きっと、いい場所になる。そんな気がする。
なりたかった《 看護師 》という仕事について、
大学病院・ICU・リハビリ病棟・デイサービス・重度認知症デイケア、と
ほんとうにいろいろな場所ではたらいて、
いま、特別養護老人ホームではたらいている。
望んできた場所じゃない。
「そのひとらしく生きることをサポートしたい」
そうおもってなったはずなのに、病院という組織のなかではできない。
じぶんでしごとをつくるしかないのかもしれない、と、試行錯誤した。
でも、やりたいこととできることのバランスがうまくいかなくて、それでもなんだか組織には戻りたくなくて。
それでも。
やりたいことをやるためにもう一度就職して、働きながらできることを考えよう。
そうおもって、就職を焦っていた。
絶対に就職することはないだろうとおもっていた、実家のちかくの高齢者施設。焦っていなければ戻ってくることなんてなかったかもしれない。
最初にこの世界に足を踏み入れたとき、絶句した。
真っ暗な部屋のなかで寝たきりになっているおじいさんやおばあさん。
車椅子にすわって素足を投げ出しているおばあさん。
タッパーのなかに、エタノールに浸した乾綿で消毒して採血や点滴の針を指している様子。
・・・え。
これまで過ごしてきた世界とのあまりの違いに絶句せざるをえなかったし、目の前が真っ暗になった。
いろいろなことがかさなって、それらのストレスもあったからか、
わたしは病気になった。
半年間の療養生活を終えて、仕事に復帰した。
復帰してしばらくしてから、100歳のおじいさんの体調が思わしくなくなった。
車椅子にすわって元気に手をあげていたあのおじいさんが、ベッドから起きなくなった。
ごはんを食べるようお手伝いしても、いらない、といって食べない。
声をかけても手をふって横になったまま。
表情もいつもつらそうなかおをしている。
このまま悪くなってしまうのだろうか・・・。
そう思っていた。
だけど。
すこしずつ、食事も食べられるようになった。
すこしずつ、笑顔が見られるようになった。
そして、いま、またリビングで車いすにすわって、横を通るたびに手を挙げて握手を求めてくれる100歳のおじいさんがそこにいる。
「うれしいねー! 離床ってだいじだねー!」
以前はそんな会話したことなかった職場のひとたちとも、
利用者さんの回復をよろこぶはなしができるようになった。
だいじょうぶ、きっと、変わる。
看護師ってきっと、看護がすきだ。
介護士さんだっておなじじゃないかな。
あいかわらず、寝たきりのおばあちゃんたちの部屋は暗いし、
おばあちゃんは素足を投げ出してすわっていたりもするけれど、
きっといい場所になる、そんな気がする。
だって、あの手をあげているおじいちゃんは、もうすぐ101歳になろうとしているんだから。