『プロジェクトμ』原版より(2)
命と人為が矮小で儚いことを識り
無窮の宇宙にすべてを委ねるとき
自然の営みの裡に永遠の環を視る
━━ もしも君がミルク・クラウンのように粒子の弾ける瞬間の世界に興味を持ってるなら、高速度カメラは持っていたほうがいいに決まってる。
キャシィはしばらく考えてから、五線譜に、こんな風にペンを走らせる。
━━ でも、それがなくったってかまわない。観察の舞台を少し移してみようとしさえするなら。夜空だったら、もっとおもしろい。そいつは一晩じゅう眺めていたって素敵なカレードスコープだから。そう、大きな窓があるといい。ベランダがあるならもっといいかも知れない。ミルキーウェイのなかで弾けている星々の大小無数の粒子のきらめき。例えば、こんなように想像したらどうだろう。
キャシィが耳をすますと、聞こえてくるのは自分の中の心拍の音。かつて母親の胎内で出会った、心臓の鼓動するリズム。そこに、いつか8ビートのパーカッションがオーバーラップすると、どこからともなく湧き上がってくる旋律が、スキップしながらビートを取り巻いて波打った。ポニーテールの作曲家はハミングしながら、一気に歌詞を書きとめてゆく。そして傍らのベッドでやすらかな寝息を立てている幼子に目をやる。キャシィの微笑んだ口もとに小皺が寄った。
小説『プロジェクトμ』の原版で、1994年制作の
小説『メトロループ ━━ META EMBRYOLOGY』
冒頭部分より抜粋