
短編その①今死ねるボタンを貰った。
誰もが一度は自分で死ねる時を選べたらなと思ったことがあるのではないだろうか。ある日自分1人だけ、死ねる時を選べると言われたらどうなるのか。
このボタンを押すと死ねるようだ。本当に死ねるか、わからないがこのボタンを押すと死ねると言われているから、本当だと思う。このボタンは、昨日の夜帰り道で猫が置いて行った。猫が私にくれたような気がして、なんだろうと家に帰って調べてみたんだ。そしたら、このボタンを押したら死ねるって書いてあった。本当に死ぬことができるから裏社会でしか流通していないらしい。
大抵の人間は、そんな悍ましいボタンの事はさっさと忘れるような待遇を取るだろう。そもそも信じないし。しかし、私はとてつもなく嬉しかった。そして、信じてみたかった。私にとっては光だった。これでいつでも死ねるのだ‼️意味わからない老後のことや、先のことを不安に思わなくても良いのだ!これでいつでも死ねるのだ!こんな嬉しいことはない。その日から私は嬉しくて仕方なかった。いつ死ぬかわからない世界なのに先のことを考えて不安になる時間が大嫌いだった。なのに、このボタンの存在によってその時間は殺された。貯金もしなくていい。だって死にたい時に死ねるから。自分の好きに生きてもいい。だって死にたい時に死ねる。大好きな事をずっとできる。死ぬための正当な理由を探していた私にとってこのボタンは素晴らしいものだった。ボタンがあるから死ねる。死にたいと思った時に死ねる。どうしてこんなに自分が嬉しいのかわからない。今まで、なんでこんなに自分がネガティブに悩んでいたのかもわからない。よし。楽しく死ぬぞ‼️
次の日
はぁ。やっぱり、老人になるまで生きてるのやだから早めに死ねるボタンがあって嬉しいなと思ったけど、違う。そして、少し、このボタンが生きる糧になりつつあった気がしてしまった。それももう違う。もう今、色んなことを考えすぎて脳みそを壊したい。世の中の概念に染まる自分。それがわかったので自分らしく生きようとする自分。なのに、いつになっても足を引っ張ってくる、お金がないと生きていけない世界。足を引っ張ってくると考えるのも自分。と言う事は結局骨の髄まで自分が本当は嫌だと思ってる世界の考えに染まっている自分。もう。生きていられないや。このボタンを押したら。押したら。やっと、この考え地獄から抜け出せる。このボタンを押すだけ押すだけなんだ!๑ᴖ◡ᴖ๑)
押せない。どうして押せないんだろう。こんな世界に期待なんて捨てた筈だよな。どうしてなんだよ自分。あれだけの死ぬための正当な理由を探していた日々を抜けて、やっとこの突起を少し強く押し込んでみたら、死ねるのだぞ?どうして押さない。
本当にやりたい事をやらないで死んでいいのか?あ。自分に期待してる方の自分が話しかけてきた。そんなのやったところで私の生きた証は刻まれないし、だったらもう、自分が無かったことにしたい。こんな人生要らなかった。強制的に始められた。出来ないんだったら辞める。自分の望む世界じゃないなら死ぬ。そう言う性質なんだよ。私は。今までだってそうだったじゃない。部活は希望のポジションになれなかったら辞める。勉強も自分の希望の教授に習えないなら辞める。仕事は生きるために自分のやりたい事を諦めた。この頑固な姿勢を死にまで引き摺るとは。私はなんと、一貫性のある人間なんだ。ますます死んでしまいたい。
それにこの心の叫び。死にたい思い。何度、身近な人に相談してもそういうものだよと言われた。これが普通なら尚更生きていたって仕方がない。結局分かって貰えなかったな。やっぱ、人間は1人なんだ。産まれた時から死ぬ時まで。私を分かってくれる人なんて居ない。
ポチッ。
あれ?死ねない!?
どうして。どうして死ねないんだろう。
ポチポチポチポチポチ。なーんだ不良品かよ。最悪。せっかく夢みせてくれたのにな。また、振り出しに戻るんだ。正当な死ねる理由を探す旅。
この子の知らないところで原因不明の、突然死をした人が同じ時間に6人居たようだ。ちなみに、このボタンはまた捨てられた。今度は誰の手に渡るのか。そして、本当に、不良品だったのか。