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小海 淳
2015年12月1日 08:24
そろそろ、日が落ちるだろうか。 僕はそんなことを考えながら、隣を歩く雨田の足音を聞いていた。名前のわりには晴れ男で、小学校の頃から、彼と一緒に帰る日には雨が降った事がない。そうして二人歩いていると、たいていすぐに夕暮れ時になって、暗闇が足下へ近づいてくるのを何となく恐ろしいような、ホッとするような気持ちで待ち受けるのだ。「まあ、分かるよ。おまえの言いたい事はさ」 雨田はそう言って鼻を鳴らし
2015年12月1日 08:26
1. 最初に気がついたのは、隣に妻がいないことだった。シーツには彼女の形のしわがあり、毛布にはかすかに彼女の残り香がありながら、彼女の体だけがそこになかった。ふっと冷たい予感が走って、私は思わず大声で彼女を呼んだ。「文子!」 返事はなかった。頭がはっきりしてくるにつれ、彼女にしてきたいくつもの不誠実が思い出され、心臓の鼓動が早まった。 とうとう愛想を尽かされた、と思った。昨夜、ごまかさずに