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今までにない、ユニークを極めた「寿司ライフジャケット」が完成! 子ども用ライフジャケットのデザインにチャレンジした武蔵野美術大学の学生アートチーム「さんにん」に制作秘話を聞きました

これまでに本noteでもご紹介した水辺の安全に関わるメンバーたちが結集し、発足した「子どものライフジャケット普及プロジェクトチーム」。このたび、このプロジェクトチームがオリジナルライフジャケット「寿司ライフジャケット」をデザインしたということで、早速その制作秘話を聞かせてもらいたいと思い、インタビューを行いました!

今回、インタビューに応じてくださったのは、ライフジャケットをデザインした現代アートチーム「さんにん」のメンバーである平山美桜さん、坂上桜月さん、藤原珠莉亜さん。精力的にアート活動を展開しているさんにんさんに、プロジェクト参加の経緯や寿司ライフジャケットが完成するまでの制作過程について、詳しく教えてもらいました。


(プロフィール)
現代アートチーム「さんにん」
2019年結成。3人とも武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科に所属する学生3人(平山美桜、坂上桜月、藤原珠莉亜)のアートチーム。


寿司ライフジャケットをデザインした
アートチーム「さんにん」とは?

―本日はありがとうございます!早速ですが、まずはみなさんのことを教えてもらえますか?

坂上:
3人とも、武蔵野美術大学造形学部の空間演出デザイン学科の4年生です。平山はファッションコース、藤原が環境計画コース、私はインテリアデザインコースと異なるコースを専攻しています。

―「さんにん」というチームを組んだきっかけは何だったのでしょうか?

坂上:
1年生の時、大学で行われる芸術祭の催しである抽選制のフリマ企画に応募した所、私たちのチームが落選したんです。基本的に落ちないはずの抽選なんですけど…(笑)。やることがなくなってしまったので、それならとアートチームとして外部の公募展に挑戦し出したのが活動の始まりです。

―ユニークな結成経緯ですね(笑)。結成後は、どんな活動をしてきたんですか?

平山:
展示会場で、3人で鏡張りの床に1時間ひたすら描き続けたニコちゃんマークを来場者に足で消してもらって、露出した鏡面に映った自身の姿を見て自己を見つめ直してもらう「THE・ニコちゃん」という作品や、街中で盗んだ会話を付箋に記録して壁一面に並べて貼り、場所と時間が異なる会話が並ぶことで新しい会話が生まれる面白さを表現した「会話ドロボー」という作品などを発表してきました。「会話ドロボー」に関しては、SICF準グランプリ・難波佑子賞を受賞させていただきました。

―どちらも発想豊かで面白い作品ですね!3人でこうした作品を生み出すことの魅力はどんな所にあると思いますか?

平山:
一人じゃ考えられない発想が会話の中で生まれたり、そういった偶然の発見があるのがいつも面白いなと思いますね。

坂上:
普段の授業の課題ではできないような、大きな作品も3人なら制作できます。これまでも自分たちの表現ができるということが楽しくて、いろいろな公募展にチャレンジして続けてきたという感じです。


知識ゼロからはじまったライフジャケットデザイン

―そんな活動をする中で、今回の「子供のライフジャケット普及プロジェクト」の話が舞い込んだわけですが、きっかけはプロジェクトの立ち上げメンバーであり、一般社団法人吉川慎之介記念基金の代表理事である吉川優子さんだったそうですね

平山:
吉川さんは本校の卒業生で私の親とも同級生でもともと知り合いだったんですよ。チームの3人以外の誰かと組んで一緒に何かをつくる経験はなかったので、今回吉川さんからお話をいただいて、新しいチャレンジとしてぜひ挑戦したいと思いました。

―当初、皆さんにとってライフジャケットはどんな存在でしたか?

藤原:
これまで着たこともなかったですし、正直、ラフティングで誰かが着ていたり、プールの監視員さんが着ているといったイメージしかなかったんです。

平山:
そもそも3人とも「海大好き!」な超アウトドア派というタイプではないので…(笑)。全員知識ゼロの状態でプロジェクトに着手した状態でした。

―そうですか。知識ゼロの状態で、まずはどんなことから行っていったんですか?

坂上:
最初は、世の中にどんなライフジャケットがあるのか調べることから始めました。調べた後は、まずは良し悪しは考えず、自由な発想を優先していろいろな案出しを全員でしていきました。

平山:
バッグに変身するライフジャケットやレゴのようにつなげて遊べるものとか…。今振り返ると、何も知らないからこそ出せたアイデアも結構ありましたね。

―アイデア出しは、どんなことをポイントにしたんですか?

