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【前世の記憶】南北戦争で生き絶える自分を見た息子
アメリカ、オハイオ州。デブとケンにはニックという息子がいる。
母子の命が危ういほどの困難な出産で生まれた彼は、全く昼寝をしない新生児だった。12時間も寝ない新生児はいないと母親に驚かれたが、夜になるまで寝なかった。
3〜4歳になると悪夢を見るようになり、両親は感高い声で叫びで目覚めるようになる。彼は命懸けで戦っているかのように叫んだ。両親は悪い夢を見たのだろうと落ち着かせベッドに戻ろうとするが、どんなに落ち着かせても効き目はなかった。
母親として苦しむ息子を見るのは辛く、何とかしてあげたいと思ったデブだが、助ける方法がない。悪夢はずっと続いた。しかし、朝になるとニックは、悪夢のことなどすっかり忘れている。
ニックは幼児期になっても昼寝をすることはなかった。彼はアクティブで、あらゆるものに登ろうとし、高いところから飛び降りる、恐怖心など全くない子供だった。また、好奇心旺盛で、すばしっこく、賢い子でもあった。異常に活発なため、やるべきことにフォーカスさせるのに苦労した。
彼が親の監視なしで静かにしていられるのは、兵隊のフィギュアで遊ぶ時だけ。彼のお気に入りのおもちゃはアーミーのフィギュアである。兵隊を動かして戦いをさせるのだが、よく見ていると、毎回違った配置をしていて、整列させるのにもこだわりがあった。単に戦いをさせるのではなく、戦略がある様子。
超活発で昼寝をしないニックが、兵隊で静かに遊ぶ時は、両親にとって安堵できる時間だった。
彼は西部開拓時代の武器が好きだが、南北戦争や独立戦争などからマスケット銃を見ると、常に惹かれているようだった。マスケット銃とは、銃身にライフリングが施されていない先込め式の滑腔式歩兵銃である。このため、散弾も発射可能だった。
ニックがおとなしく一人で遊べるのもう一つのことがお絵描き。陽気な彼の性格から、太陽の下で犬と遊んでいるような絵を描くのを想像するが、彼が描くのは恐ろしい戦争のシーンだった。息子が何を考えているのか、頭の中はどうなっているのか、このアイデアはどこから来たのか、デブは心配する。暴力的なシーンを目にしたに違いない。彼の戦争や武器への興味は、成長するにつれ増していく。
妹の幼稚園にフォトグラファーが来た時、兄妹で写真撮影をするためにニックも同行した。そこにはコスチュームなどが入ったいくつかの箱があり、好きなものを着てよかった。そのほとんどはスーパーヒーローで、デブもニックがスーパーヒーローやアニメのキャラクターを選ぶものと思っていた。
しかし彼が複数の箱から選んだのは、オールドファッションな軍服。フォトグラファーは言う。
「南北戦争の軍服をコーディネートできるのはとても珍しいことですよ。彼は何故自分でできるのですか?」
デブもさっぱり分からない。
写真撮影ではニックは笑顔になることを拒み、とても真剣な表情で、銅像のように動かなかった。
フォトグラファーに、撮影時はいつもこんなふうにじっとしていられるのかと聞かれる。デブは、
「断然違います、いつもふざけてばかりで、変顔をしたりするんですよ。」
と答える。
彼は銃を胸の位置でかまえ、銃の持ち方やポーズのとり方を知っているかのようだった。
ニックは軍の歴史に興味を持っていた。ケンは単に歴史が好きだからと捉えていたが、デブにとっては、やや不思議なことだった。家族には誰も軍人はいない。
デブは勉強やスポーツに集中するように働きかける。
ニックが13歳のある朝、起きてきた彼の様子が明らかに違っていた。いつもと違って深刻で、重苦しい雰囲気だ。
