スローモーション
電化製品の具合が次々と悪くなり、よく見ると、2009年製とか2010年製とかだったりする。
家電の寿命は10年とも7年とも言われていて、それで言うなら、もうとうに、いつ故障してもおかしくないゾーンに入っていることになる。
ちょっと短命すぎないか?
今の技術なら、もっと寿命の長い製品が作れるんじゃないの?
などとぶつくさ言いつつも、とりあえず量販店へ。
そして、思い知る。
何というか、私一人、時代に取り残されている感がすごい。
テレビは50インチ以上が主流で、70インチや80インチ(!)も、よく売れているとのこと。
「ドラマとかは配信で見れるじゃないですか。ニュースもネットだし。テレビで何見るかって言うと、映画とかスポーツ中継っておっしゃる方が多いんですよね。そうすると迫力が大事だということで」
なるほど。
レンジは、超多機能の高級ラインか、お弁当をチンできればよいという単純な商品しか陳列されてない。
「趣味とかで、がっつり料理して配信してるような人には多機能オーブンレンジ、一人暮らしで、もっぱらコンビニ食の人にはシンプルな機能。ニーズが完全に二極化してますね」
なるほど。なるほど。
暖房器具コーナーに、私が愛用している温風が噴き出るタイプのセラミックファンヒーターが、ほとんど見当たらない。
「暖房はエアコンが主流ですね。足元を温める小さいタイプは結構、種類がありますよ。あとはダイソンかデロンギか、て感じですかね」
なるほど。なるほど。なるほど。
丁寧に説明してくれた男性店員さんは、ばっちりのフルメーク。ファンデーション、眉、ノーズシャドウ、ハイライトと完璧だ。
私は、決して偏見など持っていないつもりだったのに、つい奇異な目で見てしまいそうになって、いかん、いかんと慌てて目を逸らす。
何も決められずに、どんよりと疲れて帰ると、中森明菜のネットニュースが流れてきた。
香取慎吾とのコラボにもびっくりしたけれど、今度は、ラジオの特別番組「中森明菜のオールタイムリクエスト」で、パーソナリティーを務めるらしい。(2024年12月15日にオンエアされました)
最近では公式 YouTube で懐かしい曲がたくさんアップされていて、オールドファンの私としてはとても嬉しい。
主に二十代の頃、私は中森明菜の大ファンだった。
心身ともに体調を崩していた中森明菜は、長い休養期間を経て、ファン待望の活動再開を果たしていた。
久しぶりに見る彼女は、不自然に作られた美魔女などではなく、ちゃんと年を重ねた(と言っても、もちろん美しい)姿で、ゆっくりと噛みしめるように歌っていた。
思い出深い楽曲を、大人なJAZZのアレンジで、しっとりと歌いあげる。
うん、うん。
いろいろあったけど、私たち、本当によく頑張って生きてきたよね。
なんて、おこがましくも、思わず自分を重ねて頷く。
もう「恋の予感」は遠い記憶だけれど、いつだって私は「そんな時代もあったなぁ」とセンチメンタルな気分に浸れる。
大画面テレビがなくたって平気。
レンジもまだ故障したわけじゃない。
小さな足元ヒーターがあれば、案外、暖かい。
買い替えに迷うのを放棄して(ついでに現実逃避して)、今日は明菜ちゃん三昧の日にしよう。
どうか、どれも壊れませんように。
こちらの初々しい明菜ちゃんも、もちろんかわいい。
そうしてやっぱり「私にも、こんな時代があったなぁ……」と、懐かしく目を細めて見る。
こうして年末の貴重な一日が、知らない間に溶けていくのだ。