2023/12/7 暖炉の魔力
カカベロスからベガデバルカルセまで25.1km。
舗装された道路が多いので歩きやすいものの、全体的に味気ない。それに加えて朝から晩まで雨、雨、雨。防水機能が落ちているせいか雨具がびしょ濡れになる。くたくたで入ったベガデバルカルセのアルベルゲのおかみさんが夜、ボクらの雨具を暖炉にかざして乾かしてくれる。それに付き合って皆で暖炉を囲んで地元のワインを飲みながらあれこれ。一緒にいたフランス人のカップルとすっかり友だちっぽくなる。今回のカミーノで初めてそういう空気を味わう、嬉しい。暖炉を前にすると人は正直になると言うけれど彼らはほとんどフランス語やスペイン語で話していたから、どうなんだろう?…暖かい気持ちになる、の方がしっくりくる。雨の中を歩いたせいか“ひとりでも立派に歩く“みたいなちょっと勇ましい気持ちになっていたのだろう、でもやはり旅の醍醐味は友だちができたり一緒に飲んだり、そういう楽しいことだと思う。ホッコリして暖炉に乾杯する。
彼らとは二日前の夕方、モリーナセカで初めて会った。カカベロスのバーで2回目、3回目はビジャフランカデルピエルソの街、この日の昼に大きな犬のいるバーで4回目の再会をし、その日の晩は泊まる宿が一緒になった。
最初は女の子がよく喋ってくれたけれど、そのうちにあまり喋らなくなった。立ち入らない方がいいかなと思っていたら入れ替わるように男の子がよく話しかけてくれる様になった。ただ彼は英語がとても少しなので言いたいことを推測しながら聞き返して、それにイエスノーが返ってくる、そして…みたいなやりとりが必要だった。面倒でも彼は積極的に友達になろうとしてくれている様に感じられたので根気強く対応した。3回目の時などは遠くから大声で呼びかけてくれたので嬉しかったのだ。
彼にはトレッキングポールを何度も直してもらった。アストルガ以降、上手く使えていたのに壊れた、残念。折りたたみ式で三つのポールを刺した状態で引っ張るとストッパーが出てきて一本になるのだけれど、使っているうちに刺すところ、接続部の部品が陥没してしまうのだ。
彼に見せてみたら簡単に直してくれた、落ちた部品を引き戻して、組み立て直す。ダメになるたびに再会しては直してもらった。彼はカミノのライフセイバー的な資格を持っていた、こういう器具の扱いには慣れていたのかもしれない。翌朝お礼に防水スプレーをあげる。
この日のアルベルゲには床暖房があった、暖炉もだ。標高600m位なのでずっと寒いのかも。お陰で快適。雨で濡れた衣服の対処をひと通りしたあと、同じアルベルゲに泊まるスペイン人の若者に誘われて近所のバーにいく。宿のスタッフ曰く、彼は鬱病で足に怪我もしているけど巡礼を諦めたくないとアルベルゲに留まっているそうだ。なので誘われた時は一瞬躊躇したが、最大限ケアしながら他愛無い話をする。彼は英語は喋らないのでお互いの母国語で喋って翻訳アプリを交換する、この初めての試みは結構楽しかった。直接喋るより、少しオフィシャルみたいな感じになるので無駄なやりとりが減る。印象的に覚えているのは、彼はバレンシアの人で郷土料理のタンとテールは絶品だというので、僕はそれ以外の部分が大好きです、捨てないでくださいと答えたら大ウケしてくれた、嬉しい。でもこう書くとこの話題自体が無駄なような気もする、が気にしない。
宿に帰ったらおかみさんとフランス人のカップルがワインを飲んでいたので合流した。暖炉を囲んで地元の赤ワインとチーズ、幸せっぽい空気がすでに流れている。ただ場の話題は基本的にフランス語かスペイン語、こちらからすると何のこっちゃなのでやり取りに入るのは結構大変だったのだけれど、トピックを失わないように気を配り、オチを推測しながら、割って入れそうなネタがあれば出来るだけシンプルに打ち込むことに徹していたら、次から次へと新しい種類のチーズが出てくる、これなら大丈夫かもと益々集中する。実は具体的なことは全く覚えていないのだけれど、久々に達成感があった。
集中して、夢中で参加して、ちゃんと出し切れた夜。笑いの取れ高としては実力の120%。解散して眠りにつく。
夜中に目が覚める。カラダは疲れてはいるものの、緊張せずほぐれている。でも何だか動かない、金縛りみたいな感じ。放っておくと脳か頭かの緊張がほぐれていくのがわかる。そっちは緊張していたようだ。
なんだか色々難しく考え過ぎていたのかな、と出てくる。
ねじれていた心が、ヨレが解けていくと感じる。
人生で出来ることなんて、自分のできることしか出来ない。
そんなことを思ったらまた眠ってしまった。