彼は昨晩見た夢のことを話す。夢の中で彼は兵隊のように全身グレーの服に身を包み、陣地にいた。彼は秘密任務を与えられていた。そして、捕まるかもしれない、殺されるかもしれない、という強烈な恐怖を語った。馬の汗の匂いやキャンプファイヤーを覚えていると言う。インディアナ州のボルチモアという町へ出向くことも知っていた。
ニックが話しているのと同時に、デブの脳裏では、息子の生死に関わる恐怖が映像のように再現される。彼の感情はとてもリアルで、まるで実際の経験談のようだった。この夢は何かの引き金を引いた。そしてこれには夢以上の何かがあるとデブは感じていた。
デブはインディアナ州のボルチモアという町が存在するかをインターネットで調べる。すると、南北戦争時代に実在した町だということが判明。デブは鳥肌が立った。
水門が開くかの如く、この夢を機にニックは、南北戦争時代の兵隊としての詳細を思い出し始める。そこには多くの事実が含まれていた。
彼は第15テネシー歩兵連隊に所属していることを覚えている。また自分の名前がジョナサン・ウォルターズであることも知っていた。南北戦争時代に兵隊として生きていた記憶があったのだ。
彼は自分が死ぬ瞬間を見ていた。仲間をチェックしようと後ろを振り向いた瞬間に首を撃たれてしまう。撃たれた部分は顎のすぐ下の部分。奇妙なことにニックには全く同じ場所にアザがある。しかもそのアザは、銃弾で撃たれたかのように散らばり変わった形をしていた。
ニックは自分が死んだことを知っていると言う。撃たれた瞬間、倒れながら空を見上げ、最後に脳裏をよぎったのは、「もう家に帰ることはないんだ」という思いだった。
ニックの母として、息子の死の体験を聞くのは辛いものだった。なんとかしてあげたくても大丈夫よと言うことしかできない。
ニックが兵隊に強い繋がりがあると感じるデブは、息子の前世を調べて現世とどう関係しているのかを知るのは、親の役割のように感じていた。
ケンは前世について特に強い信念はなく、もっと調べてみようという立ち位置だった。
両親は、ジョナサン・ウォルターが誰なのか知ることは、ニックの自尊心にもつながると考えた。彼の意識は前世にフォーカスしすぎて、他のことを忘れてしまうほどで、決して前向きとは言えなかったからだ。
ニックが13歳の夏、デブは息子と共にテネシー州のジャクソンという町を訪れることにする。そこにある図書館には、第15テネシー歩兵連隊の名簿がある。
親子は図書館で何時間もかけて探すが、ジョナサン・ウォルターズの名前は見つけられない。二人はがっかりする。もう諦めてホテルに戻ろうとした時、突然思い出したようにニックが
「ハーパーを調べて」
と言う。
「名字はハーパーだと思う。」
彼がそう言った瞬間、デブは彼の周波数が何かに合ったのだと感じた。
そして次のページにあったのは「軍曹JW Harper」の名前。唯一のJW Harperは第15テネシー歩兵連隊に所属していた。
ニックが名字だと思っていたウォルターズはミドルネームだったのだ。
「なんてことなの!これは本物よ!本物だわ!」
デブは叫んだ。
次の夏、家族はテネシー州にあるスプリングヒルを訪れる。ニックがそこでの戦闘で死んだと信じている場所だからだ。
「お父さん車を停めて。」
ニックが言う。家族は実際に戦場だった場所に停車する。
ニックは車から降りると駆け出した。
「大丈夫だから。すぐ戻る!」
と叫びながら。
しかし息子は戻らない。遠く離れた州の見知らぬ土地で、姿の見えなくなった息子を両親は心配する。両親がパニックになりかけた頃、コーン畑の逆の方角からニックは戻ってくる。
ニックは、前に来た記憶があるからチェックしなきゃと思ったのだと言う。
目はとろんとしてとしていてぼんやりしている彼は、どこか違う場所にいるようだった。
デブが
「大丈夫?何か見つけた?」
と聞いても彼は静かだった。かと思うと彼は言う。
「ここだ。この場所だよ、ママ。」
これほど静かで真剣な息子を見るのは滅多にないこと。直前まで彼はアクティブで楽しそうだったため、戦場で何かが起こったことは明白だった。
