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気を整える〜陰の施術〜

私が中学生の時のお話です。
美術の先生がおっしゃいました。

「私の授業の時は10分前から教室にいて静かにしていなさい。間違っても外でボール遊びなどしないように。」

えー、そんな、、 と生徒達。

私も当時は育ち盛りの活発な男子生徒。

授業と授業の合間は、たとえ10分の休憩時間でも太陽の下で友達とサッカーやドッジボールをして走り回っていたのです。

その先生がおっしゃる話はこうでした。

チャイムが鳴ったとたん汗だくで教室へ駆け込んできて、さあ美術の時間。そんなことで何がいいものが作れる?
呼吸が荒く震えた手で何ができる?

若かった私はその言葉の意味を知る由もありません。
とにかく仕方なくそれに従ったのを覚えています。

あれから何年経つでしょうか。

現在、私は治療を生業としています。

指圧は患者様が来院される前に少しでも院内の気が少しでも乱れてしまっていると、気が散って治療に影響してしまうことを肌で理解しています。

患者様の中には心の問題が複雑に絡み合った症状の方もたくさんいらっしゃいます。

心を扱う繊細な仕事をするならば、いつでも気持ちを陰にしておく。(落ち着かせておく)

そんな心構えが必要です。

指圧は、ツボをとらえます。

ツボには深さがあります。
それは目には見えないけれど確かに存在しています。

そして、その深さは人によって異なります。
場所によって異なります。

さらに、同じツボでも10分前と今では深さが変わります。

私達はその深さへと慎重に圧を入れていきます。
それ以上でも以下でもいけません。

電車がまもなく駅に到着するという時、電車はゆっくり減速し、やがて決められた停車位置ぴったりに停車します。

その時、前に行き過ぎていても後ろ過ぎてもいけないはずです。

ツボの深さもこれと同じで、ぴったりとくる位置がちゃんとあります。

強押しが効くのか、弱押しが効くのか。
時々、指圧やマッサージにおいてそんな議論がされますが、これらは術者サイドの話。

受け手の立場になって考えてみれば、強くても弱くてもどちらも不自然なのです。

ツボの深さに的確に圧を入れる。

そこに到達したら、相手の身体がそれに反応して変わっていくのを感じ、次のツボへと移っていく。

指圧はまさにこれの繰り返しです。

とても繊細な施術です。

患者様の身体から発せられる僅かな声をこちらの補の手が受け取る。 感じる。

そんな神聖なやりとりをしている時に、術者が陽の気でいるということは、そんな貴重な情報をついうっかり見落としてしまいかねない、ということです。

そういえば中学の時、そんな美術の先生がいたなあ。

今ではその先生と思い出の中で握手しながら指圧に興じる毎日です。

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