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雪の日の記憶

***その壱***

天気予報で言ってた通り
今日は朝から雪が降っている

手に取ってみるとすぐに消えてしまう
やわらかで水分の多い雪の結晶

踊りながら
空から降りてくる
ちいさな妖精みたいな姿を
眺めている

***その弐***

雪の日は静か

東京でも、生まれ育った信州でも
雪が降る日はなぜかとても静か

雪の積もる音が聞こえてきそうなくらい静かな雪の日
車が通ると聞こえるチェーンの音が
しゃんしゃんしゃんって
サンタクロースの乗るソリの音みたいで大好きだった。

東京の家ではそんな音は聞こえてこないけれど
耳を素すますと静まりかえった部屋
記憶という部屋の片隅から
しゃんしゃんしゃんっていう懐かしい音が聞こえてくるような気がした。

***その参***

小学生の頃華道を習っていた
近所の品の良いおばちゃまが茶道と華道を教えていて
茶室があるんだけど、どこかで洋風なおしゃれなお宅におじゃまするのが
週に一度の楽しみだった。

お花を生けた後、茶道の生徒さんが来る時があり
時々、一緒にお茶室に入れてもらえることがあった。
お手前なんてぜんぜんわからないけど
苦いけどどこかで甘いような…気がする
お抹茶と小さな和菓子をいただいて
なんとなく、雰囲気を味合わせてもらえた
子供だったけどそれはとっても風流で贅沢な時間のような気がしたし
どこかで大人の仲間入りしたみたいで
こんな優雅な時間を過ごせている小学生って他にいないんじゃない?って
優越感に浸ることができた。

それはある雪の日
いつものようにお花を生けた後

他に生徒さんはいなかったのに
先生がお茶をたててくれたことがあった

鉄瓶からあがる湯気とか
お茶を入れる匙の音
間茶をしゃかしゃかとたてるお茶線の音とか

お茶室にいるのに
お茶室の外は雪が積もっている様子が見えるみたいだったし
家の外がお茶室の中にあるみたいで
不思議な感覚になった

どのくらいの時間が流れたのかはわからないけれど
なんだか特別な時間が流れていた


お茶をいただいて玄関の扉を開けたら
思った以上に雪が積もっていて

庭木が綿帽子被ったみたいにおもたそうになってって

おもわず「わあ」って声があがってしまった。

その時は、ただ、先生の思い付きで、お茶をいただけたって思っていたけど

今、こうして思い出してみたら
あれは
あの空間は
あの時間は
私へのプレゼントだったんだなって
先生は私だけにお茶をたててくれたんだなって
今、わかった。

あの日はなんだかとってもうれしくて

真っ白に積もった雪の中
誰も足跡をつけていない

こんもりと雪がつもった
りんご園を走って家に帰った。

小さな動物が驚いて走ったみたいな足跡がついた。

そんな姿も先生に見られている気がしたし
あらまあ、って顔して先生に笑われてるみたいだった。

***その四***

しゃんしゃんしゃんしゃんって
サンタクロースが乗るそりみたいな車のチェーンの音が
記憶の彼方から、また聞こえてきた。

















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