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『滋賀の家展』で見た感じたこと|住宅ライターの備忘録

滋賀県立美術館にて『滋賀の家展 -House of Shiga-』という期間限定展示があると知ったのは、1か月くらいまえ。
夏休み真っ盛りだったので、9月になったら絶対行く!と思っていたのに、展示期間ぎりぎりになってしまいました。

素敵な展示だったのは言うまでもなく、感じたことも多々あったので書き留めておきます。

『滋賀の家展』

『滋賀の家展』は、2024年7月13日〜9月23日に滋賀県立美術館で開催されている企画展です。

 「滋賀県」という視点で「家」を考えてみると、面白いことがいくつもあがってきます。たとえば1961年以降、日本を代表するいくつものハウスメーカーが県内にプレハブ工場を設置しています。また、惜しくも2022年に解体された、黒川紀章設計の《中銀カプセルタワービル》(1972/現存せず)の「カプセル」は、米原市内の工場で制作されたものでした。その意味では(部分的にであれ)Made in Shigaの建築だったとも言えます。そして、滋賀県は面積の半分を森林が、6分の1を琵琶湖が占めるという特徴的な地形ゆえ、多様な暮らしのかたちを見ることができる場所なのです。
 本展は、1960年代の日本の住宅産業と滋賀県の強いつながりを示す事例から、現代建築家による最近のプロジェクトまでを、幅広く紹介する展覧会です。

開催概要より

開催概要の通り、滋賀の産業の発展と『家』をキーワードにさまざまな資料が展示されていました。
過去の住宅メーカーのパンフレットや、黒川先生の《中銀カプセルタワービル》の資料、現代の建築家の先生たちによって設計された家の模型、図面、写真などなど。


美術館の前庭とファサードには、この機会に持ち込まれた、実際に触れられる竹原先生と伊礼先生の作品も展示されています。

===
と、ここまで読んでくださった方、もしかして退屈だったら、ごめんなさい。

うすうすお察しかもですが、
おそらく、建築に興味のない方にとっては、なんのこっちゃわからない展示でしょう……。(もちろん、良い意味で!)

いや、実は、私も。
会場に足を踏み入れて、正直、一瞬たじろぎました。

実際、来場されている方はどなたも、見るからに建築ガチ勢!
建築学生さんぽいお友達同士とか、設計事務所にいそうなイケオジさま、しゃれたマニッシュなワンピースのマダムさまといった方々ばかり。

なにしろ、どなたも一つ一つの案内書き・図面・模型・資材サンプルをじーーーーくり見て進んでいました

おかげで、私もじーーーーっくり見て回らせてもらいました!

建築雑誌の中に入ったような感覚

心の底から感じたのは、
「一人できて良かった……!」
子どもたちはおろか、夫と来たって楽しんでもらえなかったかもしれない。
建築家さんの名前なんて、ひとりも知らないだろうし。

しかし、私からすると、ワンダーランドそのもの。
例えて言うなら、雑誌を4次元空間化して中に入れてもらえたような感じです。

新建築とかモダンリビングとかカーサブルータスとか、
そのあたりの建築・インテリア系の雑誌の世界を
でっかく具現化してくれたような展示でした!

図面↔模型↔写真を見比べ、
「あー、ここの断面図か。」
「この床、素材なんなんだろ?」
「この窓からこの風景みえるようになってんだな」
と念のためのマスクの下でもごもご独り言しつつ、満喫しました。
※図面好きな方なら、共感いただけそうかしら。

対比で描かれた『産業』と『建築家』

『滋賀の家展』では、前半と後半の対比がとても分かりやすかった。
その巧妙な展開もあって、満足度が高かった気がします。

なお、構成は以下のとおり。

1: はじめに
1-1:滋賀について
1-2:家とくらしの転換期
2: 住宅産業と滋賀
2-1:プレハブ生産工場としての滋賀
2-2:プレハブ住宅の高度工業化とカプセル住宅
3:建築家たちの実践 ―新しい暮らしと周縁とのつながり
3-1:新しい暮らし
3-2:周縁とのつながり
4:リビングルームとしての美術館を考える

展覧会構成より

第1章と第4章は導入とまとめだとして、主軸である第2章と第3章のコントラストが明確でした。
私の解釈では、以下のような時系列。

第2章
2-1:60年代からの産業化で高速道路の整備やニュータウンラッシュが進む
2-2:「商品」としての住宅の誕生、ハウスメーカー工場増加

第3章
3-1:80年代以降、そうした動きに対し建築家たちが新しい暮らしを実践していく
3-2:建築家たちによって今も周縁(歴史・自然)とのつながりが模索されつづける

