R6司法試験 再現答案:選択科目(倒産法)

こんにちは。からかさです。
先日まで令和6年度司法試験を受けてきました。
こちら倒産法の再現答案になります。


第1問

3.7枚
第1. 設問1(以下破産法につき法名省略)
Dのとりうる方策として、訴えの提起(会社法423条1項)が考えられる。もっとも、管財人Dに原告適格あるか否かが問題となる。
法は、破産財団の管理権を管財人に専属させることで、現有財団から配当財団を形成させることとしている。そうだとすると、開始手続前の原因による取締役の会社に対する責任追及も、財産上の訴えであることからかかる趣旨が及ぶと言える。ゆえに、破産管財人にも原告適格が認められると考える。このように解することが判例において株主代表訴訟の受継を管財人に認めていることと整合すると言える。
本件では令和4年6月にBが弟にA社に無断で1000万円の貸付を実行しており、返済が見込めない状況に陥っている。ゆえにDについても、訴えの提起が可能である。
なお、慎重を期すべきとの観点から、裁判所の許可が必要(78条2項10号)となっている。
第2. 設問2
1. A社の手続
そもそも、「破産者」たるA社には重要財産開示義務あり(41条1項)。そして、かかるA社の「取締役」であるBには請求に応じて「必要な説明」を行う義務が生じる(40条1項3号)。そのため、「破産管財人」Dは同条に基づき裁判所に請求することが考えられる。また、Dは上記説明を求めるほか、「破産財団に関する帳簿、書類その他の物件を検査」することも可能であり(83条1項)、かかる手続をとることも考えられる。しかし、本件ではDにはBが財産隠匿しているとの情報や、Bが多額の有効費を支出しているとの情報が寄せられているところ、このようなA社を対象とする手続により実効性が確保されるかは疑問が残る。
2. Bの手続
(1) B個人についても破産手続開始決定(30条)がなされており、A社と同じくDが管財人に就任している。そのため、「破産者」たるB自身にも重要財産提出義務(41条1項)及び「必要な説明」を行う義務(40条1項1号)が生じている。そこで、裁判所は重要財産について記した書面の提出を求め、また管財人Dは必要な説明につき裁判所へ請求することが考えられる。さらに、Dは「破産者」Bにつき検査を行うことも可能である(83条1項)。また、Dは「破産者」Bにつき検査を行うこともできる(同条項)。
(2)しかし、Bの破産手続において取得した資料をA社への手続において流用できるのか。
法は、債権者などの利害関係人の「権利関係の適切な調整」及び「債務者の財産等の適正かつ公平な清算」(1条)のために、破産者は破産手続において情報を提出し、また検査等を受忍する義務を負わせている。すなわち、別個の法人格に対する破産手続との関係で上記資料のために収集された資料を流用されることは原則として想定されていないというべきである。そこで、特段の事情のない限り、流用は認められないと考えられる。
本件では、A社とBは別個の法人格である。しかしA社の70%の株式をBが保有している以上、両者は経済的実質において同一性が認められるというべきである。そして、上記Bについての財産隠匿・浪費の疑いがあることから、B個人の財産状況についての資料をA社の破産手続において使用する必要性が認められる。以上より、本件においてはAの手続においてBの手続において資料の流用を認めるべき「特段の事情」が認められる。
