Twitterで話題の「ライフジャケット」激推し県庁を直撃。中の方=岐阜県河川課に29個のQ&A誕生秘話を聞きました。
「A.ライフジャケットが絶対に必要です」
「A.非常に危険な行為であり、重大な事故に直結します…」
など、ライフジャケットの着用必須と水難事故のリスクを強く訴えた、熱い岐阜県公式サイトがTwitter上で話題となったことをご存知ですか?
(https://www.pref.gifu.lg.jp/shakai-kiban/kasen/kasen/11652/suinanqa.html)
「水辺の事故をゼロにする」という目標を掲げる私たちと想いを同じくされている方達にぜひお話を伺いたい!と、早速インタビューのご協力をお願いした所、快諾いただき、水辺という共通点をもつ河川と海の初コラボインタビューが実現しました!
お話してくださったのは、岐阜県土整備部河川課の鈴木宏一郎さん。今回話題になったWEBページの誕生秘話を含め、河川課が取り組まれている活動、そして軸にある想いについてじっくりお話を伺いました。
(プロフィール)
岐阜県土整備部河川課
鈴木宏一郎さん
岐阜県では、平成30年7月豪雨を受け、中小河川における水害時の避難対策を強化し、水害リスク情報などを積極的に発信。2020年8月、ライフジャケット着用を連呼する「水難事故等に関するQ&A(よくある質問)」ページが話題になり、ニュースなどで取り上げられるなど注目を浴びた。鈴木さんは令和元年7月から河川課長。
川とのふれあいが多い地域だからこそ、取り組み続ける水難事故リスクに関する普及啓発活動
—話題になったライフジャケットのページについて早速お聞きしたいところではありますが、まず、普段されているお仕事について教えてください。
鈴木:
私が所属しているのは県の河川課で、いわゆる河川管理、改修などにかかる仕事をしています。河川の環境に配慮した自然共生の川づくりや河川で遊ばれる方向けの安全利用の呼びかけなども行っています。
河川は自由に使用することができる場所なので、水辺には個人や団体、さまざまな方がいらっしゃいます。釣りや川遊びなどを楽しんでいるような状況下で、不幸にも事故は発生してしまう。そうした事故をできるだけ減らすために普及啓発活動をしています。
—子ども向けの普及啓発活動などもあるのでしょうか。
鈴木:
河川のことを知ってもらうために、出先の土木事務所(県内11箇所)が河川での出前授業を小中学校の学生さんと行っています。県内すべての学校というわけではありませんが、全域で長期的に継続している取り組みです。
河川の環境を紹介したり、実際に川の中に入って川を見て知ってもらったりする以外に、水害から地域を守るということが仕事の軸でもあるので、防災に関することなども紹介します。
—岐阜県では、川に出かける人は多いのですか?
鈴木:
川に出かける人は多いように思います。県庁所在地であり県内で一番大きな街・岐阜市は、市の中心に長良川が流れています、広い川原があるので川釣りしたり、街中でも川遊びをしている様子が見られます。さらにもう少し上流でも、県内からだけではなく、名古屋といった県外からお越しになっている方も多くいて、たくさんの方が川とふれ合っていらっしゃいますね。
ライフジャケット着用をひたすら訴えた29個のQ&Aは、職員同士で頭を絞って考えた
—話題になったWEBサイト上でのライフジャケットのPRの前にも、水辺の危険への注意喚起やライフジャケットの普及啓発はされていたのですよね。今回なぜ、こちらに舵をきったのですか?
鈴木:
もともと、注意喚起のためのページは河川課のウェブサイトに設けていました。そこで呼びかけもしましたし、実際に河原などの現場にでて、遊んでいらっしゃる方にチラシを配ったりもしていました。私自身20年くらい河川関係の仕事をしていますが、「河川を管理する者からすれば、ライフジャケットをつけないということはありえない」という想いから、ライフジャケットの着用自体はずっと呼びかけてきたんです。
ただ、河川の使用は自由なので、ライフジャケットをつけないと違反ということにはならないんですね。そのため、呼びかけが限度ではあるのですが…。
—そして、今回の呼びかけですね。
鈴木:
岐阜県は、長良川、木曽川、揖斐川など周囲を囲う山脈から豊かな水が多く流れている地域です。こうした立地条件の中で、水難事故に遭われ、不幸にしてなくなられる方が毎年一定数いらっしゃいます。
先ほども申し上げた通り、河川は自由使用です。ライフジャケットの着用など命を守る行動を法律で規定することが難しい中で、なんとか命を救いたいということで今年、メンバーの中でこうしたことをやってみようということになりました。
―川は、行って水の力を実際に経験しないとわからないことが多々あると思います。それをどうわかってもらうかという時に、あんなに臨場感ある、光景が目に浮かぶようなことをよくぞ言ってくれた!という感じがしました。
鈴木:
ありがとうございます。おっしゃる通り、川に初めて入る方は、川がどういうところかわからない方が多いんですね。わからないまま、プールと同じような感覚で入ってしまう。川は流れがありますし、底が浅そうに見えても深かったり、河原の石に苔がついていてすべる、流れも急で渦を巻いているところがある。そういうところだと十分にわからずに入ってしまう方が多いと思います。
そういった方々に対して、できるだけ「危ないんだよ」ということを伝えるためにはどうしたらいいかと思案して、具体的な表現で伝えることにしたんです。
―職員の方で作られたのですか?
