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潮と鉄橋の影

 潮の流れだと思っていたものが、橋の影であったこと。

 川にも潮の流れがあるのかどうか分からないが、急に深くなったところが濃く見えるように、ある一部分はいつも色が違った。

 ○駅から△行きの列車に乗ると、すぐにその景色は現れる。駅はX川沿いに位置するため、発車してすぐにトラス式の鉄橋を渡る。左手の向こうにはX川とY川の合流地点があり、晴れた夏の日なんかにはデルタ部分のこんもりとした木々が青々と茂り、大洋にぽっかりと浮かんだ無人島みたいに見える。その景色を前にすると、「この世はでっかい宝島!」と叫びたい衝動に駆られる。川幅がひろく、流れも穏やかなため、小規模な海が広がっているかのように感じるのだ。

 それに対して右側の窓からは、水力発電のダムが見える。川の水はすべて、その大きな建造物に滑り込んでいく。垂直に見下ろすと、水面のところどころが筋状に深く色が変わっていることに気づく。ちょうど海流の黒潮のように。

 いま思えば、それが見られるのは晴れた日ばかりだったように思う。その黒潮は、水面に落ちた鉄橋の影であった。

 海なし県に住む私は、想像のなかでせっせと海を補っている。こじんまりとした海だけれど、それでOKらしい。臆病な私からすれば、本物の海はあまりにも大きく、開放的で、魅力的にすぎるのだ。しかし、いつかは海の近くの街に住みたいと密かに思っている。

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