ケモノの医者の体験談 vol.4 就活秘話 面接その②
M動物病院
上機嫌で就職が決まったと思っていたらあっという間に地獄へ突き落されたので、なんとかめげずに自分を奮い立たせるも、2つ目の面接先を探すのはだいぶ躊躇していました。
まぁそんな口実で就活をサボろうとしていた節もあり…。
大手獣医学専門書の出版会社のホームページに、獣医師や動物看護士、トリマーなどの求人情報を掲載してくれていて、私のような怠惰な人間にはとてもありがたいサイトでした。
今でこそネット上で求人情報を見るのは当たり前になっていますが、今ほどネット環境も整えられておらず、特に専門職となると求人サイトはほとんどありませんでした。
本来なら大学の学生課に行って求人情報をあさったり、興味のある動物病院に直接電話をかけて募集しているかどうか確認したりするものなのに、外に出ず画面を眺めているだけで仕事探しができるのはとてもすごいことです。
そして、その求人サイトを眺めていたら気になる病院を見つけました。
子供のころから薬草や生薬に興味があって、とはいえ本気で勉強するわけでもなく書店で本を買って眺める程度でしたが、どうやら自宅から数駅のところにある動物病院が、漢方薬をメインに診療をしているようでした。
求人情報サイトに掲載されていた募集要項によると、西洋医学に限界を感じた獣医師、フルタイムで働ける女性を募集しているとのことで、院長も女性でした。
もう日曜休みが良いとかどうでもよくなっていましたが、17時には子供を迎えに行かないといけないので、フルタイムというのがひっかかりました。
でもダメ元で挑んでみよう、恐らく前回(vol.3)より悪くなることはないはずだからと、重い腰を上げて電話をしてみたところ、会ってくれるとのことで面接の日が来まりました。
カリスマ性
メイン道路が少し高架になっていて、通りに面した病院の入り口は、実際には建物の2階であるというような構造です。
院内はとても清潔で臭いなどもなく、K動物病院とは全く異なる風景でした。案内されたのはいわゆる診察室で、お昼休みの時間に面接をしていただきました。
M院長の結論としては、できればフルタイムで働いて欲しい人を探しているので、本当に申し訳ないけれど雇ってあげることはできないということでした。
それと、西洋医学に悩んでからこちら(東洋医学)にいらっしゃい、とも言われました。まずは正統派の西洋医学をきちんとやってからが良いよ、と。
やっぱり甘くないよなぁ…。
でも院内を案内してくださり、東洋医学的な考え方やそのアンテナの磨き方などを語ってくださいました。漢方を使いこなすのはセンスだ、と。
漢方薬もきちんと科学的根拠があって使っていくのだけれど、それだけではなくてセンスとアンテナが必要だと言っていました。
センスは残念ながら生まれつきのものではあるけれど、それをカバーするためにはたくさん小説を読んだり、色々な経験をしながらアンテナを磨くことが大切なので、子育てはアンテナを磨くのにはとても良いと仰ってくれました。
勤務している代診さんや看護師さんも、ちょうどお昼ご飯が終わって清掃や雑用をしている時間でしたが、細やかでとても実直に作業されている様子がみれました。
休み時間でも院長に漢方薬や病気についていろいろ質問しにくるほど熱心で、ものすごいカリスマ性のある先生だと思いました。
ここで働きたかったなぁ…。
見た目は大事だった
他の病院は当たってみたの?と聞かれたので、前回のトンデモK動物病院について詳細は話さずに、面接に行ったが就職には至らなかったことを伝えました。
するとM院長が間髪入れず「あなた、行かなくて正解よ!」と言いました。
「ヤ○ザよ、あそこは!」とまで。
確かに見た目はそうでしたが…。やっぱり?
聞くと、本院と分院の院長は双子の兄弟でどっちもやっていることが人道的でない(見た目でわかるでしょ、と)。極めつけは他の動物病院に来て、待合室に座っている患者さんに自分のところの名刺を配っていったりするそう。
M動物病院もその被害にあった病院の1つとのことで、M院長はだいぶ興奮気味に語っていました。
その話を聞いて全身の力が抜けたような感じがして、なんだかホっとしてしまい、「実は…」と友人のことも含めてK動物病院であったことを話しました。
世の中そんなに甘くない、からの…
経験もないうえに子連れだと、臨床現場への就職は難しいかもと思っていたら、とんとん拍子に話がすすんだことで無防備になってしまいました。
第一印象ではちょっと怪しいと感じていたことや、雇ってもらえるのかなあという謙虚な気持ちがあったのに、あっけなくOKがでたことでそれらの鎧が一気に飛び去ってしまい、むしろ運が良いと思って浮かれていました。
就職が決まったと両親や姉にも伝えて、面接1個めで、しかもそんなに条件いいなんて幸先いいね~とか言われて、ますます調子に乗った自分が恥ずかしい…。
友人に聞くまでまさかそんな裏があるとは思ってもみなかったので、本当に本当に彼には感謝しているということを話しました。
同じ女性としてなのか、偶然悪名高きK動物病院とニアミスしてしまったからか、
なんと!
その場でM院長が私に獣医師の募集をしている別の動物病院を紹介してくれることになりました。
そこはM動物病院を卒業した女性獣医師が数年前に開業したところで、M院長と同じように漢方薬を扱っているとのこと。入ったばかりの看護師が1人いるけど獣医師も欲しがっているとのことでした。
距離としては自宅から電車でM動物病院とは逆方向の数駅先。願ってもない展開に心が躍るようでした。
感謝、感謝です。やっぱり私は運がいいのか??
いやいや、あまり浮かれることなく慎重に。
まずは行ってみよう。
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