FASTとは〜拡大したFAST市場
米国で急速に成長してきたFAST(Free Ad-supported Streaming TV)は、従来からある AVOD(Advertising Video On Demand)のように視聴者が選択したコンテンツを「最初から観る(再生する)」のではなく、リニアTV(従来のテレビ放送)と同様に 現在放映している番組をリアルタイムに視聴するストリーミングサービス です。
AVODは「広告型動画配信サービス」と国内で表されることが多いのですが、 FAST は「広告付き無料ストリーミングTV」、つまりインターネット経由で観るテレビ放送みたいなモノなんだなぁ、と考えていただくとひとまずはわかりやすいでしょう。
しかし、FAST サービスには無料ストリーミング(リニア)とAVOD(オンデマンド)の2つの形式が混在し、AVODがないFASTサービスはほとんどなく、逆に FAST がないAVODサービスがいくつか存在しているのが実状です。 では、何をもってFASTと呼ぶのか?その定義は何なのか?それもまだ明確ではないというのが現下の状況となっています。
ですが、米国で利用可能な FASTチャンネル は2020年の550チャンネルから2021年は1,000チャンネルに、さらに2022年には1,500チャンネルを超えたといわれ、2023年になっても新たなチャンネルの開設は後を絶ちません。また、それらのチャンネルを取りまとめる主要なプロバイダーも Pluto TV、Tubi、The Roku Channel など数多く存在しています。
今回は FAST とは? FAST サービスにはどのようなモノがあるのか?など、2023年4月に公開したプログラBLOG「FASTを知る〜広告付き無料ストリーミングTVとは」からnote用に抜粋版として再整理してご紹介していきます。
*FASTの詳細にご興味ある場合は上記リンクから本編もご覧ください。
広告付き無料ストリーミングTV
FAST は、2018年12月にTVREVが公開した記事において、初めてその言葉が使われました。当初は「Free Ad-supported Streaming TV Services」と呼び「FASTS(あるいはFASTs)」と略されています。
FASTという言葉がまだなかった2014年からサービスを開始していたPluto TVがその先駆者的な存在です。AVODを含み「ビデオオンデマンド」は、番組編成や放送時間に左右されることなく「好きなモノを」「好きな時に」観ることができるのが特徴のひとつですが、元々はそれと真逆にあった FASTは「少し時代遅れなサービス」だと、開始当初は考えられていました。
(参考)元エージェンシー幹部で現TVREV社メディアアナリストであるAlan Wolk氏が、TVREVの『ウィークリーレビュー』(2018年12月1日付)で「Pluto TVがヨーロッパをディスカバリーする」と題し、Pluto TVによる Discovery Channel コンテンツの追加と、欧州でのサービス拡張を紹介した記事内で初めて使用された。
しかし、近年ケーブルテレビ契約をコードカット(解約)して、ストリーミングのサブスクリプションサービスに流れていった視聴者の多くが、俗にいう「サブスク疲れ」を起こし、世界的な不景気も重なり、「広告付きだけど無料で観られる」このストリーミングTVを受け入れていったことで人気に火がつき、急拡大していきました。
ParamountやFoxが FAST プロバイダーの買収に乗り出したり、NBCUniversal(以下、NBCU)などが新規参入したりと FAST はここ数年で一番熱い市場となっていました。急激な成長からはやや落ち着いた感はあるものの、未だ注目度が高いことに変わりはありません。
まず FAST を知る
さて、調べていきますと米国で FAST と呼ばれているサービスの範囲は意外と広く、冒頭でも少し述べましたように、全てが完全に広告モデルのリアルタイム視聴だけという訳でもないようです。プロバイダーによっては、課金をしないと観られないコンテンツが多く含まれていたり(そもそもクレジットカード登録しないとサインアップさえできないサービスもある)、FAST の特徴であるリアルタイム視聴は当然ありますが、オンデマンドのコンテンツの方がメインに見えるようなサービスもあったりします。
「 広告付き無料ストリーミングTV 」という言葉だけでFASTを理解したつもりになっていると、そのサービスの中身は千差万別です。では、どこまでが FAST と呼ばれているサービスなのでしょうか。
タイプ別のストリーミングサービス(FAST/AVOD/SVOD)
*一部のプロバイダーのみを参考表示
このComcastの一覧ではFASTの代表的なプロバイダーとして、Comcast傘下のXumo(Xumo Play)とPeacock、それ以外にPluto TV、Tubi、Freevee(AmazonのFAST)が紹介されていますが、そのうちPluto TV、PeacockはAVODにも掲載されています。世界中で利用者が多いYouTubeはAVODに含まれます。SVODには国内でも馴染のあるNetflix、hulu、Disney+、AmazonのPrime Videoがありますが、PeacockはSVODでも登場しています。
