あなたの好きなもの
先日、大好きなカフェ兼甘いもの屋さんへお使いに行きました。
日が暮れると夜に浮かぶ船のようになる、あのお店です。
今回はカフェでのんびりではなく、あの人と、あの人においしいものを贈るため。
どんな味のものが好きかしら。
箱はどの絵のものが似合うかな。
古くからの友人ほど彼、彼女のことには詳しくないので、今回は私のイメージで選びます。
私はそのお店のお姉さんの笑顔が好きで、話しかけたくなってしまいます。
なんというか、いつも少しだけ驚いたような顔をして笑ってくれるところが、自然でとても素敵。
贈り物を包んでもらいながら、カルダモンのクッキーを発見。
あ、これはあの子が好きな味だ、とすぐに浮かぶ顔。
今度あの子が来たときに教えてあげられるように、お味見してみよう。
ほくほくとお店から出ると、少し高台にあるその場所から、下っていく道の遙か上の方に、立派な入道雲。
あ、あれはあの子が好きな雲、とまた別の顔が浮かびます。
帰り道に八百屋さんの前を通ってキャベツを見たら、思い出すまた別のあの子。
最近嬉しいニュースをもらったな、元気でいてほしいな。
反対にトマトを見て思い出すのは、トマト嫌いのあの子。
彼女が家に来る時は、料理にトマトとマヨネーズを使わないように気をつけたっけ。
今は離れたところにいても、そうやってふと顔が浮かぶ人がいることが、私は好きです。
この先も一生、カルダモンを見たらあの子を思い出すし。
いつかあの子が京都からいなくなっても、夏が来るたびに思い出すよすがになるし。
誰かの好きなものを知ると、日常にあったかい瞬間が増える気がします。
私はそんな、何気ない瞬間の積み重ねが好き。
お団子屋さんに駆け込んでいった小学生の、元気な「ただいまー!」だったり、
えらく良いムードなジャズが流れていると思ったら、工事現場で作業中の職人さんのスピーカーからで「おおー」と思った瞬間だったり、
今まさに用を足している途中の、神妙な顔つきの大型犬と目が合ってしまった時だったり。
なんてことはなくてすぐ忘れてしまうような一瞬一瞬が、連続しているこの日々が好き。
私の日常に、好きなものを通して登場してくれるみなさん、ありがとう。
あ、私もあなたの日常にそうやって侵入したいから、好きなものを勝手に書いておきます。
卵の黄身、レモンケーキ、あんこ、舞茸と、そらまめ。
今回は食べ物だけにしておきます。
思い出の物が増えるのも良いけれど、誰かの好きの記憶が増えていくのも嬉しいな。
だからあなたの好きなもの、今度私ににっこり教えてくださいね。