藤原:
いつもチームでアイデアを考える際は、ちょっとしゃべって偶然出てきた面白い、楽しいと思うワードを引っ張ってきて、詰めていくんですよ。だから、今回も楽しさという点はポイントにしていましたね。あとは、子どもが好きそうなもの。たとえば、誰かになりきれる仮装系のアイデアは多かった気がします。

平山:
遊び要素があるといいねという話になって、そこから発想を広げていきました。

―吉川さんをはじめ、プロジェクトの関係者にアイデアを見せた時はいかがでしたか?

坂上:
本当に自由に発想したので、否定されるのではないかと恐る恐るお見せして(笑)。でもそんな心配に反して、皆さん「これもありかも!」と前向きに捉えてくださって、新しいアイデアや視点もたくさんいただけました。

選ばれたのは、さんにんらしさを表現できる
着て、見て、楽しい寿司ライフジャケット

―(案を見せてもらいながら)結構な数のアイデアを出されたんですね…!アイデアの絞り込みは、どのように行ったんですか?

藤原:
メーカーさんに具体的な意見をいただきながら、実現可能性と安全性をポイントにアイデアを絞っていきました。そして最終的に、パターン(柄)のデザインというのが、一番実現可能性が高いということで寿司のデザイン案を選びました。

平山:
それに、お寿司はいろいろなネタがあるし、子どもが複数人いた際にみんなが着たくなるんじゃないかなと思って。プロモーションの見せ方についてもさんにんらしく表現できそうだし、みんなが納得して決まった感じですね。

―ちなみに、どんなプロモーションを考えていたんですか?

坂上:
ライフジャケットの着用時、仰向けが安全な姿勢ということを調べて知ったので、子ども達が自然と浮く姿勢になれるように、仰向けになった時に見せたくなるデザインにしました。着用して仰向けになると、寿司ネタが水に浮いているように見えるんです(笑)。ちなみに、背中側はシャリをイメージしたデザインにしています。

平山:
プロモーションとしては、回転寿司みたいなものがあったら楽しいねとイメージしていたんですよ。

―流れるプールで浮いていたら、まさに回転寿司ですね!これは着ている人だけでなく、見ている人も楽しめそうですね。ちなみに寿司ネタは、どのように決めたんですか?

坂上:
卵や鮮やかな色のネタなど、子どもが好きそうなネタを第一に考えました。

藤原:
卵は黄色と黒でちょうど安全注意の色にも重なりますし、目立っていいよねと。目立ちやすさもネタ選びのポイントでした。


1着を丸2日かけて手縫いで制作
「3人だから完成させることができた」

―デザインが決まり、何度かのブラッシュアップを経て、最終デザインに落とし込んでいったそうですが、デザインするにあたってむずかしかったのはどんなことですか?

坂上:
デザイン自体は結構すんなり制作を進められたのですが、できたパターンを印刷した生地をライフジャケットの形状にそって手縫いしていく作業が一番大変でした。

―手縫いで!それはかなり大変ですね…。

平山:
本プロジェクトの関係者の方達から使用済の子ども用ライフジャケットを譲っていただいて。撥水加工の布を取り扱っている海外の会社さんに印刷をお願いして、刷った布をこちらでカットして、一着ずつ手縫いしてライフジャケットに縫いつけていったんです。ライフジャケットも若干デザインや厚みが違うので、各ライフジャケットに合わせて布を切って縫い合わせていきました。1着制作するのに、丸2日かかりましたね。

坂上:
ライフジャケットのベルトは必ず調整できるように、穴を空けてボタンホールのような飾り縫いをしたり、ジャケットに書かれた安全注意の情報は隠れないように工夫したり。やりながらいろいろ考えて作っていきました。

―学業も取り組みつつ、初めてプロの方とやり取りをしたんですよね。きっと、かなり大変でしたよね。

藤原:
それぞれ何着か分担して作っていったのですが、LINE電話をつなぎながら作業をして、お互いにどうやって作ったかなど情報交換をしながら進めていきました。私は結構妥協してしまいがちな所があるのですが、二人は「行こう!」とぐいぐい進めるタイプ。もし自分一人だったら、本当に心が折れていたかもしれません…。

―ここでもチームであることの良さが発揮されたんですね。苦労を重ねた制作過程を経て、ライフジャケットが完成した時はいかがでしたか?

坂上:
できたライフジャケットを持ち寄って、並べたらすごく可愛くて!やっぱり全部のネタが揃った時の感動は大きかったです。それから、今回はいろんな方から意見をいただいてきた背景があるので、「絶対に完成させないと」という気持ちがとても強かったんですね。だから完成した時は、まずほっとしました。

―なるほど、いろいろな気持ちがわいてきたんですね。まわりの方の反応はいかがでしたか?

