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大人思春期の大晦日
もうあたりが暗くなった大晦日の18時頃、
私は家で一人で勝手に家族へのイライラがおさまらなくて家を飛び出した。
26歳の大晦日。いまだに実家にいる私が悪い。
そういう思いもあるからこそ、余計にイライラしていた。
その日の大晦日は台風が近づいてるみたいな大きな風が吹いていて、私はその風や寒さにすらイラついていた。
私は近くのマックに行き、鋭い目つきで席に着いた。明らかに不機嫌そうで、自分でも本当にイヤになる。
モバイルオーダーでホットのキャラメルラテを頼んだ。
大人になってからは頼んだことがなかったのだが、今日はなぜかマックに着くまでの間にキャラメルラテが飲みたいと思っていた。
わりとすぐにホットのキャラメルラテが席に届いて、私は自然とカップを両手で包み込み、じんわりあたたかさが広がっていくのを感じた。
フタの口をパチっと開けて一口飲むと、ふいに中学3年生の冬の受験期のことが蘇った。
朝10時半までの朝マックの時間、私はよくハッシュドポテトとキャラメルラテを頼み、すでに解き終えた過去問の解き直しをしていたものだった。
”この味は、私にとってその時の味になっていたのか”
と思った。
いくらか私はぼーっとしていた。
ふと、一日中ずっと消えなかったイライラが落ちついていることに自分で気がついた。
たったこれだけのことで、どうにも消えてくれなかった辛くイヤな気持ちが消えたのだ。
あの頃から変わらず、
この場所があり、
この味があるのは
思ったよりすごいことだなと思った。
そして私はこの頃から、どこかへ行き、一杯飲みながら何かをするというのを好んでいたのだなと思った。(私は今、この文章をノートに書き留めている)
朝やる気を出したい時、集中したい時、家から出たい時、もしくは家に帰りたくない時…。色んな時に、一杯飲めるところに足が向いていた。
・・・
最近、北九州のマックで中学生の男女二人が巻き込まれる殺傷事件があった。
悲しくて仕方がない。
この悲しみを、どこへ向けたら良いのか。
大人になると、素直に感情を出せなかったりして、感情を押し殺すことに慣れたり、悲しみを悲しみと感じれなくなったり。
でも、そうやって何とか自分を、何かから守っているのかなとも思うのだった。
この事件のように、明らかに悲しくてどうしようもない時は、「悲しんでいいよ」とようやく自分に許可が出る気がする。
”けれども、このしっかりと感じてしまった重たい気持ちはどうやって昇華させていけばいいの…?”
私は戸惑って苦しくなってしまうことがある。
キャラメルラテが残りわずかになって、甘さが一層強くなった。
Mサイズでも良かったかな…。
少しだけ物足りなさを感じて、そう思った。
少し苦くて、甘い…。
今日は大晦日だというのに、マックはびっくりするほどその感じがない。
私みたいに独りの人だけでなく、二人の人もいて、各々バーガー食べたり、ポテト食べたり、甘いスイーツ食べたり…。
私は、今日はラテ、”だけ”。
スマホの画面がぴかっと光って、LINEの通知が届いた。
”年越しそばつくってます”
甘えた自分。
遅れた反抗期なのか、
家族が苦手で仕方がない。
父も、母も、弟も妹も。
イヤだな。
帰りたくないな。
私はどんな顔して
年越しそば食べてるんだろう。
まぁきっと、それなりに上手く話しながらやってるんだろう。
いつもそうだから。
私の心の中が、一人でしんどいだけだから。
甘い甘いキャラメルラテを飲みほして、「今一緒に過ごしてくれる友達でもいればいいのに」なんて思いながらスッと席から立ち上がった。
帰らなければ、
とりあえず。
私はフタとカップを分けてゴミ箱に捨てた。
店を出るとき、複数の店員さんにカウンターや調理場から「ありがとうございます」と声をかけられた。
”こんな大晦日の日に…”
たったそれだけで、なんとも言えない気持ちになった。
私は目が合うような合わないような感じで「ありがとうございます、ありがとうございます」と2度ぺこりとして店を出た。
もう来年は、とりあえず、とりあえずって何もかも自分が満足できないままにするのは、やめにしよう。
だって私はもう、大人、なんだから。
ちゃんと自分と向き合って、自分で今日ちょっとホッとできたみたいに、そういう瞬間を集めにいかないと。
来年は愛する人にきっと出会って、家族という喜びを味わいたい。
自分も、自分の家族のことも好きになりたい。
だって、”好きになりたい”って自分が思っているから…。
コツコツ。
コツコツ…。
歩く時の、このブーツのコツコツなる音なんかも好きだ。家が近づいてくる。
こういうちょっとした好きなだなと思うことや、どうしてもイヤだなと思うこと、来年はそれらをたくさん集めて、自分を知って、幸せに生きて、”大人になった私”で今度の大晦日を迎えたい。
少しきゅっとなる胸を感じながら、一度深呼吸をして家の玄関の扉を私は開けた。
今日で今年も終わりだ。
こんにちは、新しい一年よ。
umi