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《書籍紹介》科学から理解する 自閉スペクトラム症の感覚世界

ASDの感覚に着目した最前線の研究リスト

近年、ASDの人には感覚過敏(または鈍麻)の傾向がある人が多いことが知られてきました。これまでは「コミュニケーションの問題」や「社会性の問題」と思われてきた部分が、ASDの人が持つ独特の脳のシステムによって外部刺激の受け取り方が違う(物事の見え方、認知の順番などに特異性がある)ことで説明できるのではないか、という見解も広がってきています。

そんなASDの人の脳が、世界の刺激をどう処理しているかに着目して、近年世界各国で進められている最新の研究結果を紹介しているのが井手正和さんによる「科学から理解する 自閉スペクトラム症の感覚世界」です。

自分が感じている世界は、世界そのものなのか?

茶色や緑などの色が、判別しにくい方が一定数います。色覚障害や色覚異常、色盲、色弱などという名前で呼ばれてきました。
私たちは進化の過程で、色を判別する感覚である「色覚」を3つ持っているのですが、中には色覚が2つのままの方がいます。2色覚の人は同じようなトーンの色を識別するのが難しくなります。
多数派の人が判別している色が判別できないので、障害、異常、盲、弱などと表現されているだけで、彼らにとっては彼らの見えている色が世界の色です。多くの場合、生まれた時からその色の世界で生きているから。

果たして、私が見えている世界の色は、完全に他の人と同じ色を持った世界なのでしょうか?赤、緑、茶色、と識別できるからと言って、私が見えている色と全く同じ色を他人も見ているのでしょうか?
確認のしようがありません。

色は、光の波長です。
特定の光の波長を私たちは色と捉えています。
目から入る光の情報を、脳が処理した結果です。
私たちが見えている世界は、脳が「どうやらそのようだ」と処理した結果なのです。

世界は脳が作ったシミュレーション

顕著な色の例を挙げましたが、色と同じように、音も、空間も、匂いも、他の刺激も、各器官が捕らえた刺激を脳で処理して知覚しています。
この本では、ASDの人たちはその様々な刺激を処理する過程(脳の使う範囲や順番、回路の接続)がどうやら違うようだぞ、ということが段々とわかってきた研究結果が報告されています。

感覚器官 × 脳 = 世界 だとしたら、
脳が変わると感じる世界は別物になるはずです。
それぞれが感じている世界は、それぞれの脳によって作られた個人的なシミュレーション結果であり、人の数だけ無数にあるはず。

ASDだからと言ってASDの人たちが一様な世界の感じ方をしているわけではありませんが、
・「部分」と「全体」のどちらを先に知覚するか
・刺激へ慣れる時間はどの程度か
など、ASD特有の傾向がこの本では指摘されています。

同じ世界に住んでいるからといって、同じ世界を知覚している訳ではない。

「同じであること」を前提とされる・求められる・期待される社会システムだからそこにコミュニケーションの障害や、社会性の障害が生まれてしまったのかもしれません。

「え!ふつうはそう見えるんだ!」
ASD、多数派の理解の仕方を知る

私がこの本で面白かったのは、例に挙げられる実験の「多数派の人の理解」の仕方がわかったことでした。
ASDの人はどうやら先にこちらを知覚するらしい、というのは私にとっては「そりゃそうでしょ。そうなるでしょ。」とナチュラルな知覚。
「え、それ以外にどう認知のしようがあるんだ」と思いました。

この本では、一般的にはこう見えるところをASDの人はこう見える人が多い。ということで、一般側の見え方を踏まえてくれています。
「え!そう見えてるの!」と多数派の理解の経路が面白かったです。

相互理解だいじ!

そこで感じたのは、やっぱり相互理解。
ASDの人はこうらしいよ、だからこういう配慮が必要だよ!という紹介は広がってきたけれど、ASD側からしたら一般の人はこうらしいよ、だからこういう配慮が必要だよ!という情報はない。
多分世間的には、当たり前すぎて説明してない部分が、ASD側からすると説明書が必要な部分です。

この本の続編で、
「ASDではない人の感覚世界」という本が出版されないかな〜という妄想をして、そういった世界線が来ることを願います。


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