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このままじゃおわらねぇと叫ぶ『GET OVER JAM Project the movie』

JAM Projectについて今更説明する必要はないだろう。アニソン界の超大御所、SKILL、GONG等スーパーロボット大戦の主題歌は言うまでもなく、数多くのアニメ、牙狼シリーズ等の主題歌を筆頭に脳内で再生出来る曲は多い。

本作はそんな彼らの2000年からデビュー20周年によるドキュメンタリー映画となっており、全ての楽曲を網羅している訳でもない、ライトなファンでしか無い自分だが「まぁなんやかんや良く聴くアーティストだし行ってみるのも悪くないだろう」というくらいの軽い気持ちだった。

そこには彼らの闘いの歴史と彼らのこれからという現実が、まざまざと描かれていたのだ。

世界に日本の「Anison(アニソン)」を躍進させた開拓者であり、”レジェンド”と称されるスーパーユニット、JAM Project(JAPAN ANIMATIONSONG MAKERS PROJECT)の結成20周年を記念した初のドキュメンタリー映画。460日間に渡る長期密着を敢行。レコーディング、海外LIVE、LIVEツアーリハーサル…だが、誰も予測し得なかったCOVID-19 の影響により、予定されていたLIVEツアーは次々と中止になっていった…。そんな“現在(いま)”だからこそ浮かび上がる、音楽を通して世界を勇気づけてきた彼らの真実のメッセージとは?メンバー自身でさえ知らなかったと驚く“誰もみたことのないJAM Project”の姿が、ここにある。

THE Age of Dragon Knight

この映画は4つのエピソードで区分される。
1つ目はアルバム「THE Age of Dragon Knight」のレコーディング風景。
『THE Age of Dragon Knight』のレコーディング風景。私はそのアンテナの低さ故にこの映画で本アルバムの存在を知り、これ書くお供として聞いているのだけれど。梶浦由紀、FLOW、angela、GRANRODEO、ALI PRPJECT、畑亜貴らを作詞作曲陣のゲストとして迎え2020年元日にリリースされた。個性の強い5人がこれまた個性の強いゲストのアーティストらとディスカッションし、試行錯誤しつつアルバム作りに励んでいる姿を観ることが出来る。
彼らが製作した曲を聴くと「あ、たしかに〜〜の曲っぽいぞこれ」と感じるのだが、それが映画中の言葉を借りるなら「JAM色」に染められていく姿は圧巻。梶浦さんは自身が昔海外でレコーディングした際のオーケストラを思い出すと言い「1人1人は個性が強すぎて絶対まとまらないと思うのに5人で並ぶとピタッと揃う」と語る。
和気藹々としてるだけでなく、きただにさんが担当パートに苦戦し、遠藤さんとパート変えようか?と相談するなど歌のエキスパートである彼らにも苦手なものってあるんだ…と当たり前なことを改めて感じる一幕もあった。

アニソン=Anisong

2つ目はJAM Project結成から、徐々に彼らのライブの規模が拡大しているとともに、アニソンそのものが市民権を獲得している姿を描く。
JAM Projectが2000年に結成され、過去のライブ映像などを流しつつ、彼らのライブの規模が広がっていくとともにアニソン自体の地位が上がっていく姿を描く。過去のライブで披露されたSKILLや牙狼~savior in the dark~などの映像を使用するそれはライブビューイングのよう。

ソウルや上海、ヨーロッパへその翼は広がっていく。そのころアニメそのものがオタクのものであったあのころから少しずつ地位が向上していくその時代にまさに降り立ったJAM Projectはまさに開拓者であった。
最後は2019年、ニューヨークへ飛び、そこで行われたコンベンション並びにランティス祭り2019NewYorkの映像で〆る。
海を越えたファンがインタビューを受けJAM projectの曲の一番なんて選べないです~とどこかで聴いたような発言をしたり、JAMファンからすればドキュメンタリーに自分たちの姿が残るという史上空前最強バトルな状況が起きた。コスプレをし、寝そべりを抱え、両手にキンブレを持ち待機するというもはや幾度となく見た光景が海の向こうでも繰り広げられており苦笑いやら、そしてこの一年観ることの出来なくなったすっかり失われた光景を観ているようでよくわからない感慨にふけったりもした。
その少し前にHuluではJAM Projectのライブ映像が配信された。彼らの歴史を追うことに大変助かる

