隣り合うこの男にも人生が。有川浩『阪急電車』で優しくなれる
晴れた日曜日の昼さがり。
むこうから自転車が2台走ってきた。
となり同士、並走する男の子と女の子。
よく見ると、うどんみたいなワイヤレスイヤホンApple Airpodsを片耳ずつ着けている。男の子右耳、女の子左耳。
そ、ソーシャルディスタンス時代の、イヤホンわけっこ案件……?
ういういしいものを見た。今日は、こんな光景に似合う五月晴れのような恋愛小説を、と本棚のまえで立ち尽くすこと20分。
ようやく見つけたのは、この1冊。
これはねーー、優しい。とってもやさしい。たまご粥的な、間違いのなさ。本をほとんど読まない人に、読みやすくておもしろい小説なに?って問われたらこれをすすめる。
2011年に映画にもなっているから、それで見ている人も多いかもしれませんね。ウェデイングドレス姿の中谷美紀が、電車に乗り込むっていう最高のシーンがあってだな。
▼映画『阪急電車 片道15分の奇跡』https://www.hankyu.co.jp/movie/
小説は、阪急電車という関西の実在の私鉄、のなかでもかなりローカルな路線を舞台に、その電車に乗り合わせた人々がそれぞれの人生模様を語っていくもの。主人公が章ごとに変わっていくオムニバス形式。
1章で脇役として出てきた人が、2章では主人公になって、みたいなゆるいつながりが、後半になるとだんだんつながってきて…というラブ・アクチュアリー的展開。
この本を読んだあとは、みんないろいろあるよね、がんばって生きてるよねってやさしい気持ちになれる。
電車通学・通勤だったら、ぜったいいるじゃない、毎朝見るあの人。(この春は、私もふた月ほどまったく電車のらなかったけどさ)
乗り合わせるだけの人って、すごく不思議な関係だ。毎朝顔見るし、なんなら満員電車で密着もするけど、何年経ってもぜったい言葉を交わさない。どこのだれなのかまったく知ることのないまま、気づいたときにはもう姿はない。
この小説では、そんな幻みたいな人たちの人生模様をのぞき見できる。
私が乗っているこの電車のなかで化粧してる女の子、はじめてのデートにむかう途中なのかもしれない。憮然として窓の外見ている人は、さっき婚約相手にふられたばかりなのかもしれない。ランドセル背負ったままドアの前から動かない小学生は、学校でいじめられて帰ってきてるのかもしれない。
そして、もし。この小説みたいに、なにかの拍子で、乗り合わせた人たちと関わりがうまれるとしたら。
ふだんは、電車のひとつのパーツとして意識しない乗客たち。まったく違う背景のひとが隣り合わせて運ばれてゆくって、電車は時間のメタファーみたいだなあとか大袈裟なことを考える作品です。
うめざわ
*阪急電車、私ももれなくファンです。住むならこの沿線がいい。小豆色の車体に、抹茶色のイス、きなこ色の壁紙。東京からの帰り、これに乗り込むと関西帰ってきたー!って感じる。
*写真はnote画像置き場より。阪急梅田駅ですね。