実家にある2つの穴
「これはタカシ(私)があけた穴。
あれはコウジ(私の弟)があけた穴。」
家族で実家に行った時のこと。
私の母が娘に何やら話していました。
よくよく聞いてみると、穴とはつまり私達兄弟が中学生だった頃に開けてしまった壁の穴のこと。
当時は反抗期真っ盛り。
若さゆえの行き場のない気持ちをそのままに、勢いあまってできたもので、それを母は楽しそうに娘に説明していたのです。
「あなたのパパにもこんな頃があったのよ。
男の子の成長期ってこういうものなんだね。」
母はその壁をあえてなおさず、今でも実家に行くとそれを見ることができます。
それ以来、娘は、
「これはね、パパがやらかしたんだよ」と笑います。
私はそんなことすっかり忘れていますが、
きっと私にも人生の春があったのでしょう。
春といえば陰から陽に変わる時。
眠っていたエネルギーがみなぎってくる瞬間です。
植物達は芽吹き、虫や動物達もそろそろ動き出す準備を始める時。
東洋医学、五臓でいえば肝。
肝は、疏泄。
春の陽気のように気持ちも上へ上へと昇ることを好み、それを無理に押さえつけられたり、コントロールを失えば、感情が乱れてしまいがちです。
そんな肝のエネルギー。
実は当院の患者様のお身体に接していても感じることがよくあるのです。
秋冬と通って下さっている患者様。
お腹に触れていても全く力が感じられない。
手を当てているとその重みだけでズブズブと下へ沈んでしまう感覚がある。
いわゆる“虚の腹”です。
しかし、ちょうど今ぐらいの立春を終えたあたりの頃になって、そのお腹に触れてみると少し押し返してくるような反発を感じることがあるのです。
私は思わず尋ねます。
「あれ、最近少し元気が出てきましたか?」
「そうなんです。
ちょっとお腹が空くようになってきて。
歩くとチャポチャポ動いていた胃も、ちゃんと収まる感覚があるんです。」
「それはよかったです。きっと今が治るチャンスなんですね。」と私。
私はそんな時、母の説明していた実家の壁の穴を思い出すのです。
人は自然の巡りの中を生きています。
これに沿っていると健康、抗って無理していると体調を崩す。
これが東洋医学です。
母は、二人の男の子を育てた母親でした。
反抗期、それはそれは大変だったことでしょう。
しかし、時が流れてもそれをいつか懐かしく感じれるように残しておいてくれた母。
感謝したいと思います。
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