『イニシャル・オーダー』 サンプル1
(長編ファンタジー小説『ヴァルキーザ』のエピソード小説『イニシャル・オーダー』のサンプルです。小説本稿の完成までまだ少し時間を要します。お待ちの方、申し訳ありません)
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美しい濃青色の惑星・スヴォール星の大気圏と宇宙空間の狭間を、三機の航宙戦闘機が編隊を組みながら高速で飛行する。
スヴォール連邦空軍のレフ=トーリング少佐たちは、航宙戦闘機「シキラント」を駆って、連邦の空をパトロールしていた。
シキラントの機体は、流線型をした細長い鉛筆状のフォルムで、外観は宇宙空間における低視認性(ロービジ)を意識して、全身暗黒色だ。
シキラントという呼称は、スヴォール神話に登場する不死身の英雄の名前に由来している。
トーリングはかねてから、この機種をとても気に入っており、より新型の円錐形や長葉巻形の戦闘機の登場によってシキラントが相対的に旧式となった後も、これを愛機とした。
この機種は操縦がしやすく、加速がスムーズで快適であり、運動性能も良く、防空戦闘機としては傑作だとパイロットたちからも評価されている。
そのため彼は軍の編成が変わる度にシキラント航空隊への配属を希望し続け、今に至っている。
左右の僚機と歩調を合わせながら編隊を維持しつつ、宇宙服に身を包んだトーリング少佐はコックピットでディスプレイに映し出された計器を集中して眺めた。操縦桿を握る手は安定して動かなかった。
そのとき管制から通信が入った。
「こちら、スヴォール連邦軍東部管区航空管制。6069気圏域を巡回中のDD小隊トーリング少佐…」
「こちらDD小隊トーリング、どうぞ」
「トーリング少佐、ただちに防空モードを取り、現気圏域にて空中警戒待機してほしい」
「了解。何があったか?」
「連盟の統合演習に参加中の当軍艦艇に不審な行動が見られるとの報告が入った。連邦軍はこれより非常警戒体制に移る」
「了解。…DD小隊はここで空中警戒待機する」
三機は高度を上げて後、速度を落としつつ、防空モードへ移行した。