『夜明けの曲』についての覚え書き
こんにちは。
初めての方、はじめまして。
この短編小説の、そもそもの初稿は1996年に完成しました。いくつか改訂を経て2014年でこの形になっています。
この作品は、ささやかながらある種の風俗を扱っています。流行り物であるため、その箇所だけが作品内で古びてしまうのは当然の成り行きなのですが、私はその風俗部分だけをときどき最近のものに書き換えていました。
つまり、この小説は、初稿からまったく変わらない箇所と、折に触れて刷新する箇所とが同衾している、という変わった仕上がりになっています。
内容に触れるなら、今回は“出会い系サイトを使った援助交際”(2014)ですが、初稿では、“偽造テレカを使ってのテレクラ”(1996)でした。
そして、初稿のときから変えていないのがクラシックコンサートのある4章のシーンです。
私はこの作品をいじっているとき、いつも不易流行という言葉が思念に浮かんできていました。
ここからは余談になります。
1996年当時はまだ原稿用紙に手書きで執筆していたので、地方紙主催の文学賞に応募したとき、コピーを取っておらず、生の原稿は私の手元に残っていませんでした。
作品は落選しましたが、選評は的確で私も十分に納得のいくものでした。
数日して、私のところに一本の電話がありました。
選評を読んで興味を持ちました、その作品を読ませて頂けないでしょうか? という一般の方からの連絡でした。
私は驚いたと同時に申し訳ない気持ちになりました。もう原稿は手元にないからです。
わざわざ読みたいと言ってくれた人に、事情を話してお断りしました。
電話を切った後、私は自責の念に駆られ、原稿のコピーはないけれど、書き損じや端切れの原稿は残っていたので、そこから再構成し、何とか原本に近い形で復元することにしたのです。
今となってはどうなるものでもありませんが、あのとき電話を下さった方の目に、この作品(部分的に新しくなっていますが)が目に触れることになれば嬉しいなと思います。
今回、当初のタイトル『インモラル』から、『夜明けの曲』に変更しました。
また、WEBでの読み易さを考慮して、適宜、行空けを入れております。