○イヤな予感と身体感覚
・ツキに見放されている今日この頃
最近、ツキに見放されているのでは、と思ってしまうことが良くある。たとえば二週間前は自宅の洗面所にある水道管の接続部分が老朽化して水漏れ。このため階下のクレームと想定外の出費という事態に遭遇。先週は雨の中、階段で足を滑らせ打撲。
本日は仕事上のアドバイスが欲しくて、自分から友人に「ちょっとでも時間を取って」と頼み、やっと夜8時からの食事の約束を取り付けたのに「コロナ蔓延防止のニュースを耳にした」とキャンセルの電話。
悪いことが続いているせいか、友人との約束を取り付けたとき、なんとなくうまく行かない予感がしたが、それが当たってしまった。
こんな日が続くと気力も失せてくるようで、普段なら積極的にやりたくなることでも、手つかずのままに放置してしまう。そんなときには、自分がイヤになるし、体も重だるくなたり、胸のあたりもモヤモヤしてすっきりしない。
自己啓発の言葉に「引き寄せの法則」というものがあるようだが、私の今の状態が結果的に悪い引き寄せを呼んでいるのかもしれない。
こんなとき、どうしたらいいのだろうか。
・迷いなく決断できる北極冒険家、荻田泰永さん
北極冒険家の荻田泰永さんがnoteに次のような文章を書いている。
〔これまで北極や南極を冒険してきて、極地で危ない場面であるとか、一歩の選択に迫られる時は確かにあるが、あまり迷ったことはない。踏み出す一歩の理由は常にあり、この場面で右足を出すか左足を出すか、それによって物理的に運命が変化する状況もあるのだが、実際には現場でどちらの足を出してどこに置くべきかは、もう分かっている。
社会においては、冒険のために自分で資金を作ったり人から集めたり、いろいろな場面を経験してきたのだが、自分の場合「あぁ、ここでこんな人が目の前に現れてくれたらいいなぁ」という人がドンピシャのタイミングで現れたり、また「あぁ、ここではこんなことが起きたらいいなぁ」ということが実際に起きたり、そういうことがとにかく多い。 https://note.com/ogitayasunaga/n/n3bcafff7b86a 〕
・ソマテック・マーカー仮説
このように、迷うことなく適切で素早い判断ができる状態に対して、荻田さんは脳科学者アントニオ・ダマシオの理論「ソマテック・マーカー仮説」に結びつけた説明を試みている。
この理論は、私たちの日常的な選択や決断のような、一見情動とは関係のない意思決定においても、情動的な身体反応が関与しているとするもので、その概要は次のようである。
失敗や成功、危険な出来事などの過去のエピソードは、そのとき生じた感情とセットの形で私たちの脳内に保存されている。そして「今から何をするか」といった日常的な選択を迫られとき、脳はコンピュータのように「ある選択をしてその結果どうだったか」といった過去事例のデータをくまなく調べ上げるという手法は取らない。それだと時間がかかり過ぎるからだ。
私たちは、(快感を伴う結果になったなど)特定の感情を伴った過去の事例だけを、数ミリ秒の速さで意識に登ることなく選択肢の候補として拾い上げ、その中から意識的に選ぶことで短時間の選択を可能にする仕組み持っている、と。
そのメカニズムは次ようである(注)。
以下、主に大平英樹「 感情心理学入門」、および脳科学辞典 ソマティック・マーカー仮説を参考にして述べる。https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%BD%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E4%BB%AE%E8%AA%AC
まず強い情動反応について述べる。たとえば山を歩いていて熊に遭遇したとする。このとき熊の姿は視床を経由して扁桃体で検出され、身体反応(情動反応)を引き起し、島皮質や体性感覚皮質に伝わり恐怖(感情)として認識される。
これに類似する反応が「今から何をするか」といった日常的な想起刺激でも生じる。この場合、視覚刺激とは限らないので、大脳皮質で考え想起することで生じる刺激が、扁桃体の他に、腹内側前頭前野も関与して、身体反応を引き起こし、島皮質や体性感覚皮質に伝わる。この身体反応は本人が意識できない微弱なものであるが、皮膚電気反応などで検出可能なものである。
・アイオアギャンブリング課題
ソマテック・マーカー仮説を裏付ける実験として、ダマシオらはアイオアギャンブリング課題という名前のカードゲームを行った。このゲームでは特定のカードを選んだ方が有利になるように仕組まれている。しかしそれに気づくためには実際に何度もカードを引くことで、どのカードが有利不利なのかを学ぶ必要がある。
ところが健康な人では、どのカードが有利なのかを自覚できる以前の時点において、有利なカードが選べるようになる。ところが、腹内側前頭前野に損傷がある人はそうした現象が見られない。
一部繰り返しになるが、もう一度、熊の話を交えて説明する。山道を一人で歩いているとき、熊が視界に入ると、震えや動悸といった身体反応(つまり情動反応)が起こり、この身体反応によって「怖い」という感情が生じる。この際、当然ながら熊が怖いものだという過去の情報(知識)が脳内に保存さていて、それに照らし合わせて「怖いもの」という判断がされているはずだ。
これと同じように、何枚かカードを引いた後においては、不利なカードを選びそうになると、(意識に登るとは限らない)不快な身体感覚が生じて、その結果、そのカードは選ぶのを避けることになるのだろう。なお、ダマシオは「あたかも身体ループ」という概念を提唱しているがこれは省略する。