2023/12/14 到着前日〜友だち
朝食、いつものバーに行く。昨日2回、今朝で3回目。すっかりくつろぐ。いい気分でオーダーをして雑談、ひと段落したおりにトニーがこんなことをいう
「あなたの写真を彼に渡したとき、あなたの友人は「上がって来い」と言った」
ん⁈えっ!なんて⁈ボクは固まった。きょとんとしてたらチュロスが来て、他のアルベルゲの連中もやってきて、別の盛り上がりが始まった。
昨日の昼間にはこんなことも言われた。
「パートナーがあなたを失った」
ボクは問い直したりしなかった。わかる様な気がした。と言っても具体的には何も理解できなかったので、翻訳アプリのスクショだけ取っておいた。
この数年、新しい人間関係のチャンスや働く機会はいくつもあった。だけど何だかそれを手にできなかった。細かい理由は色々あれども結局は自分の腹がすわらなかった。何か始めたら何かの過去ができて色がつく。何色にしたらいいかよく分からなかった。どれも自分に相応しい気もしたし違う気もした。腹が座らないから確信が持てない。そうやって雑念の徒然が大きな蛇のマフラーみたいに首に何重にも巻き付いていた。結局、旅だけがボクを突き動かした。
悟りとかを求めていたわけではないのだけれど、空っぽになりたいと強く思った。子ども時分の恐れない感じに。例えばパワハラ恐れて部下に対して腰のひけた対応になるのとかってのは大人の病気なんだと。本来人間がもっている優しささえあれば、自然に対応するだけで良いはず。腰なんてひけない。コロナ菌が流行っても免疫力があれば大丈夫、みたいな。本来に戻ろう!子ども時分の気持ちを見つけては自覚し取り戻す、そうすれば楽しく生きていけるはずだなんだ、と。そんな風だからトニーがいう様にパートナーに失われていてもおかしくなかったし、ボクがどこか下の方にいたとしても納得がいく。
ゴールまで行けたらそのパートナーさんは戻ってきてくれるってこと?そしてボクは上がっていけるってこと?そんなことは分からない。期待して歩くのもなんだか…そう、目の前の友に申し訳ない。そう、全力で楽しむしかないのだ。
実は前の日の夕方くらいだろうか、ルカも合流している。彼はスペイン語をきいてイタリア語を喋っている。彼だけでなく、彼らはそれでコミュニケーション出来る。だからボクがエスパニョールシンコ(スペイン人5人組をそう名付けた)に紹介する必要など全くない。外様はある意味ラクだ。
エスパニョールシンコは変わるがわるボクのところにきて相手してくれた。彼らも組み合わせを変えて歩きたかったようで、歳の差なり地域差なり、様々を超えて交流する。ルカも同じようにしてくれるが彼は何せ英語ができるので、交換できる情報量も多い。今日の歩きプランや休憩予定を始め、誰とどんな話をしたかとかもしれーっとリキャップしてくれるので、ボクもそれをベースに彼らとコミュニケーションできる。トニーとは意味でのサポーターだ。助かる。この目つきがちょっと悪いナポリターノ、なんていい奴なんだ⁈と自分の見る目のなさを嘆く。よく考えたら手袋拾ってくれたのも彼だった。悪い奴なはずがないじゃないか、いま思えば心を開くのが遅れたのは自分の未熟さだなあと実感する。
ホセの兄、アントニオは動物を見つけるとすぐ戯れる。鳴き声を真似て呼び寄せようとする。子どもか。芝生をちぎって牛に食べさせようとする。ボクも一緒に声真似してみるが、まるで叶わない。ロバも彼の心の純真さ⁈がわかるようで、スゥッと近づいていく。
ちなみに彼は2月から民間警察官に就職が内定していた。結婚も決まっているそうで、道中お相手に何度も電話していた。そして「ボクは人々のために働くんだ!」と何のてらいもなく笑顔で語るそのサマは、えらく眩しかった。
ホセとは結構話した。彼はタイに行って幸せに暮らすのが夢だと言っていた。Netflixでバチェラーパーティー失敗談の3話シリーズってのがあって、そこで観て以来タイいいなと思っているそうで、自分も帰国してから彼の視点を想像しながら観てみた。ストーリーはバカな話だったけれどタイの魅力が少なからず映っていて、例えば大きな川をボートで上る感じとか、アジアの街の雑踏具合とか、タイの女の子の優しそうな感じとか。憧れるのも理解できた。
彼はスペイン軍の人で川を横切る時にすり足で歩いていた。ボクは「敵に音を発して気づかれないように?」と聞いてみると「1日の終わりに靴が汚れていると減点されるんだ」と言った。2人で笑った。また、以前イラクにいたことがあると言うが、その話はあまりしたがらなかった。
様々な話は、彼が幸せについて、人生について少なからず真剣に考えていることを想像させた。若いのに立派だなと思う。四国のお遍路の話も嬉しそうに聞いてたから日本にもくるかもしれない。
一緒にスペインの歌を歌いながら歩いたりした。ボクは8割ハミング、もしくはスチャラカスチャラカ言っていた。若き日の夜中のカラオケを思い出す。
スペイン語の巻き舌レッスンは何回も受けた、アントニオはノリノリだ。フクロウも加わる。彼らは地元に戻ってから友だちや家族に見せて共に笑いたいと思われ。ボクはヘボな巻き舌スペイン語のビデオを3回も撮らせてあげた。何度も演じた、というか必死で真似た。その最後に「オスティア!」というと盛上がった。
オスティアの意味は沢山ある様だけれど、ネットにはクソッタレとかあるけど、結局意味なんてなかった。日本語のやばくない?みたいに、英語のridiculousみたいに意味なんて最早どうでもよくて、皆のお気入りワードが多くのシーンで使いまわされる。もしや世界中、そんな言葉で埋め尽くされているのも知れない。そういう意味では辞書なんて当てにならない、バイブスだけが全てである。
アルスーアからモンテゴゾまで、7人でなんと33.7km。
サンティアゴデコンポステラまで4.8kmというところでムニシパルのアルベルゲに泊まる。なぜとかは特にない。皆がそうするのならボクもそうする。でもそんなポイントで止まる奴なんて他にいなかった。だからベッドはどこも空き放題、100個以上は空いている。でもなぜかトニーが二段ベッドの下に陣取り、ボクに上にくるように促す。これだけは本当になぜだったか分からないけれど、言われた通りにした。自分は番犬!くらいの勢いだったのだろうかw
ちなみに昨日の夕方、ホテルのチェックインの時に彼のIDをチラ見した。5歳位歳下だった。おかしかった。彼にはボクにない貫禄がある。変に気を使わせたくないのでボクの年齢は明かさない様にしようと誓った。でも今思えば「あなたの写真を彼に…」が本当ならば、ボクの年齢くらい知っていたのかも。実は秘密諜報部員とかだったりして?警察官だし…
というか、サン=テグジュペリの話みたいでもある。あれは確か何かの教団の話だったけど…トニーはおそらく生粋のカソリックだ。ボクは…とりあえず考えるのはやめよう
この夜は皆、同じ宿だったのでシャンパンなどを買い出しに行き、ホームパーティー的なノリで前祝いをする。小さな街なので豪華ではないけれど、ささやかで楽しい飲み会