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「悲しみを失った人同士がつながる」弱さの物語

先週末に観た映画は、

『ドライブ・マイ・カー』

村上春樹さんが原作です。私はそれを読んだことがないんだ。原作の収録されている短編集のタイトルが『女のいない男たち』ですって。ちょっとドキっとしますね。

この映画は、とても凄い映画。濱口竜介監督のインタビューを読むと、男性の「弱さ」「強さ」「内面」について話しています。


この主人公の男性は、妻と死別して、ものすごく傷ついてる。それなのに顔色があんまり変わることがない。役者という職業なのに、自分の感情については、最愛の人にさえこれまで見せることがうまくできてなかった人なんですね。

2年という時間が経過。主人公は妻の不在から解き放たれていない。

2年後のある時、オーディションの審査員として広島にいくんです。そこで、公演中のドライバーを務めるという若い女性と出会う。はじめは、妻との思い出が詰まった赤い自家用車を、若い女性に握らせることに男は抵抗を示した。それに、女性にハンドルを握らせるのを嫌うんですね。彼女が、若い女性という理由で、信頼してないんです。

だけど、彼女はすごく優秀なドライバーだった。次第に、彼女のドライビングに気を許していくようになる。そして、若い彼女も、男に自分のことを語るようになる。

このあとは、ネタバレなので、これから見たい人は申し訳ないけど見ないでね。



ふたりには共通点がありました。ひとつは、大切な人を失ったこと。もうひとつ、共通点があります。

ふたりは、その共通点を通じて、お互いの喪失を認めていく。今を生きている時間を取り戻そうとして行く。わたしにはそんなふうに見えた。

この映画について語りたいことがたくさんある。だれかと語りたいな。

濱口監督は、ほかの作品でも同様にやっているあることがある。それは、自然災害など亡くなった人の慰霊をしているということ。わたしは、濱口監督作品は『寝ても覚めても』しか見ていませんが、その中でも、「思い出と生きる人」と、鑑賞者が、共同で思い出を弔うような作風にもなっている。思い出は思い出であり、現実ではないということから目が覚めない人が出てくる。失ったショックをひとりでは解消できないんですね。

今作も、その作風が、より強くあらわれている。

もう、いない奥さんを、手放してあげよう。もういないお母さんをちゃんと弔ってあげよう。そんな物語。

そして、自分の人生を生きよう。

男性の弱さを男性自ら認めて、たくさんの人に救われる世界が描かれる一方で、

震災や水害などが多く不安定な日本で、どれくらいちゃんと弔いや、慰霊のようなものを、誰かが誰かのために、できているんだろう。だれが、その存在を認めて、一緒に供養してあげられているんだろう。

男性が、自分の心を自分で認めてあげられなかった弱さ。本当の気持ち。まわりの人の助けを受けながら、自らそれを認めて行く姿が素晴らしい描写で撮られている一方で、

そういった、日本全体に起きている不安定な状態を、救ってあげるような物語でもあるんです。

全てが繋がっている。

わたしは、この作風がすごく好きです。

たまたま近くに居合わせた人が、自分とそっくりのドラマを持っていて、そこにお互いが気付いて、サポートしあう関係になる。そういうことは、私たちの日常でも、起こることですよね。

自分の孤独な体験を、誰かに気づいてもらえて、「すべて理解できるわけじゃない。だけど一緒に生きよう」と言ってもらえたとき、とても救われます。

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