人形の告白
私は入山てる。
かつて綺麗だと言われたこともあったけど、今は容色の冴えない、58歳の女。
幼い頃、一番好きな遊びはお人形遊びだった。
お友達と私の家でお人形を持ち寄って、小さなお人形の世界に入り込んで遊ぶのが楽しかった。
でも中学生になる頃には、誰もお人形を持って私の家に来てくれることは無くなった。
親友には恋人ができたようだ。それは私には入り込めない世界。中学生の男女が、何かに目覚めたように異性の身体なり顔なりを見て、お互いに色気を出している雰囲気に、嫌悪感しか感じなかった。
昔一度だけ、両親のすすめる見合いで、少し面白い、話の合う男の人と出会った。重ねたデートの何回目かで、カフェから出たら雨が降ってきた。「濡れてしまうわね」と彼の方を見たらキスをされた。彼と会ったのはそれが最後だった。
両親は最期まで私が結婚することを諦めていなかったようだが、昨年亡くなった。
私は遺産でヒト型アンドロイドを手に入れた。容姿は私の若い頃に似ているものを選んだ。
アンドロイドと2人だけの生活は穏やかだった。かつてお人形にしたように好きなお洋服を着せたり、お茶会をしたり。
アンドロイドは私を愛撫しさえした。きっと私はレズビアンだったのだ。
そんなことにこのアンドロイドを持つまで気づかなかったのが滑稽だけれど、彼女の美しい裸体を見ていると切ないような胸の高なりを感じてしまう。裸になって彼女の身体を触ると彼女もまた優しく私の身体を触るのだった。
幸せな生活は長く続かない。
私は入院することになった。多分退院することは叶わない。
準備がいる。このままアンドロイドをこの家に置いておくことはできない…。でも、大丈夫。郵便物を片付けるように、電気やガスを止めるように、リンゴの剥いた皮をゴミ箱に捨てるように、私は彼女を片付けることができる。
そう言い聞かせて、階段からアンドロイドを落とした。彼女はバラバラになって、そのまま壊れた。
私は入山テル。24歳。今日から自分の人生を生きる。