エッセイ / デレのお作法

こんにちは。うみのほです。

今日、よちよちの女の子とお母さんが
手をつないでわたしの前を歩いていました。

まちの自転車屋さんを通りかかると、
女の子が
「バイクやさん、かっこいいねえー」
お母さんも
「そうだね、かっこいいねー」

か、かわいい。

しかし今日の本題はそちらではありません。

このときの自転車さん、
店先で修理をしているおにいさんも、
すこし奥で商品チェックしている店長さんも、
まるで何も気づかなかったように
「すんっ」としています。

してますが、絶対に、心のなかはデレデレです。
間違いありません。デレデレに決まっています。

すばらしい。きゅん。
この、何事もなかったように振るまいながらも、にじみ出てしまうデレ感。

なんと奥ゆかしく慎ましい、
これこそ、見ているまわりの人まで幸せにする
ニッポンの“デレのお作法”というものです。

たとえば、誰の目にもあからさまなデレデレ。
これもすてきなことです。
が、このタイプのTHE・デレデレは当事者たちだけのもの。
無関係な人びとの心はとくに動きません。

照れ隠しとも違います。
照れ隠しの場合、照れをごまかすためのアクションが発生します。
いわく、逆のことを言う、余計なことを言う、ぶっきらぼうになる、視線をそらす。

たとえば初デートらしき中学生がいたとしましょう。
白いもこもこのニットやマフラーなんかで
かわいくおしゃれした女の子がやってきます。
それを見た男の子が
「なんかいつもと違うじゃーん」だの
「あ、おー…」と目を泳がせるだのと反応する。
これは照れ隠しにあたります。

ここで「じゃあ行こうよ」とさらっと歩き出し
おや？無反応？と思いきや
ぎこちなく距離や歩幅を調節したりして、「めっちゃかわいい」の本心がもれだしてる雰囲気。

これをされると、道ゆく大人たちは
「くそっ、大人をキュンキュンさせやがって！」
「なんだもう！がんばれ、お幸せに！」
となるわけです。


あくまで、ノーリアクション。
にもかかわらず、半径10メートルくらいにぽかぽかと広がる幸せ感。
これぞ古来より伝わるデレのお作法だと、わたしは考えるわけです。

まあ、何事もなく見えることがポイントなので
ご本人たちは本当に何も思っておらず
こちらの心のなかだけで発生したデレという可能性も完全には否定できませんが

そんなことはささいな問題なのです。