大手下着会社の指針とか炎上とか/下着クリエイターの考察
下着店への男性の入店をめぐって炎上していた
2024年8月、Wacoalが発表した新しい従業員向け指針に対してSNS上で議論が巻き起こり、男性の下着店入店問題が注目された。
今回はできる限りこれらの投稿やコメントに目を通し、考察と感想をnoteにまとめてみた。
まず、事の発端は今年8月、下着会社大手のWacoalが出した従業員向けの指針だ。
内容は下記。
https://www.wacoal.jp/news/newsrelease/202408/release181167.html
要約すると、
ワコールの下着売り場では障害の有無や性別のあり方に関わず、お客様の立場に寄り添って接客をする
スタッフが外見や会話内容から女性だと確認が取れたお客様には、フィッティングを案内する
売場に性別にかかわらず利用ができるフィッティングルームがある場合は、そちらに案内する
とのこと。
これが発表から数カ月経った10月の半ば、SNS(X・旧Twitter)でトレンドに上がるほどの議論を巻き起こした。
「女性用下着店でフィッティングを強要する男性が居る」
「現場のスタッフを守ってほしい」
などの個人のポストや、下着インフルエンサー(ちーちょろす🐰下着の魔法使いさん)の動画『元下着販売員の本音』、その投稿に付いた性的なコメントが議論の対象だ。
炎上を見て思ったこと
私は下着とジェンダーに関わる活動をしているため、この騒動がここまで大きくなる理由に疑問を感じた。
なので、できる限りこれらの投稿やコメントに目を通し、考察と感想をnoteにまとめてみた。
というのも、これが炎上してしまうのは、相互理解の不足や誤解(誤認)があるからだろうなと率直に感じたからだ。
極力フラットに、多角的な視点で今回の話題に触れているので、炎上や批判の原因になった誤解の部分が少しでも解ければと願う。
長文になってしまったので、興味がある項目だけでも、お時間が許すだけ読んでいただきたい。
話題になった動画
まず私がこの騒動を知ったのは、相互フォローの下着インフルエンサーの投稿動画が燃えていたからだ。
(実際に燃えていたのは、その投稿にコメントをした人)
なので先に動画を中心に感想を述べたい。
https://youtu.be/8iXxYqBxiKo?si=ZxT6Zf18wUoWPIMk
この動画に関して、下着販売の現場の意見としてはごもっともだと思う。
私自身、男性と下着売り場に行くときは神経をすり減らしていて、事前に
「他にお客様が居たら入店は諦める」
「他の女性客を見ない」
「商品に触らない」
等の約束をしてから入店する。
または一人で入店した際に、他のカップルや男性客が居て、その男性にジロジロ見られて不快な思いをした経験もある。
基本的に今の日本の下着店事情では、男性客が入店して良いことなんてほぼ無い仕組みだろう。
ましてや男性客にフィッティングをするとなると、個室に2人きりになるわけだから、フィッターとしては不安が付きまとう。
従業員を守るためにも、企業側には安全対策を講じてほしい。
攻撃的なコメント
そしてこの動画を紹介するポストや、複数の個人の投稿で目立ったのが、
”体が男性でフィッティングサービスを利用する人”や
”フィッティングの間口を広げたWacoal”
を批判する攻撃的なコメントだ。
これに関して私個人(・・・下着が好きで下着本を読み漁り、下着に関する研究・論文を調べ、人体解剖学の知識を身に付け、経営と法律を学び、ランジェリーブランドの立ち上げを目指している身)としては、大変心苦しく思う。
批判コメントが糾弾したいことも身に染みて理解できるが、実情は少し異なり、その限りではないと感じているからだ。
女性用下着が要る男性?
まず”体が男性でフィッティングサービスを利用する人”について。
男性で女性用下着が要る人というのは、どういう人か?
トランスジェンダーでホルモン治療・乳房手術等をしていて、乳房を支える必要がある
女性化乳房で乳房を支える必要がある
ファッションとして身に着けたい
上記の3つに当てはまるのではいだろうか。
すると、多くの消費者が感じる点として…
1.は女性以上に女性のことを考えようとしてくれているのだから、フィッティングの強要や横暴な態度など、店員や他の女性客が嫌がることはしない
2.は男性用のブラジャーのお店に行ってほしい
3.はそもそも生活必需品ではないのだから、店員や他の女性客が嫌がることはしないでほしい
という対応が求められる。
とはいえ、体が男性の人向けのブラジャーというと、デザインや品質の選択肢が市場にほとんどないのが実情で、こういった男性客が女性用下着店に流れてしまうのは頷ける。
男性も試着できるという誤解
また、”フィッティングの間口を広げたWacoal”への批判について。
これは「身体男性もフィッティングできる」というような誤解が独り歩きしたが、正確には少し違う。
ワコールが発表した指針によると、スタッフが接客中に女性だと判断できた場合・または専用のフィッティングルームがある場合のみ、身体男性もフィッティングできるようだ。
これを勘違いして「女性スタッフに個室で試着させてもらえる」といった性的嗜好目的のポストが現れ、当然ながら反感を買い、Wacoalの取り組みにまで批判が及んだ。
多様性の包括
性的嗜好目的のポストが糾弾されるのは当然だが、Wacoalにまでヤジが飛んだのは意外だった。
なぜなら、社会は多様性を包括する流れであり、下着市場においても女性以外のマイノリティユーザーが十分な顧客になり得るからだ。
日本のトップ下着メーカーがこの顧客層をほおっておくはずがないし、むしろ、大手が踏み出して牽引しなければ日本の下着市場は世界から大きく後れをとると考えていたからだ。
経営やトレンドの観点からいうと、打倒な取り組みだと考える。
何が問題の原因?
