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ケモノの医者の体験談 vol.3 就活秘話 面接その①

K動物病院

就活でリサーチして見つけたK動物病院は自宅から自転車で10分ほどのところにあり、募集要項には新卒・未経験問わず、月給20万、週休2日(曜日の希望は応じる)とあり夢のような環境でした。これはもう第1希望にして間違いなし。

やや離れた地域(電車で30分くらい)に分院があり、レントゲンや内視鏡は分院にしかないため、必要に応じて分院へ行くこともあるようだというのが少し気になったくらいです。

病院の入り口は外階段を上って2階にあり、半地下のような感じで1階があります。建物は4階建てで、面接時は4階の応接室兼院長ご夫婦の生活スペースに案内されました。

初めて見た虎の皮の敷物

黒い皮の大きなソファーにガラスのローテーブル。リビングの真ん中にはテレビドラマで悪い人のお家にあるような虎の皮の敷物が敷いてありました。

今となっては敷物が本物だったかどうか知る由もありませんが、初めてお会いしたK院長はパンチパーマにすこ~し眼が透けて見えるサングラス(ネズミ先輩みたいなやつ)をかけていました。笑顔ではありましたがこれでビビるなというほうがおかしい。

私の眼は泳いでいました(汗)。

奥様はちょっと肌の露出が多かったもののニコニコ明るいおばさんという感じで、大きめのサングラスをカチューシャのように頭の上にあげていて、う~ん、まぁこの院長にしてこの夫人ありというようなイメージでした。怒ったら怖そうだ。

条件の話になり子供がまだ小さいこと、家庭福祉員さんに預けているので17時には迎えに行かなくてはならないことなどを伝えました。お給料の確認や日曜休みが欲しいとは言えませんでした。

するとK院長はとても好意的に「いいよいいよ」と。子供がいるなら大変だろう、子供に母親は必要だよ、自分の好きな時間で働いていいし、お給料もちゃんと出すよ、と言うのです。

え~?!ほんとに!?実はいい人なのかもしんない!

そしてさらに驚く事実が。

私の出身大学と卒業年度を見て、今うちに君の同級生が働いているよ、と。

就活に消極的(単に面倒なだけ)な私にとってこれほど心強い情報はありませんでした。その同級生は働き始めて3か月とのことでしたが、卒後は他県へ行っていた人なので、地元に戻ってきていたことをそこで知りました。

なんか1発目で良い感じで、半ば「私って運がいい」とか思いながらほぼ就職決定の状態でいったん家に帰り夫に伝えました。

美味しいものには毒がある

K動物病院で働いているという同級生の男の子にまず報告しようと電話をしました。同級生とはいえ在学中はそれほど親しく話したことはなく、共通の友人を挟んで連絡を取りました。

すると、なんと彼のほうから同じ共通の友人を通して電話がかかってきました。

そして、

「絶対に来ちゃだめだよ!!」と。

えっ。

その理由は驚くべきものでした。

(1)彼が務めてから3か月のあいだ、一度もお給料をもらっていない。

(2)保護猫活動をしているがケージ内にたくさんの猫を詰め込んでいる。

(3)ケージを重ねているので糞尿が下段の猫に降りかかり衛生上ひどいことになっている。

(4)動物看護師に保護猫の手術をさせている。

(5)レントゲンがなくその都度分院に行かなくてはならない。

(6)私が就職することになり彼は分院のほうに移動させられることになった(K院長は私には同じ職場で働けるから心強いねと言っていたのに!)。

彼が分院に移動になったのは、同期どうしで結託されると困るからだそうです。自分もなんとかしてすぐに辞めるから絶対に来るなとのことでした。

もう泣きそう。

彼も地元へ帰ってきて就職を少し焦っていたところがあったようで、自宅に近いという理由と、条件が良いと言う理由だったそうです。

私も夢のような勤務条件で就職が決まって浮かれていたので、一瞬で地獄に落ちた気分でしたが、彼のおかげで未遂に終わったことは本当にラッキーだと思うことにしました。

彼に感謝の言葉を伝え、翌日K院長にお断りの電話をしました。あちらから見えない夫に罪を着せ、やっぱり夫が働くのを許さなかったという理由をつけました。

虎の皮の敷物が頭の中によぎり、ひょっとしてその道の人で、就職を断ったばかりにヒットマンに狙われたらどうしよう…と本気で思いました(嘘です)。

新たな門出

そして彼には、共通の友人が務める病院の院長から行ってみてはどうかと打診されていた、今伸びつつある女性獣医師の動物病院(vol.2)を紹介しました。

私はどうしても子連れなので働くには制限があり、雇う側からすれば制限なく自由に勤務できる男性のほうが魅力だろうと思ったのと、何より悪徳病院から私を守ってもらったことに対する感謝の気持ちから、奥さんもいて家庭を支えなければならない彼を先に定職に就かせてあげたかったという思いでした。

先方の院長先生もとても喜んでくれたそうで、ちょっとホっとしました。

人生前のめりだ!

第一希望のところにあっさりと就職が決まり、なんて運が良いのだろうとウキウキしていた私にとってこの出来事はかなりショックでしたが、こんなことは長い人生の中ではきっと大したことがないことだと思うことにしました。

また頑張って探せばいいのだ、と。

10年ほどたったころ、遠いうわさでK動物病院は経営者が変わり、若い院長う先生のもとしっかりとリニューアルされたと聞きました。

さあ、気を取り直して、次の病院に面接だ。

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