スプリングヒルを後にし、家路へと向かう途中に小さな白い教会が目に入る。
するとニックが
「車を停めて、降りなくちゃ。」
と言う。
教会の後ろには小さな墓地があった。家族はニックに一人の時間を与える。特定の墓跡の前で彼は悲しみを感じているようだった。
彼は言った。
「気分がすぐれない。足が弱ってる感じなんだ。ここの人たちを知っている。足に力が入らなくて歩けそうにない。」
車に戻るのに、両親の支えが必要だった。彼は震えていて、顔面は蒼白。この墓地で何かが起こったことは明らかだった。
この旅行は、ニックが兵隊として生きていた前世を実証する旅となる。
時が経ち、ニックは19歳の大学生になっていた。彼は言う。
「最初にスプリングヒルに行った時はまだ子供で、自分が経験することに対しての準備ができてなかった。もう一度訪れたい。特に今の自分は JWハーパーが戦っていたのと同じ年齢だから。」
そして彼はスプリングヒルを一人で訪れる。
「彼はここからすごく近いところか、ここで亡くなったと思う。それを知りたい。」
ニックは言う。
「JWハーパーは若くして亡くなった。長い将来が残されていたのにも拘らず。この人生では、彼が生きれなかった人生を生きることが僕の役目だと感じてる。」
ニックはJWハーパーを現世から切り離す時が来たと感じていた。最後のさよならを言う時期がきたと。
「最後にここを訪れたのは6年前だった。その時はひどく興奮して走り去った。実は記憶が飛んでてほとんど何も覚えてないんだ。終えてない仕事がここにある気がしてる。」
ニックのリサーチで分かったのは、第15テネシー歩兵連隊はある時期、この場所、リッパビル・プランテーションを通過していて、この敷地が戦場になったこともあること。
「ここに来る必要があると思いました。自分の目で見て、終止符を打つ必要があると。」
ニックは南北戦争の専門家、チャックに会う手配をしていた。ニックは戦闘と第15テネシー歩兵連隊について尋ねる。チャックによると、第15テネシー歩兵連隊は間引きされていて、1864年にスプリングヒルに来たのは残った人々だった。
ニックが死んだのは、明らかに農場や農園の近く。一つ覚えているのは、樹木限界線から、ひっくり返った赤いワゴンが10メートル位先に見え、後ろに隠れる必要があると思ったこと。夢では、弾丸が音を立てていて、ワゴンの背後に隠れなきゃと思った。銃が発砲されたため、仲間は大丈夫かと振り返ると、そこで光が消えた。
チャックは指差して言う。
「君はあそこに立っていたんだ。スプリングヒルで最後のアクションとなった11月30日の戦闘で。」
二人は戦場となった場所へ向けて歩き出す。
「戦闘があったのは昼間ですか?」
ニックが聞くと、午後4時〜5時とのこと。まだ明るかったのだと彼は納得する。
「当時たくさんの木があったかどうか分かりますか?」
「楓、マグノリア、ブナの木など当時はたくさんの木があったよ。今でもあるけど。あそこに横たわってる木は3週間前に倒れたが、樹齢400年の柏の木だ。だからあり得るね。」
ニックはそれを見ていたのかもしれないと納得する。
チャックに夢で見たことを説明すると、彼はほぼ全てのことを認識した。チャックもニックの説明から、JWハーパーが亡くなったのはこの辺りだと推測した。
ニックにとってチャックが案内してくれたことは、求めていた答えとして十分だった。
興味深いのは、6年前に訪れた時、即座にその方向に向かって走り出したこと。
ニックは満足そうに言った。
「確信が持てて、とても気分がいいです。ここに着くなり、そのエリアへ惹かれていたから。その原因が今分かった。これで終止符を打てると感じます。特に空白だった部分をチャックが埋めてくれたから。これで次に進めそうです。」
ニックは大学でジャーナリズムを専攻し、自分の経験についての本を書いていると言う。