よって流用が可能である。
3. 裁判所やDは以上の手続等をとることが可能である。
第3. 設問3
1 ①の場合
(1)  160条1項1号による否認の可否
A社はE社との間で債務超過後の実質的危機時期に本件事業譲渡を行なっている。また、A社の代表取締役とE社の代表取締役はともにBである。そのため、E社はかかる時期にA社が自らの責任財産を譲り渡すものであることについては悪意であったといえる。しかし、本件事業譲渡の譲渡対価4000万円は4店舗の価値として相当額といえ、直ちに有害性を肯定することはできない。
したがって、同条項による否認は認められない。
(2)  161条による否認の可否
ア E社は、本件事業譲渡によりA社「の有する財産」を処分し、相手方から「相当の対価」を取得したものであるといえる。
イ 「隠匿等の処分」をするおそれは認められるか(1号)。
事業譲渡における譲渡対価が債務の本旨に従った履行の場合の場合、それは債務の消滅行為であり直ちに隠匿等の処分を生じさせるおそれがあるものとは認められない。そこで、特段の事情がない限り「隠匿等の処分」をするおそれは認められないと考える。
本件では、確かに本件事業譲渡においてE社は相当な対価を支払っている。しかしながら、A社は取締役Fから事業資金として5000万円借入れを行なっているところ、同借入れにつき、本件事業譲渡当日にその譲渡対価を持って弁済に当てている。前述の通りA社とE社の代表取締役はともにBであり、E社はA社の同借入れについてよく知っていたものといえる。そうだとすると、Bは身内であるFに対する当該弁済を優先的に行うために本件事業譲渡を行なうことで4000万円の調達を図ったものであるというべきであり、「他の破産債権者を害する」行為であるというだけの特段の事情が認められる。
したがって、本件事業譲渡は「隠匿等の処分」をするおそれを現に生じさせるものであるといえる。
ウ そして、A社について上述の目的を有しており、「隠匿等の処分をする意思」があったものであるといえる(2号)。また、E社においても代表取締役がBである以上A社が「隠匿等の処分をする意思」を有していたことを知っていたといえる(3号)。
(3)  以上より161条により否認権行使が可能である。
2 ②の場合
(1)  160条1項1号による否認の可否
本件事業譲渡は債務超過後の令和5年3月末日に行われており、実質的危機時期になされたものである。その上、A社が1000万円相当の店舗を4店舗譲渡したのに対し、G社が支払った対価は1000万円のみである。そうだとすると、本件事業譲渡には有害性が認められるともいえそうである。しかし、Hに対する借入金債務3000万円を譲受会社G社が債務引受しており、債務引受により引き受けた債務額を対価から控除している。すなわち、契約を全体としてみると、相当な対価をA社が受け取っているものということができる。ゆえにかかる観点から有害性を認めることはできないため、同条項による否認は不可能である。
(2)  161条に基づく否認の可否
G社はA社の債務超過の状態及び資金繰りに窮していること及び事業停止について悪意であった。しかし、本件では上述のような「特段の事情」がない。
ゆえに同条項による否認権行使も不可能であるというべきである。
(3)  以上より、否認権の行使は認められない。

