赤々とストーブ焚くや被災の日
子どもたちが小学生だった頃、冬になると毎週末、鍋を囲んだ。
材料を切るだけで準備が簡単だったし、何よりも部屋中がほかほかと暖まり暖房もいらない。
旬の野菜と、肉か魚を週替わりで選び、最後には雑炊か、うどんやラーメンを入れる。
わいわいとおしゃべりしながら囲む鍋は、楽しくて美味しい、家族の大切なイベントだった。
ところが子どもたちが思春期を過ぎると、部活や塾、アルバイトなどで食事の時間が合わなくなっていく。鍋はおろか、全員が揃って食事をすることもままならなくなっていった。
やがて、出番を失くした卓上コンロや土鍋、たくさん買い置きしていた専用ガスボンベを、私は納戸の奥にしまい込み、いつの間にか忘れ去っていた。
その後、大きな災害が起こるたびに、俄かに防災意識にかぶれて私は、水や缶詰、レトルト食品の備蓄に務めてきた。
いざという時のためにガスボンベもどんどん買い足して、納戸にずらりと並ぶのを見ては安心していた。
ところが、である。
ある日の報道で、ガスボンベには使用期限があるということを、私ははじめて知った。
水や缶詰じゃないんだから腐るものでもないし、と高を括り、それまで使用期限になど思いが及ばなかったのだ。
メーカーの推奨では、使用期限は7年だそうだ。
慌てて、納戸に備蓄してあるガスボンベを確認すると、一番古いものが2013年12月製造とある。
2013年?
え? 嘘でしょ? アウトじゃん!
そんなにも長い間、鍋を囲んでなかったのか。
いろんな意味で悲しくなる。
この大量のガスボンベ、どうしよう……。
この冬中、夫と二人で毎食、鍋にしたとしても、到底使い切る自信がない。
廃棄するにも中身を空にしなければならないし。
そんな時に見つけたのが、これ。
卓上コンロ用のガスボンベを使用するストーブだ。
現在家には、エアコンをはじめ、電気を使用した暖房器具しかない。万が一、寒い時期に停電にみまわれたら……という心配は、かねてよりあった。
これは、いい!
私は早速購入し、一番古いガスボンベを入れて点火してみた。
(自己責任で、安全を確認しながら使用しました。製造から10年を超えるガスボンベの使用は危険が伴います。どうか真似なさらないでくださいね)
一本のガスボンベで、およそ三時間半。エアコンとは違う火の温もりを直に感じて、じんわりと暖かい。
やがてガスが空になると、シュボッと音を立てて火が消える。
途端に部屋の温度が下がりはじめ、心なしか部屋全体が暗くなったような気がしてくる。
マッチ売りの少女よろしく、私は急いで次のガスボンベをセットする。
優しい火に手をかざしながら私は、家族のいろんなシーンを思い出した。
どれもこれも楽しかった記憶ばかりで、幼かった子どもたちの笑顔しか思い浮かばない。
お腹を抱えて笑い合った瞬間が、私たち家族にも確かにあったのだ。
今年もまた、1月17日がめぐってきた。
あれからもう、30年もの月日が流れた。
この30年の間に世界は様変わりし、私個人の暮らしも大きく変わった。
30年前には存在していなかった私の二人の子どもたちは、一人はすでに、もう一人は間もなく社会人となる。
あの震災で、同じだけの時間を生きられたはずの、たくさんの方が犠牲になった。
ストーブの火は暖かい。
そんな当たり前のことを、当たり前に感じられることに感謝しつつ、黙祷を捧げたいと思う。