前述のTVREVは「FASTは新たなケーブルテレビ」というレポートの中で、FASTを含むストリーミングサービスをビジネスモデルと配信方法から下図のように再整理しています。このレポートでの FAST の分類は実にシンプルです。「無料」か「無料でないか」のビジネスモデルで区分しています。つまり、完全な無料サービスなら FAST、定額制サービスはSVODとしているのです。そして、それぞれのビジネスモデルは「リニア」と「オンデマンド」の2つの形式(配信方法)でさらに分けられるとしています。
たしかに、リニアからスタートした FAST もあれば、立ち上げ当初はオンデマンドに力を入れていた FAST もあり、現在では FAST サービスのほとんどはAVODも提供している実状は前述しました。かたやSVODも同様で、本来はオンデマンドが主流でしたが、Peacock、Paramount+、Discovery+ などの主要なSVODがリニアチャンネルも提供し始めていますし、その他にもライブニュースなどを追加しているSVODも増えつつあります。
結局、SVODにも広告付きSVOD(ad-supported)と広告なしSVOD(ad-free)が存在しています。広告軸で分けない、FAST を理解する上でとても参考となる整理です。「広告のある、なし」よりも、「無料か、無料でないか」の方が視聴者(消費者)にとっては重要な違いなのです。
米国のFASTランドスケープ
大手メディアが持つ「メディア企業系FAST」には、ParamountのPluto TV、FoxのTubi、Comcast傘下であるNBCUのPeacock、さらにComcast公式のXumo Playがあり、Walt Disney、Netflixなどは FASTサービスを保有していません。Warner Bros. Discovery(以下、WBD)は、2022年8月のQ2決算説明会において「FASTサービスの検討は行っているが、参入は新たなSVODサービスを開始した後になる」と説明していましたが、2023年1月にRokuとTubiのそれぞれとWBDの FASTチャンネル を開設することを先に発表しています。
また、コネクテッドTV用デバイスやスマートTVのメーカーが保有する「OEM系FAST」 には、 Freevee(Amazon)、The Roku Channel(Roku)、WatchFree+(VIZIO)、LG Channels+(LG)、Samsung TV Plus(Samsung)などがあり、さらにPlexやCrackle Plusのような「独立系FAST」も存在しています。
YouTubeは本家本元のAVOD以外にも、SVODの「YouTube TV」においてリニアチャンネルをすでに展開していますが、「Movie&TV(映画と番組)」プロパティ内で広告付きのリニアチャンネルを数社(と一部のユーザー)とテストしていることが2023年1月に複数のメディアで報じられています。そう遠くない日に、YouTubeのFASTサービスも開始されると考えられます。
主な FAST サービス
Variety Intelligence Platform(以下、VIP+)の「米国のFASTランドスケープ」も参考にしつつ、独自の取捨選択も加えて主なFAST サービスをご紹介していきます。
2013年8月 ロサンゼルスで設立
2014年3月 ベータ版を立ち上げサービス開始
2019年1月 Viacomが3億4,000万ドル(約375億円)で買収発表
2020年10月 新たに設立されたViacomCBS Streaming(現Paramount Streaming)の一部門となる
18カテゴリー/約350チャンネル
MAUは約7,900万人
2014年4月 サンフランシスコで設立
2020年3月 Fox Corporationが4億4,000万ドル(約485億円)で買収
2020年10月「News On Tubi」でライブストリーミング・チャンネルを追加(FASTを開始)
世界250プロバイダーから約40,000コンテンツ
約210チャンネル
MAUは約6,400万人
Roku Inc.が運営するストリーミングサービスで2017年9月に開始
Rokuは、Anthony Wood氏の「6番目」となる事業会社で、元々はLLC(有限責任会社)として2002年10月にサンノゼで設立
ストリーミングサービスをテレビ端末で視聴できるデジタルデバイスの草分け的存在である
2007年当時、Netflixの副社長も務めていたWood氏は、Netflixから約600万ドルの出資を受けRoku Inc.として再スタートさせる
ストリーミング視聴用のCTVデバイスは、Netflixとの共同開発で進んでいたが、Netflixとしての独自デバイスを持たないことを経営決定したため(他サービスとの競合回避)、Roku Inc.はNetflix傘下から分離独立化され、2008年5月に最初の「Rokuデバイス」を単独で発売した
