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「俺だっていつも手伝ってるじゃん」~ショートエッセイ~
たぶん一生忘れないあの日の朝の光景。
夫は出勤の支度を終え、あとは家を出るばかりというスーツ姿でソファーにドカンと座り、お茶を飲みながら日テレの朝番組を観ていた。
二人の子どもは寝起きで機嫌が悪かったか、朝から元気いっぱいではしゃいでいたのか忘れたけど、いずれにせよその日も朝から私はてんてこまい。
2歳違いの子ども二人それぞれの洗面、トイレ、着替え、朝食と後片付け、歯磨き、保育園に持っていく着替えなどの準備、寝てた布団の片付け、ゴミ出し、とっ散らかったリビングを適度に片付け、そして私自身の出勤準備・・・
たった1時間半ほどの朝時間でどれほどたくさんのことをやらなければいけないか。しかもその間にも子どもたちはなんやかやと、やらかしてくれる。牛乳こぼしたり、片付けたばかりのリビングにレゴブロックぶちまけたりね。
そんな中、夫に何気なく「自分の支度だけすればいいからあなたはいいよね」と言った。
怒り心頭に達して、みたいなものではなく、ほんとに何気なく出たつぶやきのような一言だったのだけど、その言葉に夫はキレて、強い言い方でこう発したのだ。
「俺だっていつも手伝ってるじゃん」
はい?なんでキレるの?逆ギレ?
今でもちょっとよくわからない。
自分がのんびり座っていることに後ろめたい気持ちがあったのか?
え?「手伝ってる」?いま「手伝う」って言いましたよね?
あ、そういうことだったのね。
その時まで私は、家庭運営も子育ても夫と私の共同プロジェクトだと思っていたんだけど、そうじゃなかったんだ。
なるほど「手伝い」か、キミのスタンスは“バイトくん”だったんだね。
それから、わが家の家庭経営、日々の運営、子育て事業は私の意識の中では、私の単独プロジェクトとなりました。
全ての経営判断、重要な意思決定は自分だけで行い、バイトくんには決定事項の共有をするのみとなりました。
その状況にバイトくんは特に不満も疑問も持っていない様子。
私からの「これはこうするからね」という既決の報告に対して、「了解。それでOK」とあたかも自身が最終決裁をしているつもりでいたんだろうか。おめでたいよまったく。
猫の手でも何の手でも借りたいワーママにとって、バイトくんだってありがたい戦力ではありました。
たとえ仕事に対して自律度が低く、指示待ちくんであっても、あくまでもこの人はバイトくんなのだと思えば、そこまで腹も立たないのでした。この考え方は私の精神衛生上、悪くなかったように思います。
重要な判断を伴わない業務を適度にこなしつつ、プロジェクトマネジャーから指示された仕事を指示された範囲で行うのみであったバイトくんは一向に成長を見せないまま、子育てプロジェクトの約20年間を過ごしました。
ここでは触れませんが、子育ての日々には泣きたくなることや、出口の見えないトンネルの中にいるような時期など、いろいろありました。
それでも二人の子どもは力強く成長し、社会に出ていきました。
そしてバイトくんはバイトくんのまま、というより、自分がバイトくんだと気づかないまま、子育てプロジェクトを妻と共に成し遂げたと思っている幸せな男なのであります。
まだ「ワンオペ」という言葉もなく、「ジェンダー平等」という視点も一般的にはなかった、20年ほど前のお話です。