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分布:ここにいるよ(日本&世界)

■要約(Summary)
ウミネコってどこにいるのでしょうか(…まあ、日本中の海岸や漁港で普通に見られるという話もありますが😅)。でも実際にどこにいるのか、ネット上でデータを集めて、まとめてみました。

まずは日本国内についてです。「鳥類標識調査回収記録」や「営巣地データベース」を当たりました。次に極東地域(韓国・中国・極東ロシア)に範囲を広げて、ネット検索しました。この辺りが、通常見られる範囲のようです。

では遠方どこまで辿り着いたのか…南はオーストラリアやタイの記録ありました。そして東は、太平洋の向こうの中米ベリーゼで目撃されています。


1.日本(Japan)🇯🇵

まずは日本のデータからです

1-1.鳥類アトラスWEB版(鳥類標識調査回収記録データ)

蕪島などでは、足輪のついたウミネコをよく見かけます。それらの足輪を付けて放されたウミネコが、どこで再捕獲回収されたかのデータを、Google Earthで読み込める形式で公開してくれているのが、環境省自然環境局(委託先:山階鳥類研究所)の「鳥類アトラスWEB版(鳥類標識調査回収記録データ)」[1]です。

ウミネコの分をGoogle Earth Pro(パソコン版)に読み込ませてみました。
放鳥地点(青い●)と回収地点(赤い▲)を結んだゴールドの線で個々ののデータが表示されます。線をクリックすると、情報ウインドウが表示されます。

鳥類アトラスWEB版-ウミネコ(1961~2011年回収分)
蕪島・天売島・枝幸・八丈小島などの放鳥がどこへ行ったがわかります

放鳥地点は蕪島が最も多く、他には天売島、枝幸町、八丈小島などが主です。また、海外の放鳥地点として、ウラジオストック近辺があります。
回収地点は日本付近に集中しますが、南に目を向けるとフィリピンにも何本かの線があります。一番南はサマール島(レイテ島の隣)、北海道の奥尻島で標識のものが回収されています(3600kmのかなた😲)。

日本放鳥のウミネコが何羽かフィリピンで回収されているとのことです

北は樺太(サハリン)北部が最北のようです。ロシアのウミネコの周年生息地(「2-1.極東地域」の分布図参照)と重なっています。また南サハリンは、利尻島のウミネコがエサ取りに訪れている場所とのこと[2]。

北はロシアのウミネコの周年生息地に合流した個体でしょうか?(「2-1.極東地域」の分布図参照)

== 調査データおよびGoogle Earthの入手方法 ==
ウミネコの移動データは、ウミネコ:鳥類アトラスWEB版(鳥類標識調査 回収記録データ)から入手できます。Google Earth Pro(パソコン用)は、https://www.google.com/earth/about/versions/ から入手できます。

1-2.国内の営巣地(海鳥コロニーデータベース)

国内のウミネコ営巣地は「海鳥営巣地(コロニー)データベース」(環境庁生物多様性センター)[4]でみることができます。2023年4月時点で548件の検索結果があり、最新のものは発表年が2021年となっています。東京の砂町運河も4380と4381の2件が2020年で登録されています。

一方で、和歌山県御坊市の弁天島(蜑取島)[5]や大分県佐賀関町高島[6]のように自治体ホームページに掲載されながらも、データベースには未収録があり、過去からの栄枯盛衰がありそうです。

海鳥営巣地(コロニー)データベースのウミネコ分検索結果の一部

1-3. 実際にはどのくらい移動しているのか

でもウミネコがフィリピンあたりまで行くのは、かなり骨が折れる/疲れる/体力消耗すると思います。ハシボソミズナギドリの若鳥のように、飛行中に力尽きて墜落、死体が海岸に流れ着く😱というのもどうかなぁと思います。

これまでウミネコは冬場は四国や九州まで南下と伝えられていました。確かに鳥類アトラスWEB版を見ても、放鳥半年後に九州で回収されたウミネコは蕪島や利尻での放鳥が多いようです。

でも「ウミネコの非繁殖期の移動生態(日本動物行動学会大会発表要旨集 ポスター発表P-253)」[3]では、以下が発表されています。

2010年~2015年に青森県蕪島で繁殖するウミネコ(Larus crassirostris) に照度記録計を装着し、67個体から非繁殖期の移動データを取得した。ウミネコは非繁殖期を通して日本沿岸域に滞在し、繁殖終了直後には繁殖地周辺に留まる個体、繁殖地から北もしくは南に移動する個体など、個体間でバラツキがあった。一方、ほとんどの個体は冬になると三陸沿岸を集中して利用していた。また、オスでは繁殖に失敗した場合には遠くまで移動する傾向があった。なお、翌年の産卵数は繁殖成功個体で2.0±0.6個、失敗個体で2.4±0.7個であった。本研究では、雑食・沿岸性海鳥においても非繁殖のある時期には決まった越冬場所を利用すること、繁殖成功は非繁殖期の移動および翌年の産卵数に関連する可能性が示された。

ウミネコの非繁殖期の移動生態(日本動物行動学会大会発表要旨集 ポスター発表P-253)」より

1000kmも離れた四国や九州に冬季に出現するウミネコには三陸あたりの起源のものが多いけれど、それも一部で、多くのウミネコはさほど長距離を旅することなく、近場で過ごせているのかもしれません(そちらの方が楽ですよね😙)。

2.世界(World-wide)🗺️🌏︎

極東の生息地と辿り着いた地点を見てみます

2-1.極東地域

では、範囲を拡大してウミネコの生息域とされる極東地域ではどうでしょうか。色合いがきれいな「Bird of the worldの分布図(Distribution of the Black-tailed Gull)」[7]を引用してみました。