鈴木:
そうです。1人が大枠の案を考えつつ、みんなで意見交換をしていきました。
―すごい想像力ですね…!Q27の質問(川遊び程度でライフジャケットを着用するのは、何だか恥ずかしいような気がするのですが?)などは、私たちがライフジャケットの推進活動をしていてもよく言われることです。恥ずかしい気がする、つけない方がたくましく育つんじゃないか、大げさじゃないかとか…。
鈴木:
そうですよね。でも、やはりどうしたらつけてもらえるかということを念頭に置きながら、川で起こりうることやライフジャケットをつけることへの壁を少しでも取り払ってもらえるようないろいろなパターンを一生懸命、頭を絞って考えました。
―川が身近で、かつ事故が多いということもあると思いますが、ここまで言うぞとなったきっかけが何かあったのでしょうか。
鈴木:
私たち自身が事故の数を少しでも減らす、最終的には水難事故で亡くなる方をゼロにするということを目指しているので、とにかく見てもらえるものをWEBサイトで公開しようと考えました。いかに読んだ人の印象に残せるか、より身近に感じて自分ゴトとしてもらえるかというところですね。
おかげさまで、地元の放送局さんがニュースで流してくれたり、WEBでニュースになったり、いろいろな団体さんを通じて自分たちの呼びかけが広まっているという実感があり、うれしく思っています。
自然の中に身を置くということで、人はいろんなことが学べると思います。だからこそ、川のリスク、危険をしっかりと理解してもらうということが重要です。しっかりと理解したら当然、リスク低減につながるライフジャケットは身につけて入るというところになっていくのだと思います。
私たちにできることは限られますが、自然の中でいろんなことを学んでいただき、河川に興味をもってもらいたい。そして、危険を理解して道具を身につけてもらうということを引き続き呼びかけていきたいと思っています。
水難事故防止のための普及啓発活動をより多くの人に広めたい
―子ども向けの講座は行われているということでしたが、普段の普及啓発で行われている通り、大人自身の知識・経験も重要だと思います。
鈴木:
そうですね。県では特に親向けの活動は行ってはいないのですが、河川財団さんが行われているような指導者講習会などを受講してもらうなどもあってもいいのかなと思っています。
―いいアイディアですね!パパママ教室などで自然を学ぶことができたらよいですね。今後、展開されていきたい活動内容などはありますか。
鈴木:
今回、WEBであのような呼びかけをして今更感があるかもしれませんが、SNSなども通じてより広く呼びかけをしようと考えています。ちょうど少し前に、河川課のTwitterアカウント(https://twitter.com/gifu_kasen)も開設したので、より多くの人に届けられるように努めたいと思います。
また現在、水難事故防止については河川管理者だけではなく、各土木事務所単位で関係機関と水難事故防止等の検討も行う河川安全利用推進協議会を設置して取り組んでいます。そこには警察や教育委員会、川の利用という意味で漁協さんや関連団体などが集まっています。今後も、こうしたさまざまな団体と連携して、広く展開していきたいと思っています。
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鈴木さん、ありがとうございました。
お話の中で教えて下さった通り、岐阜県は地図で見るとまわりが山脈だらけで大きな川が何本も流れ込んでいる地域。そして悲しいことに、事故の件数が多い地域でもあります。でもだからこそ、「どうしたら事故を少しでも減らしていくことができるのか」を考え抜いたということがよく伝わってきました。こうした臨場感あふれる、思わず目をとめて読んでしまうような普及啓発がもっと広がればよいなと思います。
岐阜県土整備部河川課の水難事故等に関するQ&A
https://www.pref.gifu.lg.jp/shakai-kiban/kasen/kasen/11652/suinanqa.html
岐阜県県土整備部河川課の公式アカウント
https://twitter.com/gifu_kasen