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オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件
アメリカ・オハイオ州。シングルマザーのベスには3人の娘がいる。カーソンは末っ子の女の子。
カーソンを出産時の陣痛は突然来て、病院に行く時間さえなかったほど。そのため911番救急電話で助けを求めながらの一人での出産だった。出てきた時に泣かなかった我が子を見た恐怖も体験した。
カーソンは小さい頃から楽しいことが好きでアクティブ、エネルギッシュで想像力に富んだ子供だった。
彼女が非常に辛い出来事について話すようになったのは5歳の頃。
ある日ペインティングをしていたカーソンが
「オクラ、オクラホマ」
と言ったかと思うと、
「すごくいい人のふりをしてたけどホントは意地悪だった男のこと覚えてる?その人がトラックで建物の方へ運転して行って、私に火が燃え移って倒れちゃったの。」
と言うのだ。
「本当に?」
驚いたベスにそれ以外の言葉は出なかった。
「これがその建物で、このてっぺんに出られるの。」
カーソンは絵を描いて見せる。
ベスは1995年にオクラホマシティで起こった連邦政府ビル爆破事件を思い出した。
オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件は、元陸軍兵士らが大量の爆弾を積んだトラックをオクラホマシティ連邦地方庁舎前に駐車し逃走。起爆装置のスイッチを押し建物ごと爆破した。これにより子供19人を含む168人が死亡、850人以上が負傷した。2001年の同時多発テロ事件が発生するまでは、アメリカ国内で最悪の犠牲者が出た事件だった。
なぜ5歳の娘がこの事件を知っているのか、不思議に思ったベスは、姉達から聞いたのかと聞くと違うと言う。彼女はこの事件についてテレビでも見たことがなければ家族からも聞いたことはない。
誰に相談すればいいのか分からないベスは、彼女が言ったことを日記に残し、たくさんのリサーチをする。彼女は言う。「悲惨な事故で死んだら記憶を持ったまま生まれ変わることもある。」
その後成長するにつれ、オクラホマシティ爆破事件に対するカーソンの記憶はさらに具体的なものになっていった。
寝かしつけていたある夜、カーソンはベスが今でも忘れられないことを告げる。彼女は託児所にいて、建物の一部が燃えて崩れ落ちたと言うのだ。姉の一人は妹が注意を引くために作り話をしているのだと思ったと言う。
ベスは悲しさとともに恐れも感じていた。寝る時に死んだ時の記憶を思い出すなど、普通の子供が経験することではないからだ。
しかし同じ話を何度も何度も聞いていたため、一貫性がある記憶だと感じていた。この件でベスは色々考えさせられ、輪廻転生や子育てについて自身の考えを見直すきっかけとなった。
ある夜、カーソンはベスが動揺し泣きたくなるようなことを言う。彼女は、ベスを本当のママじゃない、本当のママはオクラホマにいる、と言った。さらにオクラホマの母に会いに行きたいと言うのだ。
母親として胸が痛んだ。娘が自分よりもう一人の母親の方を愛しているように感じたのだ。胸をナイフで刺されたような気持ちだった。
カーソンは、癒しが必要な魂の一部分を持ってこの世に生まれてきたように思えた。ベスはカーソンに前世のことに終止符を打ってほしいと常々思っていたが、12歳になっても前世のトラウマを語り続ける。
彼女のオクラホマシティ爆破事件の記憶は断片的で、その一つ一つをつなぎ合わせることはできない。断片的な記憶のみでは、前世で彼女が誰だったのかまでは追跡するのは困難だった。ビルには職員用託児所が入っていたため、犠牲になった幼い子供達は19人もいた。
12歳のカーソンは言う。
「前世の記憶が怖いと思ったことはないの。怖いと言うより悲しいことだったと思う。ママが恋しいって思ってたことを覚えてる。えっと、今のママじゃなくて、オクラホマのママのことだけど。」
カーソンが前世の記憶を思い出したのは5歳の時。当時は娘をオクラホマに連れて行きたいとは思っていなかった。しかし12歳になった今は行くべきだと考えている。そして前世や前世の家族のことを手放してほしいと望んでいた。
一方でベスは恐れも感じていたのが正直な気持ちだった。カーソンに事実に向き合えるだけの強さがあるか分からないし、感情に対処できるかどうか分からないからだ。
5歳の頃から母娘の間で前世の記憶についての会話は幾度となく繰り返されてきた。彼女のオクラホマに行きたいという願望に変わりはなく、常にオクラホマシティに行きたいと訴え続けた。前世で覚えている人たちに会いたいと。そして家族に会いたいと悲しがった。
そして12歳にしてカーソンはついにオクラホマに行き、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件ナショナルメモリアルを訪れることになる。カーソンがエントランスに刻まれた文字を読み上げる。
私達は、殺された人、生き残った人、永遠に変わったものを偲ぶためにここを訪れる。ここを去った後も、皆が暴力がもたらす影響を知っていますように。この記念碑が慰安、強さ、平和、希望そして安らぎに寄与しますように。
当時トラックが爆発した道路はリフレクティングプールに改修されていて、9:01と9:03の時の門で挟まれている。これは爆発が起きたのは9:02だったため、その瞬間に全てが一変したことを表している。
事件で亡くなった168人分の椅子も置かれている。これはダイニングチェアの象徴で、被害者が家族が待つ食卓に2度と帰ることができないことを表している。
建物は9階建てだったため、椅子も9列に分かれて配置されている。職員用託児所があったのは2階。そのため2列目に配置されている椅子はほとんどが小さな椅子だった。
「自分が事件が起こった場所にこんなに近いところにいるなんて信じられない。」
カーソンは感嘆した様子だった。母娘は椅子がある場所に腰を下ろす。
なぜこそれほどまでにここ来たかったのかベスがカーソンに尋ねると、彼女は「ママに会うために」と即答した。
ベスが「お母さんが恋しい?」と聞くとカーソンははっきり「イエス」と答える。
「もうあまり悲しいと思う感情はなくなったけど。」
椅子の数を見て、これだけ多くの子供達をなくした家族がいることを実感したベスは、母親として打ちのめされる思いだった。
この子を生んだ母親が彼女をなくした気持ちがどれほどのものだったか想像すらできない。そして自分はその記憶を持ったまま生まれた素晴らしい子とともにここにこうして立っている。
ベスはカーソンに泣いてもいいのだと繰り返し言った。母娘はそこに立ったままベスは娘を抱きしめる。そして二人はただ泣いた。とても感情的な時間を共有した。ベスは母娘で素晴らしい体験をしたと思っている。
オクラホマを訪れた後のカーソンは、何ヶ月も前世の話をしていない。
カーソンは言う。
「親は子供が前世の記憶を持っていることを恐れるべきじゃない。私は前世のことを忘れたりしたくない。すでにもうたくさんのことを知ってるから。今では自分の一部みたいに思ってる。この先も一生一緒に生きていく私の一部。」