Distribution of the Black-tailed Gull (Bird of the world)

個々の地域を見ていってみましょう。

2-1-1. 韓国周辺

韓国周辺には主な営巣地が6か所あるようです[8]。

"Status of the Breeding Population of Black-tailed Gulls on Hongdo Island, Korea"より

2-1-2. 中国

中国は大連周辺と杭州デルタの南が主な営巣地のようです[9]。

"Black-tailed Gull Larus crassirostris-Data Zone”, Bird Life Internationalより

2-1-3. 極東ロシア

極東ロシアはウラジオストック周辺(南ウスリーの海岸端)に営巣地があるようです[9]。

"Black-tailed Gull Larus crassirostris-Data Zone”, Bird Life Internationalより

2-2.辿り着いたところ

本来生息していない地域に漂鳥(vagrant)として辿り着いた記録もあります。

2-2-1. 南方へ(Go South)

南方は、鳥類アトラスWEB版(日本)掲載のフィリピンに加えて、ベトナム、タイ、そしてオーストラリアに辿り着いているようです。BCN eBirdには1982年7月のダーウィンでの観察ノートが掲載されています(その前の1978年にも観察された模様)[10]。一方、タイではバンコク周辺で複数の観察があるようです[11]。

Range map of Larus crassirostris in Thailand", Thai National Parksより

2-2-2. 東方へ(Go East)

American Birding Associationでは、ウミネコを Code4:casual(6段階中の4番目の「毎年は見られない」[12])に位置付けています。一方で 北米ではほぼ毎年観察されるとの記載もあります[13](銚子でのカナダカモメのようなものか😅)。
アラスカ西部(5月下旬~7月中旬), アラスカ南岸部および南東部(6月中旬~10月)にはけっこう飛来している様子です。さらに太平洋岸はブリティッシュ・コロンビア(カナダ)からカリフォルニア、さらにはコロラド川の河口デルタのメキシコで1997年6月7日の観察があるとのこと[15]。
また五大湖地方では、イリノイ州(2003年8月7日など)[16]に加えて、2005年10月21日にはバーモント州シャーロットの記録がありました(夏に餌捕りに苦労したらしい旨の注記があり、たどり着くまでに大変だったようですが)[17]。その他、米国での記録はAmerican Birding Association(ABA)のブログを検索すると、いくつかが出てきます[18]。
そしてさらに南の記録として、中米のベリーゼで1995年に観察されているようです[15]。
また、1998年の資料ですが、下の地図もありました[19]。

Identifying Black-tailed Gull in North America”, December 1998, Birding

さらにSurfbirdでは次のようにも書いています[13]。
「この種のヨーロッパでの記録はまだありませんが、放浪(漂鳥)の記録を考えると、もし見つかっても大きな驚きではないでしょう。」❗❗❗

3.まとめると

ウミネコの生息域と辿り着いたところ(営巣地はくくりが適当🙏)

期待!! 果たしてヨーロッパ🇪🇺進出はあるのか?

2012年のAmerican Birding Association(ABA)のブログ[20]では、生まれた翌年(CY1)の若鳥がアラスカに辿り着いているのが紹介されています(2月のアラスカとか、気候面で耐えられるのですね😲)。ならばいっそさらに西へ飛んで、ヨーロッパ🇪🇺を経て、北極❄️を一周して帰ってきてくれんかなどと、ちょっと期待・妄想してしまいます。

参考文献

1: 「鳥類アトラスWEB版(鳥類標識調査回収記録データ)」, 環境省事前環境局生物多様性センター
2: 綿貫 豊・風間健太郎「風力発電施設の建設による鳥衝突のリスク低減を目指した高精度鳥感度Mapの作成 Ⅱ-2 道北海岸地域における海鳥の高精度鳥感度Map作成手法の確立 ウミネコを材料として(北海道大学)」, 2018年3月, 論文本体 / 発表資料
3: 山本誉士・水谷友一・永田瑞穂・鈴木宏和・依田憲「ウミネコの非繁殖期の移動生態」, 2017年, 日本動物行動学会大会発表要旨集 ポスター発表P-253
4: 「海鳥営巣地(コロニー)データベース」,環境庁生物多様性センター
5: 「ウミネコの調査記録」, 御坊市ホームページ
6: 「高島のウミネコ繁殖個体群」, 大分県ホームページ
7: ”Distribution of the Black-tailed Gull”, Bird of the world
8: Who-Seung Lee, Jeong-chil Yoo ”Status of the Breeding Population of Black-tailed Gulls on Hongdo Island, Korea", June 2005
9: "Black-tailed Gull Larus crassirostris-Data Zone”, Bird Life International
10: 「ウミネコ(含:1982年7月26日のDarwinでの観察ノート)」, BCN eBird
11: ”Black-tailed gull-Species of Thailand", Thai National Parks
12: ”ABA Checklist”, American Birding Association
13: "Black-tailed Gull: a photo essay by Paul Doherty", Surfbirds
14: ”Black-tailed Gull (crassirostris)-Status and Distribution", Gull Research Organisation
15: Kimball L.Garrett and Kathy C. Molina, ”First Record of the Black-Tailed Gull for Mexico”, 1998, The University of New Mexico
16: "2003 Chicago Black-tailed Gull", The Orniphile
17: "Black-tailed Gull, Larus crassirostris, Charlotte Town Beach, Charlotte, Chittenden Co., VT, 23 October 2005", Cornell University
18: "Search Results Black-tailed Gull « ABA Blog", American Birding Association
19: Nick Lethaby, ”Identifying Black-tailed Gull in North America”, December 1998, Birding
20: "#ABArare – Dusky Thrush/Brambling/Black-tailed Gull – Alaska”, February 21, 2012, American Birding Association


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