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まいった!必然から愕然へ、逆襲する魔性の女_20170917ローズS
俺は小学3年、4年とクラス替えもなく、クラスで人気者だった。スポーツは必ずリーダーで、何をやっても誰にも負けなかった。勉強もクラスで常にトップ3には入っていたと思う。だからか、必ず学級委員長に推薦され、立候補者らに大差をつけて何度も当選してきた。
すると当然、女子からも人気が出て、クラスでもかわいいとされる女子たちからもチヤホヤされた。なかでも他の男子からも人気のある積極的な女子二人が俺を取り合うようになってきた。断っておくが、小学3,4年生である。
俺は何事においてもクラス全体をまとめるという責任感からデレデレするわけにもいかず、常に硬派を装っていた。
しかし恋なんて、追えば逃げるし、逃げれば追うし、が相場だ。
硬派で毅然とすればするほど追いかけてくる。
二人の女は俺に気に入られようと競い合うようになった。授業中は一日に何十回も二人から手紙が送られてくる。今ならラインで簡単にやりとりできるが、当時は離れた二人から他のクラスメートの机を3,4人中継して俺の机にやってくる。今にして思えば、中継された奴らには迷惑をかけた。というか、一回の授業中に何度もそんな手紙を中継するなんて面倒くさいにもほどがある。なぜ奴らは断らなかったのか、不思議だ。
授業が終わったら終わったで、たいへんだ。
俺は男友達みんなと校庭に出て、休み時間にさえスポーツに明け暮れる。だから次の授業が書道(習字)のときは休み時間中に墨を磨(す)らないといけないので、男たちにとってブーブー状態だ。
だがそんなときにも俺には、二人が我先に俺の机にやってきて自分の持参したかわいい絵柄のちり紙を墨に巻いて、俺の墨を磨ってくれるからありがたい。こちらが頼んだわけでもないのに競い合って俺の机に座ってくる。そのうちに話し合ったみたいで、一週ごとに替りばんこになって平和になった。
男たちは休み時間に体を動かし、戻ってくると俺はいつでも半紙に真っ黒な字を書ける状態になっていた。しかし仲間たちはそこから速攻で墨を磨るものだから、いつも習字は薄いグレーの字、つまり水でにじんだ状態だ。だから奴らは先生に怒られる。怒られるから隠れて墨汁を使用するが、それも見つかりさらに怒られる。
俺はと言えば、男の墨なのにいつもかわいいちり紙が一週間ごとに立ち替わり入れ替わり巻かれていた。すずりもいつもきれいになっていた。いつの日か、ぶんちんにはリボンが飾られていた。
墨の濃さに二人の女の愛情を感じていた。
わけがない。
もう一度言う、小学3,4年生だ。
我々の小学校では徐々に児童数も少なくなり、3,4年時は3クラスだったのが、どうやら5,6年は2クラスになると噂された。4年の3学期、クラス替えが明らかになった。つまりみんなと離ればなれになる。
女たちは焦ったのだろう。このままでは引き下がれないと思ったのだろう。かわいい系で積極派の美恵子と美人系で負けず嫌いの道子が「どっちが好き?」と俺に迫る場面が多くなってきた。
もちろん硬派な俺は答えない。
どちらかを選ぶことはどちらかを選ばないことだ。
学級委員長としてもスポーツのキャプテンとしてもそれはできなかった。それでも美恵子と道子は仲良くやっていた。
しかしそのときはやってきた。4年の3学期の終り、道子は5年になれば福島へ転校が決まっていた。
ある日、授業が終わり、俺は美恵子と道子に呼び出された。
クラス全員が下校し、教室に三人が残った。というか残された。
なにか修羅場の匂いがした。
男の予感だ。
「結局、どっちが好きなの?」
沈黙をかき消すように道子が迫った。
目が本気(マジ)だ。
「ねぇ、どっち?」
自信あり気に美恵子も迫る。
何度も言う、小学4年生だ。