JAM Project5人のメンバーの想い


3つ目はJAM Project5人のメンバーのソロとしての活動にも密着し、彼らにとってのJAMとは?を描く。既に物心ついていたころからアニソン歌手として存在していた5人のバックボーンは知らないことだらけで初めて聞く話もたくさんあった。彼らは綺麗な上辺の気持ちではなく生々しい本音を吐露してくれた。
LAZYのボーカルだったころからアニソンのオファーがかかったころを語る影山さん。鳴かず飛ばずだったころウィーアー!の仮歌を担当したらそのままアーティストに採用されたきただにさん。地元が好きじゃなかったと語り震災を経て戻ってきたと語る遠藤さん。数年前くも膜下出血を起こし、死の淵を彷徨った福山さん。奥井さんはJAMで男4人の中1人女性としての立ち位置や、上記の福山さんや自身の家族のことに触れ「感謝の気持ちは会えるうちに伝えたほうが良い」と語るなど5人の胸の中は様々。
パンフレットには映像中では語り切れなかった5万字に渡る5人の単独インタビューが掲載されており、ネタバレになるため封がされていた。

GET OVER~乗り越える~

4つ目はそしてJAM Projectの現実と未来。予定していた2020年のツアーは本来どういうものだったのか。そしてそれが全て中止となり、彼らは何を思っているのか。
2020年初頭、まだコロナが日本にまで及ぶ少し前に20周年のツアーについての会議が行われた。そこで語られていたのはJAM Projectといえども年齢や体力、アニソンのシーンの移り変わりの中でJAM Projectが継続して活動を続ける難しさが話し合われた。一つ一つのその言葉が鉛のように重く沈む。解散、という言葉は明言こそされなかったが、このツアーが最後になるのでは?という重い空気が漂っていた。

JAM Projectの終わり。どんなアーティストにもいつかはその時が来るものだが、JAM Projectに関しては想像したこともなかった。しかしリーダーの影山さんは2021年でもう60歳。還暦だ。「山の頂上に登りきってそこにずっといることも出来るけど、新しい山も挑戦したくなる」とは映画での影山さんの言葉で、笑顔でポジティブな口調だったがその言葉は重い。

しかしコロナウイルスでライブは全て中止となった。歌うことそのものを奪われたことJAM Project。「こんなに歌えないのははじめて」とマスク姿で語る影山さんの姿はもはやマスク姿が当たり前になってしまった世の中で逆に見覚えのある光景だった。

歌うことを奪われ、それでもなお、彼らは立ち上がった。「THE Age of Dragon Knight」でのアルバム制作に関わったアーティストを迎え、2020年9月に配信ライブ「JAM.FES」が開催されたのは既に知る通り。たくさんのヒーローの歌を歌ってきたJAM Projectもまた、逆境に立ち向かうヒーローであった。その姿はパワフルで、エネルギーに満ち溢れていて、元気をもらえる。

JAM.FESの映像を流し、最後のインタビューで彼らはこれからの未来を語る。未来を語る彼らの顔は2020年冒頭の会議では考えられないくらい前向きだ。皮肉なことだが、コロナで歌えなくなったことが彼らを初心に帰らせたのだ。
この映画はJAM Projectの旅は続く。という形で終わるが、もしコロナが無かったらこの映画はどう終わっていたのか?JAM Projectはどうなっていたのか?と考えてしまう。しかしこのままじゃ終われねえ、終わらねえと叫んでいるようで、彼らの20周年のドキュメンタリー映画がこのような希望を持った終わり方で良かったとひとまずは安堵する気持ちを持ってしまった。

彼らの旅はこのままで終わることは無いだろう。この映画がGET OVER、乗り越えるというタイトルを付けられたのは初期から決まっていたものだが様々な文脈が付随され、運命的なものを感じてしまう。
時代を駆け抜け、まだまだ戦い続ける彼らの楽曲を、今一度噛み締めていたい。


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