見出し画像

ひとり出版社1年目日記④理想と現実のあいだ、問題はやっぱり「お金」

今年3月に立ち上がった出版社 Studio K。年内に1冊、木下晃希さんの画集「KOKI ZOO」を出版することを目指し、着々と準備中です。

宣伝用にチラシを作ったので、よろしければご覧ください。

先日、制作チーム(編集者の永岡綾さん、デザイナーの守屋史世さん、製本会社、美篶堂の上島明子さん)と第2回の打ち合わせをしました。

前回、判型とページ数を含め、希望のイメージはだいたいお伝えしていて、木下晃希さんの絵の画像もお渡ししてあったので、ざっくり編集して形にしたものを見せていただきました。

いい感じ!!!

わたしのなかでは、ポイントになる絵が何点かあって、それがちょうどいい位置にバシッとはまっていたことに感動しました。全体のリズムも素晴らしい。

もう、いい本ができる予感しかありません。わくわく!

といいながら、問題はここからです。タイトル通り、お金のこと。

いきなり現実的になりますが、いま、本をつくるのは、とにかくお金がかかります。紙代、印刷代、人件費……。

それに、美しいアートブックを作ることを目指して立ち上げた会社です。こだわりと費用は見事に比例。

造本の参考にした本「目に見えぬ詩集」(谷川俊太郎・詩、沙羅・木版画、美篶堂・編・製本、Book&Design、2022) を手に、美篶堂の上島明子さんが「この頃までは、それほどでもなかったんだけど」とためいきをつきます。(ちなみに、この本は、特装版の方ですが、第56回造本装幀コンクールの出版文化産業振興財団賞を受賞した美しい本です)

いま作っている本で、わたしが仕様でこだわったのは、厚みがあって発色のいい紙(今回は作家が初期から手がけているポスカ画を取り上げるので、発色は大切)、それに大きい絵は見開きで扱い、180 度開けるようにして、まんなかを切らずに見せること。

自覚はあります。ぜいたくなことを言っています。

紙については、いくつか選択肢があるものの、問題はふたつめです。これを実現するには、折った紙の背中に糊を入れて仕上げるしかありません。つまり手で作るしかない本。

見積もりを見ながら「機械製本も考えますか?」と上島明子さん。「180度開けるようにするのは、糸かがりの機械製本でもできます」

でも、それでは、真ん中が切れてしまうか、糸が渡ってしまいます。

「いえ、見開きできれいに見せたいんです。美篶堂さんで作ってください」

多少ひるみはしましたが、迷いはしませんでした。

本にもいろいろなものがあります。実用書やビジネス書であれば、手製本にする必要はないことがほとんどでしょう。かぎられた情報だけ得たいのであれば、電子書籍も便利です。

でも、つくりたいのは、それだけではないもの。手にした時の質感、本と読み手のあいだで生まれる関係性を含めて、特別なもの。プロダクトとして美しいもの。愛おしいもの。

そういう手の感覚は、本にかぎらず、失われていってほしくないと思います。そのためには作られつづけなければならないし、それなら、わたしはそれを発注する側にいたい。

「いいんですか?」心配そうな上島明子さん。
「はい」とわたし。

そう決めたら、次は部数と価格をわりだしていきます。印刷代、製本代に加えて、編集者さんとデザイナーさんの料金、著者印税分、倉庫代も計算に入れて、1000部作った時の定価、1500部作った時の定価、2000部作った時の定価……。いずれにしても安くはありません。

ここまで迷わずにきた気持ちを試すかのように、不安の種が粒の大きい雹のように飛んできます。

特別な本を作りたい、これは特別な本なんです、といっても、どれだけの人がそれを求めてくれるのか。どれだけの人がどれだけのお金を出してくれるのか。わたしは外食を1回するなら、本を1冊買いたいけれど、そういう人はじつは少ないのかもしれない。そもそも、そういう人たちにどうやって届けられるのだろう。そういう人たちにしても、同じお金を本に出すなら、この本ではなくて、他の本を買うかもしれない。多く刷ったら多少は安くなるけれど、いつまで気長に持っていられるのか。作家がすばらしいのはわかっています。でも、でも、でも……。

不安は尽きません。でも、腹は決めました。

と言えばカッコいいのですが、わたしは長い人生で、こういう状態になった時、ひょいっと飛び込んでしまうほうです。

妥協したことがあるとすれば、わたしはこれまでの仕事はこれまで通り、できればこれまで以上にやらなければいけないということでしょうか。「なんだかな……」とは思いますが、生活のためには、なかなか出版専業にはなれないようです。


ご報告です! 7月14日、Studio Kとして初出店した「星々文芸博」、画集発売の告知としてポストカードと缶バッジの販売をしたのですが、わたしとしては盛況でした。木下晃希さんのファンの方は、作家の地元である関西に多いのですが、東京にもたくさんいらっしゃるようで心強く思いました。みなさま、ありがとうございます! 初出店でまごついているところを助けていただいたお隣ブースの「美篶堂+本づくり協会」さま、「クルミド出版」さま、「ビーナイスの本屋さん」さまも、ありがとうございました!

わたしとしては精一杯フレンドリーな感じにしてみました!

ポストカードはまだあるので、本の販売を開始する準備も兼ねて、ネットショップをつくって置いてみようかと思っています。

創業1年目日記、まだ続けます。引き続きどうぞよろしくお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?