子どものアクティブな海あそびを守るには “見守り”よりも“道具”を使ったプロテクトを
「子どもは0.5秒で転ぶ」を教えてくださったのは、子どもの日常生活行動から傷害予防工学の研究をおこなっている西田佳史先生。改めて事故は、自分の想像を超える範囲で起きることだと実感した取材でした。
例年とは状況が違う今年の夏。水辺の事故に関する報道は例年と変わらず、すでに耳にすることが多くなっています。私たち大人ができることは何か。改めて考えるきっかけになったらと思います。
本インタビューは、2018年〜2019年度、旧サイトにて公開したものです。
2018〜2019年にかけ、海のそなえ事務局では海や子どもの安全に関わる事業を行っている7名の方にお話を伺いました。
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プロフィール
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
人工知能研究センター 西田 佳史さん
1998年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。現在、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員。
人間の日常生活行動の観察技術とモデリング技術、傷害予防工学、キッズデザインの研究に従事。子どもの事故予防に関する工学アプローチの実践的研究を通じ、安全知識循環型社会の実現を目指している。
データを知識に変えて、子どもを守る社会をつくる
ー現在、おこなっている活動内容について教えてください。
西田:
産業技術総合研究所 人工知能研究センターでは、子どもの事故原因を科学的に追究し予防するための研究活動を行っています。
最新の人工知能も活用し、子どもの事故に関する事実データを実験や病院から収集、分析し、事故の発生要因を抽出、子どもを取り巻く環境の改善に役立てています。
事故のデータを安全の知識に変え、それを循環させる社会をつくる。予防の分野では、運のせいにするのではなく、科学的に予防しようというのが常識になっています。
集まったデータから分かったのは、“見守り”だけで事故を防げるというのは誤解であり、安全を確保する道具を使って子どもを守るのが重要だということです。
“あっという間”は0.5秒!その時お子さんを救う自信、ありますか?
ー活動の中で、特に注力されていることは何ですか?
西田:
家庭内での子どもの映像を分析した結果、転倒までの平均時間が判明しました。よく耳にする「あっという間に転んだ!」は0.5秒だったのです。
人間は目で見て反応するまでに0.2秒かかるため、残り時間で子どもを救わなければなりません。しかし1mほどの場所にいても、時速24kmまで加速しなければ0.3秒で助けることはできない。
物理的にも人間工学的にも、“見守り”だけで子どもを守る難しさが分かりますね。親の力を全面的に信用するのではなく、道具を使って予測不能な子どもの動きに対応できる環境をつくる行動こそが、命を救う第一歩。海あそびについても、言わずもがな……です。
大人の安全対策を行動変容させていきたい
ー今後、活動をどのように展開していく予定でしょうか?
西田:
ビヘイビアチェンジ(behavior change)、行動変容という言葉があります。親の安全対策は今、その段階に来ていると思います。「見守りだけでは子どもを救えない」の前提のもと、親の行動を「その場で助ける」から、「助けるための準備をする」へ変化させたい。
海に行ってからではなく、海に行く前にライフジャケットなどの装備を用意したり、海水浴場を調べたり、子どもが安全に過ごせる環境を整えられる世の中になって欲しい。
環境や状況をふまえた対策ができれば、子どもはより安全に海あそびができます。そんな考えを広め、子どもが安全に過ごせる海での環境づくりに努めたいです。
予防の道具を使わない代償は大きい!
ー事故を起こさないために、わたしたちができることを教えてください。
西田:
事故予防の分野で「何もしないことの代償は大きい」という言葉があります。道具を使わない代償は、最悪の場合子どもの命を失うこと。その事態を回避し、子どもが安全に海あそびをするため、大人には海へ行く前に準備をする責任があるのです。
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西田先生が続ける研究からヒントをいただきながら、わたしたち大人ができることで、こどもの大切な命を守っていきたい。一瞬で時速24kmの動きをすることはむずかしいけれど……、事故を防ぐ準備は多くの方ができるはずです!
今後も海のそなえ事務局では、海や子どもにまつわる情報を発信していきます!