男としては、修羅場は避けたい。
血を見るのも嫌だ。
俺は決断した。
「お前ら二人教室の後ろにいろ。俺は教卓(教壇)の中に隠れるから。どっちからでも良いので一人ずつ俺のところへ来い。どっちが好きか答えてやる」
じゃんけんに勝った美恵子が先にやってきた。
美恵子の耳元に小声で「・・・」伝えた。
次に道子がやってきた。
道子の耳元に小声で「・・・」伝えた。
またまた嫌な沈黙が教室を包む。
重苦しい雰囲気。
いたたまれなくなった俺はカバンに教科書を詰め、「さあ、帰るぞ!」と言った。
最後くらい三人で帰るか、と思うや否や、美恵子も道子もどちらからともなく目を合わせ始めた。
お互い何て言われたか確認しようと目配せしたのだ。
やばい、「先に帰るぞ」と言い、教室を後にしようとすると、「なんだー、待ってよ」とニコニコしながら二人が追いかけてきた。
あの重苦しい表情から解き放たれた美恵子と道子が勢いよく追いかけてきた。
俺は逃げた。二人に袋叩きにされたくなかった。
二人は仲良く俺を校庭まで追いかけてきた。
誰もいない校庭を三人が走り回った。二人が共闘して挟み撃ちにしてきた。
俺はスポーツは誰にも負けない。
挟み撃ちなど赤子の手を捻るかのごとく、二人を撒いた。
俺は校門を後にひとりで帰った。
後ろに小さく二人が仲良く帰るのを確認しながら。
俺が二人に言ったのは、
美恵子に「俺が好きなのは道子だ」
道子に「俺が好きなのは美恵子だ」
何度も言う、俺も小学4年生だ。
********************
あれから何十年経ったろう?5年ほど前に中学の同窓会があった。
成人式にも出ていない俺は卒業以来はじめてみんなと会った。
中学2,3年で仲良かったクラスメート男子と一緒に飲んでいた。
向うの方で美恵子がいるのに気がついた。
話したかったが、小学生当時の俺が蘇る。こちらからは行かない。
すろと、美恵子はツカツカと俺たち二人の前に座った。
「元気?」は覚えているが、何を話したか覚えていない。
道子の話をしたのかどうかも覚えていない。
俺は隣の中学の友達には悪いが、美恵子がここに来たのは偶然ではなく、必然だと思っていた。
俺に会いたかったのだ。
美恵子は小さいころとビジュアルはあまりギャップがなく、いわゆる美熟女というより年齢より下に見えるかわいらしい淑女だった。
同窓会は終了し、美恵子は帰った。
俺と中学の友人は2次会へ行った。
いろいろと積もる話があったのだが、友人はやたらと美恵子の話をぶり返してきた。
中学1年のとき、彼と美恵子は同じクラスだったと言ってきた。それはなんとなく覚えていた。
「で、それが?」
するとようやく本題に入ってきた友人は「じつは中1のとき、美恵子と付き合っていたんだ。あいつが告白してきて。マフラー編んでくれたりもしたし。だから1次会で俺の前に座ったのは偶然じゃなくて必然だったんだ、お前には悪かったけど」
「おっ、おっ、お前の口からその言葉を聞くとは思わなかったよ。それ俺のセリフだ」
「えーーーー?」
必然が愕然へと変わっていった。
恐るべし、美恵子。
魔性の女、美恵子。
俺はまんまとあの時の仕返しを受けていたのだ。
さて、本日はローズS。
⑧ブラックスビーチを狙う。
この馬の母はビジュアルショック。
美恵子には感じなかったが道子はどうなっているんだろう。
会いたくもあり会いたくもなし。
いやビジュアルのギャップじゃない。
仕返しが・・・。
俺はあれ以来、女に告られたことはあっても告ったことはない。というより告ることができない性格になってしまった。
小学3,4年生のときを天井としてモテ期のピークをつけ、そこから右肩下がりにダダ下がりで、すっかり草食男子と化したのは言うまでもない。
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