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65.6gの誘惑と罪悪感

まだセミが鳴いていたある曇りの夕方。


ベランダにキャンプ用チェアを出して、ゆっくりと腰を掛ける。まるでキャンプ場に来たかのような臨場感を味わいながら。


糖質65.6gのメロンパンと共に罪悪感の夜風に当たる。わたしが心を閉ざしているだけで、菓子パンに罪はない。たまに口にするくらいが丁度いい。

カァカァ。邪悪極まりない黒い鳥が街中に鳴き声を響かせ、隣のビルへ降り立つ。着地しても尚、鳴いている。独りが寂しいのだろうか。

「カラスは友達」

そんな発言をすれば非難されそうなので控えるが、いつからか不吉な動物とは感じなくなった。


曇った殺風景な空。あの遠くにある雲と0距離であれば、人差し指でポッと触れるだけで隙間ができ、きれいな夕焼けが見えただろうか。

殺風景。初めてその言葉を目にした時、『殺人現場』という四字熟語がふと浮かんだ。それから数週間、悲惨な情景が渦のように脳内をかき巡らせることとなった。体内を循環する血液のように。

次の国語の授業を迎えると、その姿はなかった。


半分食べ終えた頃、100m程先にあるマンションに視線を移し、眺める。遠近法でビル群が近くにあるように見えたのは錯覚。


学校や仕事帰りの足音。雑談する声。自転車を漕ぐ音。犬の吠える声。ビルの間を走る風の音。車の疾走音。

全てが生きていて、愛おしく感じた。


ベランダを後にすると、部屋は少し冷えていた。


夕食を食べる家族の前で、脳裏に焼きつけた文章と言葉たちをスマホに書き留める。お腹が膨れて眠たい気持ちと忘れぬうちに書きたい気持ちのせめぎ合い。自室に行けば即ゴロン状態になると予測していたので、リビングに甘えた。これが私の最低限のアイデアだった。


また負けた。家族が手を差し伸べるチップスの誘惑に。ギザギザとしたそれは、不覚にも昔の洗濯板にしか見えなかった。本題の味はチーズ味。これがまた錯覚なのか、高級和牛の味がした。安上がりをした気分。後に残るのはチーズと罪悪感。


メロンパンを食べると視覚も味覚も馬鹿になるのか。はたまた、変化の楽しみを与えてくれているのだろうか。ポジ思考なので後者を選んだ。どちらにせよ、メロンパンもチップスも悪くない。


味がマンネリ化してきたので、ロゼワインで口直し。「せーの、カチン」。母と私だけの乾杯の合図。キッチンで頂く場合は「チン」で済ませる。

キッチンだけにね、と自分に言い聞かせ、口の中へ。甘さが私を包み込む。それはとても優しくて、優しい。優しすぎる。

訳あって、お酒やワインの量は控えている。二十歳で飲む予定だったノンアルの缶を1年先まで残しておくほど。試飲程度が丁度いい。

ディティクティブボーイがお決まりの言葉を放った頃、わたしの食事は終わった。ゆっくりしすぎたようだ。



「チートデイ」ということで事を収めよう。



※わたしが描いたイラストです

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um.ゆむ
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