坂上:
プロジェクト関係者の方達からは、「可愛い」と褒めていただけて、SNSで投稿した所、友人たちからも好評でした。

平山:
大学の友達からは「寿司、作ってたね!」という声ももらいました(笑)。まわりはきっと温かく見守ってくれていたんだなと思いましたね。


プロジェクト経験で高まった水辺の安全への意識

―このライフジャケットを通して、子ども達にどんなことを伝えたいですか?

藤原:
みんなで着たいと思ってもらえたら、みんなで安全を守れるので、お寿司にした意味もあるのかなって思います。

坂上:
私たちのように、ライフジャケットや海が身近ではない人たちも、このライフジャケットの存在を通して、身近に感じてもらえたらうれしいです。

―これまでライフジャケットや海はあまり身近じゃなかったということでしたが、プロジェクトに参加して、ライフジャケットや海の安全に対する意識に変化はありましたか?

藤原:
今まではニュースで溺水事故を見ても、自分とは少し遠い話に感じていましたが、今はライフジャケットを着ていたら救われたのかもしれないと思ったり、身近に感じるようになりました。

また、今まで以上に、水辺の安全に関することが目につくようになりました。制作中、坂上さんのゼミ室にライフジャケットを置いていたんですけど、ゼミ室の子が着てくれたんです。今回のプロジェクトを通して、私たちの制作活動自体もライフジャケットの認知につながっていたのかもしれないという発見もありましたね。

坂上:
私達が制作すること自体が発信装置となって、まわりに認知されていく。それもうれしいことだなと思います。

―本当ですね。1つのアクションがまわりに影響を与えていく良い例ですよね。今回のプロジェクトで得た、一番の学びは何でしょうか?

平山:
自分達が面白いと思ったアイデアでも、巡り巡ってネガティブな表現として捉えられることもある。モノづくりにおいて、背景をちゃんと知っておく重要性を学びました。

藤原:
3人だとそれぞれのやりたいことをニュアンスでも読み取れることが多いんですが、3人の意見として他の人に伝えるとなると、第三者に伝わるようなものにしないといけないんだなと。第三者に対する意識、というのを得ることができたと思います。

坂上:
いろんな人が関わっている分、制約も出てくるんですね。それでも、「これを絶対に形にしたい」というこちらの想いを皆さんも受け止めてくださって、どうにかこうにか形にすることができました。やっぱり熱意がとても大事で、制約がある中でも最大限できることがあるというのを学べたと思います。

寿司ライフジャケットをきっかけに
ライフジャケットや水辺の安全について知ってもらいたい

―今回の経験を、これからの活動にどう活かしていけそうですか?

坂上:
実は、ライフジャケットに関係する新たな作品づくりに取り組んでいるんです。水難事故に遭った方への追悼と再発防止への願いを込めて、使えなくなったライフジャケットでの発泡剤で蓮の花を作る「みずのはなギフト」という作品を作りました。

藤原:
ライフジャケットのデザイン案のプレゼンで勝手に資料を付け足して提案をさせてもらったのですが、皆さんとてもポジティブに受け入れてくださって。今、夏の公開に向けて、引き続き制作を行っています。

平山:
私たちはやっぱりアート作家なので、アートとして何か発信できないかと思ったんです。この「みずのはなギフト」が、また誰かにとってのライフジャケットや水辺の安全について知るきっかけになってくれればいいなと思います。

―プロジェクトを機に、とても素敵な連鎖が生まれましたね。この「みずのはなギフト」もそうだと思いますが、今後、どういうことにチャレンジしていきたいですか?

平山:
まずは、寿司ライフジャケットをプロモーションしていくという目標があるので、お子さんに着ていただいて写真を撮影したり、PRをしていくなど検討中です。

坂上:
せっかく作ったので、これからいろんな所で紹介していきたいと思っています!


寿司のライフジャケットなんてとてもユニークですし、着ている人も見る人もみんなが楽しめるデザインですよね。さんにんさんの持つ魅力やクリエイティブが発揮された発想で、とても素敵だなと思いました。

いろいろな試行錯誤や困難を経て完成したこの「寿司ライフジャケット」。ぜひ、より多くの人に広まり、水辺の安全を知るための新しい切り口の一つになってほしいと思います。

さんにんの皆さん、素敵なお話をありがとうございました!

インタビューに登場した「子どものライフジャケット普及プロジェクト」「みずのはなギフト」に関する情報はこちら!
寿司ライフジャケット
https://sannin111.studio.site/single-page-1

「子どものライフジャケット普及プロジェクト活動報告」
(一般社団法人吉川慎之介記念基金)

■みずのはなギフト

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