あさひ市で暮らそう75話 軽快とは言い難い
竜王まつりから数ヶ月前の話。春に袋公園で開催された『こども花まつり』で自分が作詞した『いがっぺ音頭』が多くの人が笑って聞く歌であったことに喜びを感じた水萌里は次はあさピーの歌を作りたいと考えていた。あさピーは言わずと知れた旭市のマスコットキャラクターだ。
「子どもたちが踊ってしまうような歌にしたいわ」
水萌里は笑顔を浮かべながら詩を書き始めた。
『お日様浴びたトマトたち
子どもの定番オヤツだよ
みどり輝く野菜たち
みんなの健康見ているよ
海の恵みの魚たち
ピチピチ新鮮めしあがれ
だから、私帽子になっちゃうよ
ならね、わしは翼になっちゃうぞ
ほらね、僕はしっぽになっちゃって
あさピーとずっとずーっと一緒だよ
お米もうまくて肉もうまい
旭を応援している
とっても住みよい街だから
ニッポンいちを目指しちゃおう
あったかくって平たくて
海も大地も友達さ
だから、僕がいつも応援するぞ
だって、大好きなこの街だから
ほらね、楽しいまぶしいあさひだよ
お日様サンサンキラキラ輝くよ』
そうして書いた詩を誰に託すか悩んだが、歌の特徴的に女性作曲家に頼みたいと考え、友人のさゆりに依頼した。さゆりはギターリストシンガーしゅまりと『キャンバス』というユニットで活動している。返事一つで引き受けたさゆりから戻ってきた歌『あさピーといっしょ』はお遊戯会や舞台で子どもたちと楽しくダンスしたくなる歌になっていた。
「ねえ! 早速なんだけど、竜王まつりでこれを歌ってくれないかな?」
水萌里が目をキラキラさせてキャンバスにお願いするとびっくりした二人だが笑顔で了承してくれた。
とういうわけで、竜王まつりでは、Sometimesの『いがっぺ音頭』とキャンバスの『あさピーといっしょ』が歌われたのだが、そこで子どもたちがノリノリで体を揺らしている姿を見た水萌里は喜びで目元にハンカチをおいていた。舞台ではあさピーまでもがキュートなダンスをお披露目している。
バックにあさげーのモンゴルマン、平山爆風、すずきらなによるアートパフォーマンスも輝いていた。
『あさピー、この歌知らないはずなのに!! すごく嬉しい!!』
水萌里の興奮が冷めやまぬ中、続いては子どもたちが舞台脇にスタンバイした。ダンスチームには違いないが、チアリーディングチームとは異なり、10人前後で衣装が違う。年齢別なのかと想いきや、そういうことでもないらしい。その中でも年上の子どもたちが舞台の最前列の地面にロープを張るとそこにはナンバーがふられていた。そして、パフォーマンスが始まると子どもたちが同じ衣装のチームで舞台に立った。
『なるほど! あのナンバーは立ち位置の目安なのね』
感心した水萌里であったが、それはダンスをやらない水萌里の想像より上の使い方であった。子どもたちはダンスの最中もポジションが入れ替わり立ち替わりするのだが、その位置もナンバーを確認しながら等間隔で披露できるシステムになっていた。
チーム名が担当コーチの名前であることも水萌里には微笑ましく感じる。
『先生と子どもたちの距離や信頼が伺えるわ。きっと先生を大好きになるでしょうね』
一生懸命に踊る幼い子どもたちも、華麗に踊る年嵩の子どもたちもキラキラしていると水萌里は感じていた。
『団体競技を子どもの頃に学ぶことはプラスばかりのようだわ』
礼儀正しい子どもたち、下の子どもに声をかけたり教えたりしている年長少年少女たち、それにきちんと従う幼い子どもたち。挨拶や集団行動を学ぶことで協調性だけでなく心の教育にもつながっている様子が見て取れた。
そのチームKDSは旭市と銚子市、神栖市でダンススクールを運営し、こうして地元を中心に、年間沢山のイベントに参加している。
創立から27年で多くの卒業生を輩出しているが、その卒業生にはプロダンサー、バックダンサー、インストラクター、アイドル、保育士、学校の先生等、ダンスに関わりを持つ仕事をしている者も少なくない。
さらに現在のコーチ陣は現役ダンサーとしての活躍はもちろん、親身に指導してくれるので、生徒との距離感も近く、アットホームなスクールである。
週30以上あるレッスンはジャンルもさまざまで、JAZZ・BREAK・HIP HOP・GIRLS・LOCK・R&B・HOUSE・アクロバット・FREESTYLEなど、好きなものが選べて楽しく学べる環境が整っている。
最近ではZUMBAやヨガも始め健康目的での受講者も増えているようだ。
KDSの演技を見ている最中、ふと舞台の反対端に大きな体が揺れているのが水萌里の目に止まった。
『あら? 一夏さん、来ていたのね』
それは水萌里の友人一夏だ。
『………………』
水萌里は一夏の様子を見て絶句した。KDSの音楽とダンスに合わせてリズムを取ろうとしていることは理解できる。だが、いかんせん、ズレている。腕の動きと足の動きがチグハグでどうにもかっこいいとは言い難い。
『かえって「その方が難しいのでは?」と思わせるほど不思議な動きだわ』
最初こそその姿にあきれびっくりした水萌里だったが、コロコロとした一夏が揺れている姿になぜか和んだ。そして、ゆっくりと一夏の方へと歩いていった。
一夏と合流し向かったのはアクセサリー『Lapin』とお菓子屋さん『リトルミィ』だ。
「さっきの歌、この子が作ったのよ」
「え、あ、いや、まあ、そうなんだけど……。一夏さんの言葉を聞いて浮かんだ詩だから」
いきなり二人に紹介されて水萌里は驚いたが、二人も面白かったと言ってホッとしていた。水萌里は一夏といっしょにアクセサリーを選び、家族へのお土産にマフィンを買いこんで帰宅の途についた。
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キャンバス様
ダンススクールKDS様
Lapin様
リトルミィ様
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