
兼業農家とは破綻したシステムである
確定申告と損失
昨年、俺は実の父を失った。まだ還暦そこそこだった。家族全員ワクチンを打たないよう説得したのも虚しく、皆が次々にワクチンを打った。父が3回目のワクチンを打って以降、父はコロナに感染し、その後とある病気で激痛に苦しみ、その後は膵臓がんを患い、思い半ばで亡くなった。
父の死去に伴い、母に故人の確定申告をする必要が出てきた為、その支援として色々と農業関連の収支を見る機会を産まれて初めて得た。
俺自身、いつも赤字赤字とは聞いていたが、現実は想像を遥かに超えていた。
端的に言えば「米なんか作っても損しかない」のだ。
田起こし、代掻き、苗作り、田植え、水路清掃、水調整、稲刈り、乾燥、出荷、
あれだけのことやって、びっくりするくらい儲からない。
真面目に儲けは自家消費用の米だけ。それを除けば赤字。
売上から田植え機等各種機器使用料、肥料、苗代金を引いてマイナス。
これなら真面目に、他の仕事して米を買った方がいい。
今後は俺も余所から米を買うことになると思うが、「高過ぎ」とか言える気がしない。
所謂中抜き的な部分は俺にはブラックボックスだから分からないが、米農家が兼業で1町分作ったとて、成り立たないから担い手が全くいないなんてことは、当たり前過ぎて疑う余地すらなくなった。この当たり前を放置してきた国はやはり滅びた方がいい。
農業政策として破綻している。
冗談抜きで兼業農家をするくらいなら、副業で土日にアルバイトをして、その金で米を買った方がマシだと思う。
全く割にあわない。
やはり農業は適切に自由化すべきだ。大規模にやれる法人を作って、人を随時雇って国外に売るくらいしないと全く儲からない。
もしかしたら俺の知らないところで他に補助金があるのかもしれない。それを疑うレベルで恩恵が皆無だ。得られるのは自家消費米だけ。
兼業農家について考えてみる
ここで少し具体的に兼業農家の現状を考えてみる。
兼業農家とは形式上は土地を持った小作民のことだ。まず現代において小作民みたいなものは成り立たない。
戦後はそれで良かったのだろうが、現代において一般家庭レベルで、少子化及び機械化が進んだ以上、家庭でそれをこなすのは無理がある。
一応は一般の土地より相続税や固定資産税で優遇があるとは言え、農業収益で払っていくには厳しい(何せ売上が租税以前に消し飛ぶ)。そして農地の売買は制限が多い(農家同士しか原則できないし、不動産利用目的となれば農業委員会から拒否される。とは言えこれは後述するように当然とは思う。)上に、その優遇に加え、一般的な不動産利用の難しさ(宅地が高いのは利用価値、その土地から取得し得る利益が大きいから。農地は利益は少ない為評価額等も低く設定される)から価格は上がらない(だから売ろうとも思わない)し、(買う)農家の資産の少なさからも売買自体が難しい。売っても二束三文だが、買うのも保持するのも決してお得とは言えない。そしてそれだけ経営の厳しさと法的参入ハードルの高さから一般個人の新規参入はかなり厳しいようだ。金持ち力持ち時間持ちの道楽としてやるなら好きにしろ、レベル。
このようなどん詰まりを解消する為にも真面目に農業は自由化すべきだ。
父の代でも組合化(それ以前は各農家に田植え機やコンバインが個人で所有されていたが、組合化により、機器を共有するようになった。利用料は按分する)することでコストを圧縮することを試みたが農業機械その他の値上がりで更に厳しくなった(農機具メーカーも生き残らねばならず、高性能化、高価格化しか生きる道はない。
日本の農業の今後
とは言え農業を簡単には捨て去ることはできない。そこでこの国の農業をどのようにしていくことが望ましいのかを考えてみる。
今の農地制度を根本から変えて、大規模集約みたいなことをするしかない。作りもしない農家に補助金を出す(これも具体は知らない…)のではなく、農地の売買に補助を出して、残った農家だけに更なる恩恵を与えるようなことをすべきではないか?勿論それなりに儲かってる農家はいると思う。米以外なら。だから取り急ぎは枠組みだけを用意して、農地の売買を促して集約化する。それが完成してからは農業の参入規制を撤廃すればいいと思う。それと輸出拡大だ。需要はいくらでもあるはずだ。それこそ高価な農機具も所有できるくらいに儲けることができるだろう。
ただし、農地の安易な(調整区域みたいなところ)宅地化には勿論制限は必要だろう。そこは行政に権限を持たせていいと思う。農地は簡単には作れないのだから。
ここまで話したことで、何割かの人はJAによる中貫きを想像したと思うが、実はこの供出米はうるち米(食用)ではなく県が買い取る酒米である。うるち米は全て自家消費している。何故こうなるのかと言うと、酒米の方がうるち米より安定して高く買い取ってもらえるからだ。ただし米には出来によって等級が決められる。一等になれば黒字化は可能だが人件費を考慮すれば結局は赤字になる。とどのつまりこれが全てうるち米ならもっと赤字だっただろうと言うことだ。それからうろ覚えだし、前年以前のデータが曖昧だからはっきりとは断言できないが、今年の買取価格は同じ等級でも去年よりは高かったように記憶している。勿論、コストも上がってるから利益は残らないが。これは個人的な見解でしかないが日本の農家の貧しさの根本原因はJAによる中抜ではないと考えている。勿論、農家の自立や集約、販路や価格の維持確保に関して何の指導力も発揮できない無用の長物的な批判はその通りなのだろうとは思う。またそんな儲からない農家に金融機関として農機具を斡旋するようなやり方は、出来損ない金融機関としては仕方のないことだろうとは思うが、それも悪故だとは思わない。
そもそもそれ以前に構造的な問題がある。
まず農家を個人経営、家族経営、世襲制が前提の制度がそもそも論的に破綻している。世襲制は一種の資格制度だろうが、能力の有無や能力開発なんかは一切関係がない。農地を所有しているか否かでしかないし、農地は基本は農家同士の売買か相続によってしか所有できない。持ってても売っても利益にならない。
しかしそんな世襲制の家庭規模農業を前提とした、そして国内消費しか考えないやり方だから成り立たない。
これを改革できないなら破綻するのは火を見るより明らかだ。
こんな規制は取っ払えばいい。取っ払った上で、結果的に世襲制になるのは何の問題もない。自由の範疇だ。
しっかりと構造的な問題を可視化し、改善されることを切に願う。