2024年2月18日に、日本現代詩歌文学館(北上市)の「朗読とトークの会 2023」というイベントで、詩人の小島日和さん、歌人の小原奈実さん、俳人の斉藤志歩さんとともに自作を朗読する機会をいただきました。文学館のYouTubeチャンネルで朗読とトークの動画が公開されています。https://www.youtube.com/watch?v=UilyuiYUeFE&t=5454s
ここでは、朗読した自作のテクストをあげて、少々の解説をします。
〈句集『そら耳のつづきを』(書肆侃侃房、二〇二一)より〉
明日の国の向こうはきっと駐車場
その内に令和はなかったことになる
嘴の代わりについている絵の具
きみも勿論だがむしろ枕がよく戦った
セブン&アイ・ホールディングスの小さな愛なんだ君は
未読の死か羽搏きだけじゃ判らない
エレベーター上昇われらを零しつつ
マグカップで壊せるような朝じゃない
そら耳のつづきを散っていくガラス
〈短律句〉
血の気の多いガム
おい思想だな
サブリミナルみたらし団子
口もとを踏む
奇声緩和へオタマジャクソン
入れものがないマジうける
蘭体動物
百人一首の働くくるま
あすはわが身、おつまみはなとり
〈長律句〉 連作「曜日の感覚」より
R. Mutt の小便器の複製の写真の染み
きれぎれの夢のなかで一貫しているアーケイド
季節をブローチにして貰うつき抜ける雨
小さなスプーンもっと小さなスプーン曜日の感覚
〈連作〉「青い月と赤い星」
愛媛県松山の市街地の北山麓に〈ロシア兵墓地〉がある。日露戦争の際に捕虜となり、輸送中あるいは収容中に亡くなったロシア帝国軍の兵士たちの墓が並んでいる。幾度か訪れたことがあったが、二〇二三年一一月に再訪した際に、墓石わきの小さな故人の名前を示した銘板に三日月や星のマークが彫られているのに、同行人の指摘で初めて気づいた。改めて見ていくと、墓の多くにはロシア正教で用いられる八端十字架の印、次いでローマ・カトリックやプロテスタントで用いられるシンプルな十字架、そして少数の墓には三日月や星が彫られているのだった。故人を悼むだけではなく、それぞれの宗教にも配慮し記録しつづけていることに感銘を受けた。と同時に、「帝国」という枠組みがあったからとはいえ、異なる宗教を信じる人々が経験と場を共有していたことが尊く感じられた。帰宅後、以下の句を書いた。〈ヤーコフ・クライマン〉の銘板にはダビデの星、〈ハジム・シャーエホフ〉の墓には三日月が刻まれている。
ヤーコフ・クライマン、君は柿が好きかい
死んだ昔むかし海がここから見えた頃
露と霜ちらちらと地上の星と月
イエスっていうテロリストが居てね
ラテン十字、八端十字、喉が渇く
皇帝のためのペダルのない自転車
詩と戦争、刻んで混ぜてハイどうぞ
サマルカンドの青だね、ハジム・シャーエホフ
〈近作〉
ワトソンが握るホームズの歯ブラシ
あやとりの塔へジャクソン5の5
〆切というエモい空間
ピーターのピーは自由でターはパン
職業欄が「薬玉割り」のまま死んだ
もうかみそりの踊り喰いだった
断髪式の後でニャーって言っちゃうぞ
チューインガムかと思たらアベノマスクやね
サブリミナルみたらし団子
おニャン子と書いて怖ろしくなりぬ
郵政民営化を思いだす百日紅
ご当地ソングのチープ・パープル
ときどきは知らない人に手を振ろう
驚いて叫んだことが社名になる
マスオさんを魔改造した罰ですよ
おむすびに佐藤雅彦的不安
あきらめてへそを中心に回りなさい
物真似はすべて神への導火線
ケツの穴から手ェ突っ込んできれいに洗う国会議員
二十億光年の孤独の会
家という漢字に豚が居ませんか
お前、昨日のアーティチョークだろ
句そのものが煙のようだ
〈時事句〉
引力で落ちたわけじゃない林檎
* 「よみうり時事川柳」(『読売新聞』(大阪版、2021年6月30日)掲載。2021年6月23日に廃刊させられた香港の新聞『蘋果日報』(ひんかにっぽう、通称リンゴ日報)についての句。
「朗読とトークの会 2023」では朗読の後、文学館の濱田日向子さんご司会による「トーク」もありました。「トーク」とある通り、くつろいだ感じで話させていただきましたが、各詩型についても本質的な話ができたかと思います。こんなトピックが出ています。
58:15~ 詩歌における音について
1:04:10~ 作品の朗読について
1:10:50~ 別ジャンルで書くときの意識の違い
1:16:20~ 「名詞」中心か「動詞」中心か
1:23:30~ 詩を書き始めたきっかけ
1:33:10~ 今後の創作活動について
1:36:10〜 質問「なかなか言葉が出ない、作品を書けない時はどうすればよいか」より
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