第2問

3.3枚
第1. 設問1(以下民事再生法につき法名省略)
1. 小問(1)
再生計画の可決要件は、172の3第1項に定められている。具体的には、議決権者の過半数(頭数要件 1号)及び議決権額の2分の1以上(議決権要件 2号)の双方を満たす必要がある。
2. 小問(2)
(1)まず、BのA社に対する①売掛金債権500万円、及び②再生手続開始の前日までの遅延損害金10万円は「再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であるから、再生債権(84条1項)にあたる。そして、①・②はどちらも87条1項3号イ〜ヘに該当しないため、それぞれの債権額が議決権額になる(同条4号)。
(2) ③再生手続開始後から支払済まで年14.6%の割合による遅延損害金
③は「再生手続開始後の不履行による損害賠償」に当たり、再生債権に該当する(84条2項)。もっとも、かかる再生債権は議決権を有しない(87条2項)。
(1)              以上に加え、A社が再生債権の内容を認め、他の債権者からも異議が出されていないことから、Bは①及び②の債権額の合計である510万円につき議決権額として認められる。
3. 小問(3)
Cの売掛金債権は、再生債権に該当する。そして、当該売掛金債権はユーロ建てであることから、「外国の通貨を持って定めたもの」に該当する。したがって、再生手続開始時における評価額が議決権額となる(87条1項3号ニ)。また、A社は再生債権の内容を認め、他の債権者からも異議が出ていない。
したがって、200万ユーロ×140円=2億8000万(円)がCの議決金額として認められる。
4. 小問(4)
(1) 799人分について
A社は799人分について作成されていた顧客リストに基づいて認否書(101条1項)に記載している(同3項)。かかる部分については他の再生債権者についても異議がなされた事情もない。よって記載額をもって確定したといえる(104条1項)。
よって、①記載された6万円が議決権額として確定するとともに、②認可された再生計画に従い権利変更の対象となる(179条2項)。
(2)記載漏れのあった1人について
原則として、再生債権の届出(94条1項)がない場合、議決権が認められず、権利変更の対象にもならない(181条1項1号)。本件においてDについては認否書に記載されていないため、議決権が認められないとも思われる。
そもそも、法は再生計画の実行等の手続の安定に加え、95条により実質的平等を図ることを趣旨としている。そこで、かかる観点を加味し、手続安定の要求や実質的平等の観点も踏まえて相当な場合には記載のない再生債権についても記載されたものとして扱うことも許容されると考える。
本件において、Dの再生債権額は6万円と比較的低廉である。そして、800人中1人のみの記入漏れであり、必要な手続も軽微なものである。そうだとすると、手続の安定に対する不利益は小さいものということができる。一方で、同じく自ら届け出なかった799人については再生債権として扱われるのに対して、もっぱらA社のミスを原因としてDがじかかる利益を受けられない。すなわち、Dが届出をしていないことを加味したとしても帰責性は大きいものというべきである。
よって、実質的平等の観点から、信義則上記載があったものとして取り扱うべきである。
(3) 以上より、800人全員について上記取扱いを受けると考える。
第2. 設問2
1. 小問(1)
Eは再生債権の届出(94条1項)を行なったものの、A社が否認する旨認否書に記載(99条1項)している。そこで、Eとしては査定申立て(105Ⅱ)を行うべきである。
2. 小問(2)
(1)Aの反論
49条1項が再生債務者に双務契約の履行及び解除の選択権を付与した趣旨に照らすと、本件違約金条項は認められないと反論することが考えられる。
(2)検討
判例は、破産法53条1項につき、解除時の違約金を取り決める旨の特約の存在を排除することまでを含意していないとして、違約金条項は特段の事情のない限り有効であるとしている。同様の論理が、同じく49条1項にも妥当するといえる。もっとも、民事再生法では契約の履行による事業活動の継続を前提としているものであり、債権者間の実質的平等も図る必要がある。そこで、「特段の事情」の考慮においては実質的平等の観点も加味する必要があると考える。
本件では、本件売買契約において解除に際する予告期間の不足に応じて1200万円の違約金を支払う旨が合意されていた。そして、A社は監督委員の同意を得て解除する旨通知を行った。Rの生産する有機野菜は、他の取引先に販売することが容易であり、本件売買契約が即時解除されてもEには損害が発生しない状況にあった。すなわち、再生手続において本件売買契約を解除することでEには損害が生じていない。にもかかわらず、事業の継続を行う1200万円をするのは実質的平等に反するといわざるを得ない。ゆえに、特段の事情が認められ、本件違約金条項は無効であるといえる。(途中答案)

感想

1日目最初の科目であり、また直前にやった令和5年の過去問の出来があまり良くなかったのでめちゃくちゃ緊張していました。
案の定第1問は頭が回らないまま進み、設問1の条文を探せずしかもわからないのに「破産法上」の手段という指示を無視した論述をして時間も紙幅も食うというやらかしをしてしまいました。
設問2はなんとか条文ゲーに参加できたものの、これでよかったのか感が半端ないです。
設問3は百選掲載の事業譲渡についての判例「があること」は思い出したものの、条文との対応関係や論じ方がなかなか出てこず、161との関係で無理やり当てはめた感じになってしまいました。また、②についても特定の債権者Hに対して有利になる債務引受なのにその点の検討を飛ばしています。
全体的に見てやってしまったなあという感触です。

一方、第2問は第1問と比べてそれなりに解答筋には乗ったと思います(あんな悲惨な第1問と比べるなよという感じではある)。
もっとも、181条に触れられず「畢竟独自の見解」を述べる部分があるなど、条文探しにミスっている様子がちらほら…涙
設問2は判例がすぐに出てきたので、とりどころだと思って破産法と民再法の違いを踏まえた規範定立もしてみました。点に反映されてるといいなあ。

全体的にみて感触は良くないです。足切りはしていないことを祈るばかり…
周りの倒産法選択者に聞いても今年は難しかったとか、途中答案になったという人がそれなりにいました。なので第1問設問1実質白紙答案の私も、沈みはすれど受験者全体で見ると幾分かマシなパターンを期待します。

それではまた。

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