分かる。家族にとっては普通の生活の始まりだ。



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