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hovinci
「向かい風にのって」
地下鉄の改札を抜け、階段をのぼる。地上へ出るまでのあいだに、風が強く吹きつけた。思わず足を止めそうになるほどの向かい風。コートの裾がばたばたと揺れて、体ごと後ろへ押し戻されそうになる。
なんとか地上に出たとき、ふっと思い出した。そうだ、飛行機は向かい風に乗って飛ぶんだった。
離着陸のとき、飛行機の主翼に風が当たり、揚力という力が生まれるのだと、昔どこかで聞いたことがある。向かい風をうまくつかまえて、浮かび上がる。
風に逆らって進むのは、たしかに大変だ。でももしかしたら、その風は、自分を遠くへ運んでくれるものかもしれない。
まだ見ぬ場所へ、まだ知らない自分のもとへ。
そう思うと、肩に乗っていたものが、すこし軽くなった気がした。