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Q. 語族って何?【多言語学習への道】



A. 言語を分類した時の大きなグループのこと。


語族について


(A) Artículo 30

Nada en esta Declaración podrá interpretarse en el sentido de que confiere derecho alguno al Estado, a un grupo o a una persona, para emprender y desarrollar actividades o realizar actos tendientes a la supresión de cualquiera de los derechos y libertades proclamados en esta Declaración.

(B) Artigo 30

Nenhuma disposição da presente Declaração pode ser interpretada de maneira a envolver para qualquer Estado, agrupamento ou indivíduo o direito de se entregar a alguma actividade ou de praticar algum acto destinado a destruir os direitos e liberdades aqui enunciados.

 

上記は『世界人権宣言』第30条(この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない)である。(A)と(B)が何やら似ているのは気のせいではない。第30条を引いたのは最終条だったからで、深い意味はない。

 

(A)はスペイン語、(B)はポルトガル語だ。どちらもインド=ヨーロッパ語族に属する。同じ語族であり、しかも下位分類でも近いところにある。ここまで似ていると意思の疎通も無理ではない。

 

さて日本語で道のことを「ドーロ」という。なんと英語では「ロード」という。これは似ているではないか…!という説[1]はさておき、語族というものの考え方の基本はこういうことである。

 

つまりは「同一の祖先(祖語という)から生じたと考えられる言語の集まり」が語族だ。音の対応関係があるか、古い姿を考えたときに類似性があるか、文法に類似性があるか、基礎語彙(子供でも知っていて世界中どこでも使われるような語)に類似性があるか、といったことを調べて特定していく。

 

だが「ドーロ」と「ロード」は似ていても、日本語と英語がまったく異なるのはみなさんご存じの通りで、両者は同じ語族には属さない。少なくとも同系統だと証明した人はまだいない(なお日本語と英語を「比較する」といういいかたがあるが、言語学において「比較」できるのは同系統と証明されている言語だけである。英語とドイツ語は比較できる。だが日本語と英語を比べることは「対照する」という)。

 

さらに日本語では語族の下位分類を語群、語派の下位分類を語派といい、系統関係が証明できていないものの類似性の高い言語の集まりを諸語と呼んでいる。

 

多言語学習に関心がある人にとってはうれしいことだが、勉強したことばがあれば同族の他のことばは学びやすい。ドイツ語をやればオランダ語が、スペイン語をやればイタリア語がわかりやすくなる。逆にドイツ語(インド=ヨーロッパ語族)をやったところでアラビア語(アフロ=アジア語族)には無力に等しい。

 

では世界の語族のうち、いくつか紹介していこう[2]。まずは日本語が入る語族からだ。

 

【①日琉語族】

実は日本語も琉球語とともに語族を形成するという考え方がある。友達のいない言語(孤立した言語)という説もあるが、言語の区分は常に恣意性を伴うものであり、様々な説があるわけで、日本語と琉球語、八丈語といった言語で一つの語族を形成するとすればこの語族だ。

 

別の記事でも触れたが、母語と近いことばは学びやすく、母語と遠いことばは学びにくい。後者を指して「難しい言語」というならば、「世界一難しい言語」は母語次第ということになる。

 

逆に母語に近ければ「簡単な言語」という印象が強くなる。東京生まれ東京育ちの日本語話者にとって、琉球語を学ぶのは英語を学ぶよりハードルが遥かに低く、「名古屋語」を学ぶのはさらに楽な可能性が高いということだ。

 

次に日本語話者になじみのある言語がある語族もなじみのない語族も紹介していこう。長くなるのでこの記事は2回以上になる(多分続ける)。(1)含まれる言語数(何度もいうが言語の区分は恣意性を免れないので揺れがある)、(2)主に話されている場所、(3)語群や語派、(4)何かしらの特徴について述べる。

 

【②ニジェール=コンゴ語族】

(1)言語数:1500以上。世界最大の語族といえる。日流語族を遥かに上回るのは間違いない。

 

(2)主に話されている場所:アフリカ大陸のサハラ砂漠より南。面積でいえばアフリカ大陸の半分を超える。アフリカ大陸の面積は日本の80倍である。これもスケールが大きい。

 

(3)語群・語派:主にコルドファン語派、大西洋=コンゴ諸語とあるが、多すぎて収拾がつかない。興味のある人はぜひネットで探してみてほしい。

 

ただ日本語話者になじみのあることばでいえば、スワヒリ語がある。分類を詳しくいえば、スワヒリ語は大西洋=コンゴ諸語のベヌエ・コンゴ語群のバントゥー諸語に属する言語だ。読者を置き去りにしている感がなくもないが、もう一度整理しておこう。

 

・ニジェール=コンゴ語族

 ・大西洋=コンゴ諸語

  ・ベヌエ・コンゴ語群

   ・バントゥー諸語

 

言語の分類表ではこのように下位分類に行くに従って一字下げをしていく書き方がよく見られる。見やすいかどうかは別問題だが

 

(4)スワヒリ語あれこれ

 

・スワヒリ語はこのように書かれることばだ。

 

Kifungu cha 30

Hakuna maneno yoyote katika taarifa hii yanayoweza kubashiriwa kwamba yanaruhusu nchi yoyote, kikundi cha watu au mtu fulani kufanya au kushughulika na jambo lolote ambalo nia yake ni kuharibu haki na uhuru zilizoelezwa humu.

 

無理。という心の声が聞こえてきそうである。これが最初に挙げた『世界人権宣言』第30条だとは信じがたいのではないだろうか。系統が全く異なるとはこういうことである。

 

・スワヒリ語他、バントゥー諸語には名詞クラスという概念がある。例えば「人や生物」で1クラス、「抽象名詞」で1クラスといった分類だ。ドイツ語やラテン語が男性名詞、女性名詞、中性名詞という分類をするのと似ている。そしてスワヒリ語には名詞クラスが15ある[3]

 

・キリマンジャロ:スワヒリ語が話されるタンザニアとケニアの間に位置する、アフリカ最高峰の山がキリマンジャロだ。この名前はスワヒリ語の構造からすればキリマ(丘/山)・ンジャロ(輝く?)という2語から構成されている。そこで切れるのか。

 

まとめ

スワヒリ語は英語と全くことなることばだが、英語が苦手だった人にはそれはむしろ朗報なのかもしれない。

 

人と言語にも相性がある。インド=ヨーロッパ語族はダメでもニジェール=コンゴ語族とは相性抜群という人がいてもおかしくない

 

夢が広がったところで今回の記事は終わりにする。インド=ヨーロッパ語族他については別の記事で取り上げる。

 

結論


様々な面で似ている言語の集まりが語族。ひとつ言語を学べば同じ語族のことばの学習には応用がきく。日本語の友達はヨーロッパにはいない。

 



[1] 「犬が寝る(ケンがネル)からkennel(犬小屋)」というのもある。

[2] 語族名の表記や分け方には多少の揺れがある。

[3] Wikipediaは16クラス分類をとっているようである。

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