2017年9月にNASDAQ公開企業となる(コード:ROKU)
ストリーミング用のCTVデバイスの製造販売(近年はドングル主流)、アプリ提供に加え、広告事業なども行っている
約340チャンネル
Amazonが1990年からあった映画やテレビなどのデータベースサービスIMDbをもとにして、2019年1月にIMDb Freediveとしてサービス開始
2019年6月 IMDb TVへブランド変更
2022年4月「Amazon Freevee」に再リブランド
約130チャンネル
New Fronts 2023でAmazonは、Prime VideoのオリジナルコンテンツをFreeveeに広告付きで登場させることを発表
2020年7月 米4大テレビネットワークのひとつであるNBCを運営するComcast傘下のNBCUによってサービス開始
NBCのロゴマークにちなんで「孔雀」(Peacock)と命名された
無料広告付き、プレミアム、プレミアムプラスの3階層でサービス構成
有料会員数は約2,000万人
約50チャンネル
(参考)2019年5月にNBCUが33%保有していた「Hulu」の支配権を放棄したことで、Huluは実質Walt Disneyの完全子会社となり、NBCUのコンテンツは各社との契約切れを待ってPeacockへ移行することとなった
*株式譲渡は2024年1月以降にWalt Disneyに対して実施される
FAST の状況
FASTプロバイダーの状況
まず、 FAST を提供するプロバイダー数の推移です。すでに20以上のプロバイダーが存在しています。多くの事業者が、FAST は参入障壁があまり高くなく、大きなビジネスチャンスと捉えているようです。
その理由のひとつに、サービス開始に伴うスタートアップ費用にコンテンツ確保以外の大きな投資を必要としないことがあげられます。そして、そのコンテンツ確保においても、これまでケーブルテレビや衛星、通信会社などの有料プラットフォームのビジネスモデルの基本であった高額な「キャリッジフィー」(配信料)が存在しないことがほとんどのようです。あくまでもテレビネットワークやパブリッシャーなどのコンテンツ提供者と「広告収入」をシェアすることで FASTサービスが成立します。
*キャリッジフィー:アフィリエイト料とも呼ばれ、有料テレビサービスのプロバイダーからテレビ局などに加入者数ベースで支払われる
下図は、2021年までのFASTプロバイダー数の推移グラフです。
しかし、FASTプロバイダーの急激な増加により、優良なコンテンツ確保の競争が激しくなってきています。当初は、配信先(視聴者)を持っているプロバイダー側が優勢でしたが、FASTサービスが急増する中、条件交渉などのパワーバランスがコンテンツ提供側へ徐々に移っているようです。
VIP+のFASTレポート「Life In The FAST Lane v3」の中では、 FAST およびAVODサービスは次の4階層に整理されています。
マーケットリーダー(Market Leaders)
新興プロバイダー群(On The Cusp)
テレビハードメーカー発(TV-set Services)
ニッチ&ローカルグループ(Niche Audiences)
FASTプロバイダーのチャンネル数
次に、各FASTプロバイダーが取りまとめるチャンネル数です(2023年1月時点)。FASTチャンネル数は必ずしも常時増加し続けている訳ではなく、前述のテレビネットワークやパブリッシャーとの契約問題など、様々な理由で増減が見受けられます。
他方、後発の2021年からサービスを開始したAllen Media Groupの「Local Now」(ニッチ&ローカルグループ)は全米の225を超える市場にローカライズされたニュース、天気、スポーツ、交通、およびエンターテイメントなどのコンテンツを数多く提供しており注目度も高く、最大数のFASTチャンネルを保有しています。2023年1月にもNBC Newsの3チャンネル追加する発表を行っています。
2022年10月までの約3年間のFASTプロバイダー別チャンネル数を月次推移でチャート化したものです。Local Nowのチャンネル数の急増には目を見張るものがありますが、「テレビハードメーカー発」のLG Channels+と「ニッチ&ローカルグループ」のSTIRRは、直近でチャンネル数を減らしていることがわかります。
以上、「FASTとは〜拡大するFAST市場」について抜粋版でご紹介しました。FASTの状況に関する詳細、FASTチャンネルには実際どんなチャンネルがあるのか(Pluto TV例で紹介)、FASTの利用状況や市場予測、また今後の課題など、さらにFASTにご興味がある場合はプログラBLOGの「FASTを知る〜 広告付き無料ストリーミングTVとは」の本編もぜひご覧ください。
https://www.programmatica.co.jp/ume-blog023_fast/
Programmatica Inc.
楳田 良輝|Yoshiteru Umeda