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ひとり出版社1年目日記⑫とうとう製本!本が生まれる瞬間に立ち会う

今年3月にできた出版社 Studio K。年内に1冊、木下晃希さんの画集「KOKI ZOO」を出版することを目指し、着々と準備中です。その記録を残す「1年目日記」、今回は、いよいよ製本!


手製本にこだわった理由

「あたたかいな」「手ざわりがいいな」「ほっこりするな」

そう思う本に出会い、その理由を探る間に「手製本」を知りました。そこから自分も製本を学び、また、出版社を立ち上げる時には、そういう本を作りたいと思っていました。

そしてさらに、今回の本「KOKI ZOO」が手製本でなければならなかったのは、「大きい絵は180度開ける見開きで、真ん中(ノド)を切らずに見せたい」が、いちばんのこだわりだったからです。

その希望を叶えるのは「ドイツ装」。紙を2つ折りにして、背中を糊で固めるつくりでした。


工芸品のような本をつくる美篶堂(みすずどう)さん

そこで、製本は美篶堂さんにお願いしました。美篶堂は長野県伊那市美篶に製本所、東京に営業所を持つ製本会社です。さらには、私が創業前に1年間、製本を学んだ「本づくり学校」を運営する本づくり協会の母体でもあります。

1983年、製本職人の上島松男さんが創業して以来、手製本を得意として、造本にこだわるクリエイターやアーティストが思わず唸る、工芸品のような本を世に送り出し続けています。

今年85歳の上島松男さんは「親方」として慕われる存在。現在、製本所を束ねるのは熟練の製本職人で工場長の上島真一さんです。一方、出版社、作家、アーティストなど「美篶堂で本を作ってもらいたい人」と現場をつなぐのは上島明子さん。

本づくり学校の先生でもある明子さんには、「どんな本にするか」の段階から相談にのっていただきました。


製本所で立ち会い

10月、製本が始まったところで、製本所におじゃましてきました。手で本を作ること自体、想像がつかない方のほうが多いかもしれません。こんな感じです(↓)

真ん中手前で「丁合」(本文紙を順番に束ねる)、
左手前では表紙の糊付け、真ん中奥では本文の検品作業をしています
糊の入り方にムラがないか、表面に傷や毛羽立ちがないかをチェック
検品がすんだ本文紙
ドイツ装では二つ折りにした紙を重ねて糊でまとめ、
背中に寒冷紗 (かんれいしゃ)というガーゼのような布を貼ります。
工場長の真一さん。熟練の製本職人の手さばき、
何気なくやっているように見えるところがまたすごいんです!
生まれたての本

製本の様子を動画にしました

製本の一連の作業がわかる動画を作ったのですが、直接貼り付けられないので、サイトをご覧ください。手製本に興味のある方はぜひ!

「KOKI ZOO 木下晃希どうぶつ画集」人と技術とこころのものがたりという、本づくりの裏側が見える特設サイトです。

(なかなか慣れない)インスタにもアップしています。こちらからでも。下の画像をクリックしていただけるとそのままご覧になれます(……のはずですが、インスタがどうも苦手で、うまくいっていなかったらすみません!)


機械製本が進み……なんて言っていたのもすでに昔話になり、「紙の本」という言葉への違和感も薄れるほど電子書籍が増えている今日、『KOKI ZOO』はこんなふうに1冊ずつ手で作られています。記念すべき1冊目は作家にお届けしました。動画の最後に登場してくれています。

いろいろな工夫をしてくださった上島真一さん、「なんて愛らしい本」と言ってくださった上島明子さんをはじめ、心を込めて作業をしてくださった美篶堂のみなさま、ほんとうにありがとうございました。

赤ちゃんのようだった生まれたての本

プレスしたての本を手に取った時に胸にこみあげた熱い思いを、私はずっと忘れないでしょう。
 
生まれたての本はまるで赤ちゃんのようでした。作家、家族、編集者さん、デザイナーさん、印刷会社さん、製本会社さんなど、これまで関わってくれた人たちの顔が思い浮かび、文字どおり涙が出そうになりました。

目にも手にもあたたかく、やさしい本ができました。

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