見出し画像

自分の常識を疑うこと。『愛着障害は何歳からでも必ず修復できる』の読書ノート


米澤好史『愛着障害は何歳からでも必ず修復できる』(合同出版、2022)を読んで、仕事でも家庭でも活躍しそうな考え方をたくさん学ぶことができ、かつ、自分の常識がいろいろと揺さぶられたので、読書メモを残しておこうと思う。

筆者は、和歌山大学教育学部の教授で、学校教育・学習指導・発達支援・青少年育成・子育て等に関する講演を多数開催したり、愛着の問題を抱えるこどもへの学習支援や不登校支援にも力を入れているということで、いろいろな現場にも詳しい方のようだ。


この本を手に取ったきっかけは、Facebookのタイムラインに流れてきたから。「愛着」というと、教員採用試験で単語を知っているぞ、というぐらいで、恥ずかしながら「あぁ、あのボウルヴィの理論だよね。親のスキンシップを中心にした関わりが、子どもにとって大切というか、なんというか、むにゃむにゃ」という程度の理解だった。近所の図書館にたまたま在架してあって、手に取ってパラパラと読んだときに、発達障害と愛着障害との区別や重なりについて書かれていて、これは仕事にも活かすことができそう、と思ってじっくり読むことにした。


愛着の絆の「3つの機能」と探索基地が働くための「関門」


愛着に3つの機能があるということは、初めて知ったことだった。(筆者のオリジナルの理論かな)


安心・安全と、つい2つセットにして使われることが多いが、そこは明確に分ける必要あり、また探索基地を機能の1つとして置くのが筆者の主張。支援の段階を考えたり、「探索基地」を形成することが、「これができたら愛着形成ができた」「これができたら愛着障害を治せた」というわかりやすいゴールになる、というのが理由だそうだ。


①安全基地:「恐怖、不安、怒り、悲しみのようなネガティブな感情、すなわち嫌な気持ちになった時、誰かが大丈夫だと守ってくれる」という働き ②安心基地:ポジティブな感情を生じさせてくれる感情の基地。「特定の人」と一緒にいると、「落ち着くなあ」「何だかじわっと楽しくなってきた」というように、いい気持ちを感じさせてくれる存在、機能。 ③探索基地:安全基地から離れて、いろいろな場所を探索したり、新しい出会いを経験したり、必要な知識や情報などを手に入れること=探索行動 p.14~21


そして、この探索基地が働くためには、関門が2つあって、そのうちの1つが「参照視」というものだそうだ。例えば、子供が「どこどこに行ってもいい?」と愛着対象(親など)に聞く行動のことを示している。ここに対しての記述で、まずは自分の最近の子育てを反省・・・。


「そんなこと、いちいち確認しなくていい、自分で判断しなさいという対応は、子どもの自立行動を促すものではない。自分で判断しなさいという対応は、かえって、子どもの分離不安を招き、一人でできるという自己確信の形成を阻害する。自立の強要はかえって自立を遅らせ、歪めます。」 p.22より


ついつい言っちゃっているんだよなぁ。「子供の自主性」は大事だ、と言いながら、突き放してしまっている自分がいる・・・。


愛着障害の修復のポイント


そして、愛着障害の人に対して、してはいけないポイントがp.133にまとめてある。全ては紹介しないけれども、例えば、子どもが何か悪さをしたときに親が子どもにしたことを認めさせるのは「自己防衛」の行動を取ってしまうので、逆効果ということだ。「自己防衛」で、逆に注意した親を責め続けてしまうらしい。筆者が主張している、「自分のしたことを認めさせるのは、愛着障害にとって、スタートではなくゴール。」ということは、気を付けていきたい。また、「受容・傾聴・向き合う対応」もNGということにも驚いた。「傾聴」は、多くの教員にとって大切な姿勢と聞かされ続けて、僕にとっては常識だったから、なおさらだ。傾聴されると、愛着障害の人は、自分のネカティブな感情に気づいたときに、どうしたらいいか分からなくなってしまうことがあるのだそうだ。


他にも、愛着障害をどうやって修復するかの記述があった。筆者が挙げているポイントで個人的に一番重要だと思ったのは、「安心基地」についての記述だ。まずは「安心基地」の機能から修復していこう、ということが、p.153に書かれていたので、箇条書きでまとめておく。ちなみに、修復していく順番は、「安心基地」→「安全基地」→「探索基地」の順番なのだそうだ。


  • 1日1回以上、2人きりで一緒の作業をすること。勝ち負けではなく、同じ方向を向いて一緒に作業できるような内容

  • 一緒に活動をした際、一緒に同じ行動をしたら、同じ感情が生じたことを確認する。

  • 1対多でも、1対1の場面を意識的に作ることでカバー。でも、家庭では、できるだけ、他の兄弟と一緒ではなく、1対1の時間をつくってあげる。

  • 同じ方向を向く。さわる(接触感)、つくる(関与感)、できる(成就感)を意識して設定する。

  • 感情は、放置したり問うてはいけない。感情は支援者がいい当てるもの、教えるもの。

  • 子供の主体性を育む、自主性を育むということは、愛着障害の支援には失敗する。

  • 愛着障害には、youメッセージの方が、褒める時には、効果的。Iメッセージではない。


最近、親として、子どもと一緒にいるとき、勉強を教えつつ、褒めたり叱ったりしているな・・・。それでは、同じ方向を向いていることにはならない。そこで、一緒に家庭菜園の農作物を収穫して、「たくさん取れて、嬉しいねえ〜」「食べるのが楽しみだねぇ〜」というようなポジティブな感情を積極的に共有する関わりをしてみたら、なかなかいい感じ。継続してみよう。


「自主性」や「Iメッセージ」など、自分で「こうすれば良い」と思っている常識も、疑ってみた方が良さそうだ。どんなシチュエーションでも、どんな生徒にも、そのままで使えるような魔法のような実践はない。


そして、うちの特別支援学級の生徒たちにも、愛着障害のために困っている子たちもいるだろう。いち教師でもできることがいろいろありそうだ。「何歳からでも修復できる」と、筆者が繰り返し主張していること意識して、生徒たちとの関わり方や授業づくりを工夫していこうと思う。1学期の生徒の様子をや「安心基地」ということを考えると、2学期に取り組むことの1つは、「感情」がキーワードになりそうだ。


最後に


自分の家族のことも、2学期以降の実践のことも、考えられるいい本だった。特に、教育関係者や子育てをしている世代の親は、一読する価値があると思う。ただ、間違っても「自分のいままでの関わりが全て原因なんだ、、、」と、自分を責めないでほしいなと思う。


あと、個人的に、愛着障害についての誤解を知るためのp.40の親子関係ウソ・ホントクイズを、保護者会とかでもやってみたい。家族でやってみても、面白そう。


そして、9月2日と9日に講座がオンラインであるので、参加してみようと思う。最近、夜9時には気絶するように寝ているので、見逃し配信もあって、ありがたい。『教室マルトリートメント』の川上康則さんが登壇されるのも魅力的。


【オンライン研修会】愛着障害のこどもを育てるアプローチ(全2回)講師:米澤好史×川上康則×藤原友和


https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02mfzcvt3n431.html


※2023/08/09追記


米澤先生の2020年の講演の動画がYoutubeにあるということを紹介していただいたので、そちらへのリンクも貼っておきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?