墓参り(創作)
冬至。今日は冬至らしい。
お盆は仕事が忙しくて帰れなかったので、うだうだ引き伸ばしてたらこんなに寒くなってしまった。ここは山奥だし虫が苦手な私は、墓参りと言えど行くのが億劫になってしまった。今年も1年終わるな。短いようで長くて新しいことの多い1年だった。しみじみと感じながら手を合わす。小さい135mLのビール缶と、彼の好きだったお汁粉をお供えした。天国でも地獄でもいいから待っててくれよ。早くそっちに行って会いたいな。そう願って。彼が生きてた頃の記憶はほとんど曖昧になってしまうくらい過去のことになってしまった。でも、好きな気持ちは全然薄れてない。ビデオカメラで撮ったが大昔のイルミネーション。アルバムにある思い出が、私を少しずつあの頃に戻してくれているみたいな、そんな気がして。彼に夏場いけなかったことを謝り、今年も1年元気に過ごせて良かったよありがとうと声をかけた。
墓場の少し下の公園では、小さな子供が雪合戦をしてる様子が見えた。彼がもし、今も生きてたら子供はいたのかな。本当は昔子供がそんなに好きじゃなかった。彼が好きだと言ってたから、思わず私もなんて言ってしまった。今思えば、良い選択だったのかもしれない。でも本当の本当は彼との子供なら私も、愛してあげられたのかもしれないな。
少しして、体が冷えてきたので帰ろうとお墓の掃除用具を片付けていると、隣にある神社の神主さんから声をかけられた。
「寒い中ご立派ですね。良ければ少し中でお休みになりませんか?」
私は山を昇って少し、疲れてたこともあり、喜んでひきうけた。
この神社の中に客間があり、そこに案内された。
「にしてもこんな時期にお墓参りだなんて、珍しい方もいるもんですな」
変わり者ということか、少し傷ついた。神主さんは続いて、
「馬鹿にしてるわけじゃないんですよ、なにかご事情があったのでしょうね。最近は墓参りにいらっしゃる方も減ってきましたから、あなたのようにたとえ時期じゃなくても来て下さるのはありがたいんです。」
少し嬉しくなった。なにか責められるんじゃないかと思ってたから、いいひとで良かった。
「実は、夏場行こうと思っていたんですけど、どうしても億劫になってしまって、毎年結局この時期に来てしまうんです。」
私は少し強ばって、入れていただいた緑茶を飲みながらバカ正直に言ってしまった。
「いいんですよ、あなたが毎年きてくれてよろこんでらっしゃるんじゃないですか」
なんだか先程の億劫だった気持ちが緩やかに消えていくような感覚がした。
「今年ももう終わりですね、年々早く感じます。なんだか勿体ないような気もするんですが、その方がいいような気もして、歳をとるってそういう事なのかな。」
世間話をするつもりだったのにいらないことを口走ってしまった。寒い雪の日だから、暖かい緑茶がよく沁みる。
「私ももう歳ですから、1年なんてあっという間ですよ、この歳になれば死ぬ後の事ばかり考えてしまいます。暗い話ですが、それはきっと、未来にも繋がっていますから、いずれにせよ前を向いてるんだなんて考えてるんですよ」
ああ、この人はとても良い人生を歩んでいるんだろうな。否定せず緩やかに肯定して暖かさを与える。うらやましくなった。私ももう若くないなと思ってたけれどこの人も先を見て、前を向いてるんだと勇気づけられた。
やっぱり墓参りに来てよかった。つい先程まで今度は夏に来たいななんて思ってたけれど、冬の寒い日もいいかもしれない。来年も元気に来れたらいいな。
「そろそろ帰ります、日も落ちてきましたし。お話聞いていただいて、ありがとうございます。なんだか穏やかな気持ちになれました。」
今日はいい日だな。帰ったら昨日の残りのシチューをグラタンにして食べよう。あ、そういえば彼に初めて振舞った料理もシチューだったっけ。
「そうですか、私もいい時間を過ごせました。少し早いですが、良いお年を」
神主さんはそう言って微笑んだ。私もつられて微笑み返し、良いお年を。そう一言言い神社を後にした。
帰り道、彼とイルミネーションに行ったことを思い出した。クリスマスの次の日、12月26日だった。平日の夜だったからか、ほとんど人がいなかった。世間のクリスマスムードが去り、いよいよ年明けだという雰囲気に移り変っていた。今日のうちに撤去されるであろうサンタクロースやトナカイ。わたしは彼に来年はクリスマス当日に行きたいね。なんてなれないことを言った。お互い人混みが得意ではないし、イベント事を毎度張り切って準備するタイプでもなかったのに。私の言った冗談みたいなことに、彼は真面目に今から休み取るなんて言い出した。しかし結局その次の年は私の方が休みを取れず、デートの格好もオシャレも出来ずにスーツでイルミネーションを見に行った。申し訳ないなと思いながら待ち合わせ場所に向かったら、彼もスーツを着ていた。私は思わず一番に、どうしたの?仕事あったっけ?と私は不思議そうに聞いてしまった。気が立ってしまったかな、仕事だったなら疲れているだろうし、なんて考えてると彼は
「服装に迷っちゃってさ、思い切って合わせちゃおっかななんて」
笑いながら彼は言った。それが本当に嬉しくて嬉しくて私はニヤニヤしながらありがとうとハグをした。2人ともシャイな性格だから、普段は外であまりしないのに今だけ、このイルミネーションの中だけ許されるような気がした。イルミネーションの中を歩いた後に、ホームアローンのレイトショーをみて、今年もありがとうと言い合いながら、お高めのレストランでシャンパングラスを交わした。この人となら本当にどんな事でもできると思っていた。いや、今でも思ってる。
彼にまたいつか会えるだろうか。お墓参りに行くと少しら肩が軽くなるような気がする。天国は楽しいだろうか、私の墓参りに来てくれる人はいるのかな。
そんなことを今考えても無駄だといつもは思うけれど、神主さんの言った言葉がまた心に沁みる。帰り道、雪の中に強く咲く椿の花が、今はとても綺麗に映った。まだ死ねないな、そっちにはいけなそうだよ。彼がいつも買ってた自動販売機にあるおしるこを飲みながら、また少しずつ歩き出だした。