『数学入門』感想 まずは数に親しもう
岩波新書『数学入門』上巻読んでます。
感想&内容まとめnote初回は、「Ⅰ 数の幼年期」について。
Ⅰ 数の幼年期
この本、いきなり三角関数の話が始まったりはしないので安心してほしい。数学の知識がない人に向けて、根本的なところから、順を追って教えてくれる。
第1章は足し算引き算よりもさらに根源的な、「数ってそもそもなに?」がテーマだ。
・ヒト以外の動物は数を知っているか?
人間と数の関係史を語る前に、ヒト以外の動物について考えてみよう。
『数学入門』では、動物学者ケーラーのカラスとオウムに関する実験を引用している。どっちもかなりかしこい鳥だ。
それによるとかしこい鳥たちは、2~6個のしるしを書いたフタの中から、見本と同じ数のしるしが書かれたフタを選べる。さらに、カラスは自分が食べたエサの合計を数えて、訓練で決められた数のエサだけを食べることができる。
だが筆者によれば、これだけで「鳥が数を知っている」と考えるのは早すぎる。数を知っていると認めるには、いくつかの条件が必要になるのだ。
ちなみに、「ヒト以外の動物がどのくらい数の概念を理解しているか?」はこの本の刊行から60年経った今でも研究されているトピック。
最近だと、イヌが足し算・引き算を理解できるか調べた論文もあるらしい(うろ覚え)。
そういうのに興味がある方におすすめの本↓
https://honto.jp/netstore/pd-book_27066934.html
・数を知っていると言える条件とは
このトピックの冒頭には、数理哲学者であるバートランド・ラッセルの言葉が引用されている。
2日の2と2匹のキジの2とが同じ2であることに気づくまでには限りない年月が必要だった
言われてみれば、この2つが同じ2なのってかなりふしぎで面白いかもしれない。しかも「この2つ」の2もまた、同じ2なのだ……
この観念を理解できること、言い換えれば数を抽象的な概念としてイメージできることが、「数を知っている」最大の条件。
先ほどの鳥は確かにエサを数えられた。でも、2個のしるしと2粒のエサと2人の実験者に共通する数の概念を理解しているだろうか?
そこを証明できない限り、鳥が本当に数を知っているとは言えない、と筆者は考えているようだ。
「数を知っているための条件」は他にもいくつか説明されている。
心理学の論文や歴史上の逸話、あみだくじのしくみにまで話がおよぶ広範さで、楽しく読めるのでぜひ手に取ってみてほしい。
(岩波新書なら買わなくても図書館に入ってると思うし)
・数詞とn進法のいろいろ
話はここから、各言語における数詞の話に移る。
1にあたる数詞しか持たない言語、3を2+1で言い表す言語など、世界中の様々な数詞の話題が出てきて好奇心をかきたてられる。
人間が「指って……数を数えるのにめちゃめちゃ便利やん!」と気づいた結果(?)、5進法や10進法・20進法がいろんな地域で生まれてきたのも面白い。
フランス語では90を20×4+10で表現するからだいぶややこしいという、「仏語を履修する大学生の悩みあるある」ももちろん押さえている。
それを思えば日本語の数詞はわかりやすいな。
筆者の博覧強記っぷりはとにかく凄まじい。
古代エジプトには1000万を表す数字があったとか、アイヌ語の数詞は20進法でしかも30を20+2-10で表現するとか(引き算を使う言語は珍しいらしい)、バビロニアは60進法で、古代のカルデアでは1,10,60,600……という単位を使っていたとか。
いろんな言語の数詞にまつわるエピソードが盛りだくさんで、読んで知ったことを人に話したくなる。
数学が得意とか苦手とか全く関係なく、ただ読み物として面白い章だった。
・面白いけど、古さは感じる
著者の幅広い知識に裏打ちされた面白い本だけど、欠点もある。
何しろ60年前の本なうえ筆者も既に亡くなっているから、いかんせん内容に古さを感じるのだ。
数に関する論述の部分は、60年経った今でも全く魅力を失っていない。それはやっぱり、数学のもつ普遍性のパワーだと思う。
どっちかというと問題は人権意識のほうで、「未開人」とか「文明の程度が低い種族」とか、そういう言い方が序盤からバシバシ出てくる。だいぶ面食らった。
だから、倫理的によろしくない物言いが苦手な方にはあまりおすすめできる感じではない。
私は著者の物言いにちょくちょく引きながら、「60年前ってこういう物言いが平気でされてたんだな」と思いながら読みました。
この時代ってまだ定年・退職年齢の男女間格差があったらしいし、60年でだいぶ人権意識が変わったのだろう。
そういう時代の変化を感じる視点から、あえて古い本を読んでも面白いかも。
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