※私の解釈

第2章で紹介される黒川紀章先生へのリスペクトは大きく感じるものの、その時期の対比とされているのが、滋賀の自然と調和した木造(木造以外の構造では、内外の調和や共生の要素がある)建築。

この、後半が木造建築、というのが個人的に良い

第2章の60年代から80年代までは、家も産業化のうちの要素の一つ。
「商品」「大量生産」「工場」「企画」「集合」「流通」「メタリック」
こんなところがキーワード。

続く第3章で、建築家が新しい家の在り方を実践していく。
「個」「暮らし」「歴史」「古家」「廃材」「回顧」「土地柄」「自然」
こんなキーワード群。

一見、産業時代のカプセル住宅は機械的で未来的なのだけど、
実のところ、
本当の未来は、日本ならではの木材ベースで、
山や丘陵の地形と個の暮らしに合わせて作られる時代
がきましたとさ。
めでたしめでたし。

こんなストーリーが見えた気がします。

そう。もしかしたら、
どこまで未来になっても
ドラえもんやバックトゥザフューチャーみたいなメタリックな世界にはならないのかもしれない。

個に寄り添って、自然と調和するのが、やっぱり「家」。
家はほっこりあったかいのもの、と感じられました。

住宅設計はワクワクすることそのもの

プロの建築家の先生たちの目線、普段は雑誌のなかでしか見られない家の設計プロジェクトの片りんを、鼻先10㎝で眺められる至福のときでした。

強く感じたのは、
家の計画は、常に未来であり夢だな。
ということ。

家の計画には、
「これを手に入れたら、
一生窓際でコーヒー飲んでられそう」

と思わせる力がある。

前半に展示されていた60年代のセキスイやナショナルのパンフレットはどれも鮮やかで、笑いあう家族の絵が描いてある。

後半の建築家先生方の設計は、どの家も美しく作りこまれて引き込まれるものの
「いやしかし、うちのやんちゃチビ3人と暮らしたら、結局瞬殺で散らかり放題だな。こんなオープンなガラス張り無理だわw」
と思う。
けど、だからこそ良い。本当に本当にいい意味で。

だって、設計の段階で生活感あふれてたら、だれも買わない。
明るい未来を買うのが家。
だから家づくりは楽しいんだろう、と思いました。

そんなことを考えられる機会になった『滋賀の家展』。
私のようなニッチな趣味でも楽しめる企画をつくっていただけた滋賀県立美術館の皆々様に感謝です。

余談

独身のころは、思い立って急に弾丸旅に出かけることも多かった私。
当然ながら、子どもが生まれてからは全くそんなことができなかった。

しかしこの日は、久しぶりにその頃に戻ったように、自分らしく時間を使えた気がしました。

そもそも私は、滋賀県民ではありません。
滋賀県立美術館は、自宅から片道1.5時間ほど。

「…ギリっギリ、行ける!」
そう踏んで弾丸的に展示を見に行きました。

朝8時半に次男を保育園に預け、
そのままコンビニでアイスコーヒーとおやつを買って、高速へ。
10時半ごろ到着して12時半ごろまで展示を見て
せっかくなので滋賀県立美術館の周りもちょっとお散歩して
美術館内のカフェで軽食しながら忘れないうちに感想をメモ。
14時滋賀出発。
※16時に長男が小学校から帰るまでに次男迎えに行かねばならないため。

それでも、私にとっては最高の1日でした。

夫にはね
「行って帰ってきただけ⁉️旨い飯とか食ってないの?」と言われました。

うん。そう思うのもわかるよ。
そうだけどさ、
美術館のカフェのバトンサンドも普通にすんごい美味しかったし、
そもそもコンビニのコーヒー買って遠出することが贅沢!
あの頃に戻ったような自由!(全然違うけどw)

と言い返しておきました。押忍。

とにかく、その気になれば結構遠くまで行けます。
これからもそうやって生きていこう。

===
建築好き・住宅好き人間が、弾丸で家展に行ったお話でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

執筆者:うむる|工務店専任 ライター&オンライン広報
☑ 元注文住宅工務店の営業職
☑ 出産後に産休復帰できず、やむなく工務店を退職
☑ 3人の子どもを育てるママ
☑ 2019年9月から住宅記事の在宅webライターとして活動
在宅ワーカーでも住宅業界に貢献したいがモットー

住宅や不動産などをテーマとした記事執筆・SNS運用を承っています。
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