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あさひ市で暮らそう67話 龍王伝説

「私! 旭を元気にする歌を歌うユニットさんを知ってます!」


 あさげー定例会議で勢いよく挙手をした水萌里が喜んで協力することにしたのは5月26日、飯岡しおさい公園で開催される『竜王まつり』だ。


 飯岡は『竜王』に見守られている。


「いつ見てもかっこいいなっ!」


 ある日の早朝、洋太は防波堤に描かれた龍王を見てニカリと笑うとその壁を登って海を見つめた。


「海の大神様に似ていらっしゃるのかなぁ……」


 水平線の手前が大きく揺れて、まるで洋太に挨拶をしているようにきらめき、洋太は大きく手を振る。


 旭市飯岡地区には、大和武尊やまとたける(日本武尊やまとたけるとも云われている)が海難に遭って上陸し、玉崎神社に海神の娘玉依姫を祀った伝説があり、「竜王のしずまり坐す崎」という言葉から竜王岬と名付けられたという。古来、海上鎮護、漁業の大神として地元に愛されている。


 東日本大震災で津波にあい、多大な被害となった飯岡浜はその教訓を活かし長い長い堤防を築いた。しかし無機質な堤防は地域の人々に安心安全をもたらした一方で、海の風景を人々の視界から遮ってしまった。

 その閉塞感を彩ろうと飯岡海岸で毎年開かれる花火大会を運営する旭市いいおか YOU・遊フェスティバル実行委員会のメンバーは旭市出身の画家すずきらなの協力を得て、100メートルにもわたる龍王の壁画に取り組んだ。「この海岸堤防に海の守り神の竜が集まってくる場所として、未来への希望や夢をその竜に乗せて、この壁画に新たな物語を」という願いを込めて題材を決めた。飯岡荘の前にあるそれこそは洋太が見ていた壁画の龍王である。

 すずきらなは「この壁画は多くの人の手で完成させたい」と心に決めていた。地域住民が見守る中、壁画実行委員会「海岸堤防から未来を考える会」だけでなく、子どもたちや匝瑳高校美術部員の協力も得て進めていく。 

 当時の旭市長と子どもたちが描かれた虹に手形を押し完成させたとき、大震災から七年の月日が経っていた。そしてそれは子どもたちにとって、海と砂浜、自然の大切さや震災に対する知識と意識を知る場所として、また旭市の海岸堤防を観光資源としてPRすることで、震災復興、防災を考えるきっかけとして威風堂々と存在する。

『龍の背に乗れる場所』として絶好のフォトスポットとなった。

 

 龍王伝説があるゆえ、飯岡地区にはその名のイベントがいくつかある。


 その一つ「竜王まつり」は2023年春、飯岡漁港で行われた。これは「あさひの芸術祭実行委員会」通称「あさげー」の立ち上げ祭りオープニングイベント。飯岡漁港のビーチクリーンからスタートした。

 

 小気味いいお囃子が鳴り響けば自然に心躍り湧き立ち、人々が集まるとアートパフォーマンスが始まる。真っ白な壁にアーティストたちが次々に入れ替わり、その壁は表情を変えていく。バックミュージックにはサックスの生演奏。ここでもすずきらなは鮮やかな色使いで見る者たちを魅了していく。


 キッチンカーも多数出店し、テント出店もいくつもあり、さらには縁日ブースやあさげーアートワークショップまである楽しいイベントとなった。


「飯岡で2024年も『竜王まつり』をやりましょう!」


 飯岡をこよなく愛する永井たかよしがあさげー定例会議で声をあげ、準備の始まった竜王まつり。2024年5月26日。飯岡しおさい公園にて開催が決定となる。昨年より多くのブース&パフォーマンスが集まることになり、あさげーメンバーも協力し、きっと楽しい一日になるだろう。


『Sometimesさんに歌ってもらって、その隣であさピーが踊ったらきっと楽しくなるわぁ!』


 水萌里はすでにウキウキし始めた。


 龍王をかんするイベントはこれだけではない。2024年新たなイベントが産声をあげた。


『復興綱引き 龍王戦』は能登半島地震の復旧復興を応援するため募金チャリティーとして『旭こども応援隊』が主催したものだ。百メートルの大縄を使い飯岡の浜で老若男女問わず綱引きをする。


「いつかギネスに載るくらい人を集めたいよね」


 代表をつとめる石橋保は日本画家として活躍する旭市民である。


 石橋の言う「ギネス記録」とは沖縄県那覇市でもよおされている『那覇大綱挽』のことである。500年の歴史があるとも言われているそれは、200メートル40トンの綱が引かれる。延べ二十七万人の観光客を集める一大イベントだ。


 第一回目である今回は百人ほどが集まり、石橋の司会進行で三回戦行われた。


「すごく楽しかった!」


 参加者にくばられたおにぎりを頬張る子どもたちは嬉しそうに「またやりたい」と語った。


 堤防の上からその様子を見ていた洋太が後ろを振り向くと東日本大震災の津波により一階部分が浸水したが見事に復旧した『飯岡荘』がある。


「ここも復興したんだ。きっと能登半島も大丈夫」


「今の俺達にできることをやろう」


 真守が洋太にお金を渡すと洋太は駆け足で受付テントに向かい募金をする。そして、洋太が戻ってくるとその手にはおにぎりがあり、二人で海を見ながら食べた。


 ☆☆☆

 すずきらな様

 旭市いいおか YOU・遊フェスティバル実行委員会様

 海岸堤防から未来を考える会様

 竜王まつり実行委員会様

 あさひの芸術祭実行委員会様

 永井たかよし様

 旭こども応援隊様

 石橋保様 

 

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