では何が問題でこんなにも議論になったのか?
私が考えるに、問題の原因は
「女性用下着を身に着ける男性」や
「マイノリティに間口を広げたWacoal」ではなく、
「”自身の暴力性に気付いていない男性”が世間の大半を占めているということ」じゃないだろうか。
(この手の話はフェミニスト問題として必要以上に白熱しやすいので、そうならない様に配慮しながら書いていきたいし、そうやって書いていることを、これを読んでいる方にも留め置いていただきたい)
”自身の暴力性”に気付けるか
”自身の暴力性”というのは多種多様だが、今回の話題でいうと、
フィッティングを強要する
他の女性客をジロジロ見る
スタッフに対して横暴な態度をとる
性的嗜好をおしつける
女性用衣類を着ただけで、自分は女性だと主張・強要する
などだ。
心身共に女性の人ならば、マナー・モラルとして当たり前に上記に配慮するが、”自身の暴力性に気付いていない男性”は何の気なしに日常的にこの暴力を振るっている。
そしてこの”自身の暴力性に気付いていない男性”は世間の大半を占めている。
これを読んでいて「自分はそんなことない」と思った男性もいるのではないだろうか。
そんな男性に聞いてみたい。
街行く女性の胸元をじーっと見た経験はないだろうか?
「下着が好きだ」という女性のことを「エッチだなぁ」と思ったことはないだろうか?
その品のない視線に大概の相手は気付いているし、
その考えは下着=エロという性的嗜好の押し付けである。
このありきたりな例と同じように、”自身の暴力性に気付いていない男性”もまたありきたりなのだ。
そしてそういう”自身の暴力性に気付いていない男性”の暴力性が、女性用下着売り場では特に露呈しやすい。
だから女性たちは拒絶をする。
その縮図が今回の議論に発展したのだと考察する。
(あくまで私個人の意見で考察)
理想
下着の業界全体を見渡すと、”自身の暴力性に気付いていない男性”が減れば…もとい、男尊女卑ではなく両性がお互いを尊重できる環境であれば、今回の議論は巻き起こらなかったのではないかと推測している。
女性専用車両問題もそうだろう。
海外では夫婦やパートナーがお互いを尊重して、一緒に下着を買いに行く文化があったりもするが、大手が目指したいのもそういうショッピング像じゃないだろうか。
(もしそうなら私は全力で応援するし、実際、株主には支持されているようでWacoalの株価は上がり続けている)
だが、海外で共にショッピングができるのは、そのために必要なパーソナルスペースが確保できるからだろう。
日本のほとんどの下着売り場はパーソナルスペースなど確保できないくらいに狭い。
これが冒頭で「今の日本の下着店事情では、男性客が入店して良いことなんてほぼ無い」と言った理由だ。
ただでさえ女性同士でも狭い空間に、男性が入る余地はないのだ。
対策
ならこれからどうすればいいのか?
マイノリティユーザーは、下着を諦めるしかないのか?
これに関しては最初からワコールが指針で提示している。
「専用のフィッティングルームがある場合、対応する」と。
つまり住み分けをすればいい。
マイノリティユーザーでフィッティングが要るときは、専用のフィッティングルームがある店舗に赴く。
マイノリティユーザーと会うのが嫌な人は、その専用ルームがある店舗を避ける。
これが現状、私たち個人にできる最良の対策だと思う。
◆取り組み
また、「体が男性の人向けのブラジャーは、デザインや品質の選択肢が市場にほとんどないのが実情」という課題を解決するために、私は男性にも向けてランジェリーブランド『I.genic』の立ち上げを目指している。
身体男性にとっては、私が目指しているような、ジェンダーニュートラルなブランドや、ジェンダーフリーなブランドを応援するというのも一つの手だ。
ブランドとしては応援してもらうことで立ち上げが可能になったり、存続が可能になったりする。(I.genicの宣伝)
◆チャット紹介
そして、ファッションとして女性用下着を身に着ける、下着ラバーの男性(クロスドレッサー)へは、同じランジェリーラバー男性が集まる匿名チャットも設けている。
どうか、「理解者が少ない」というフラストレーションを女性に向けず、当チャットで楽しく発散して欲しい。
案内が必要な方は、私にDMをお送りください。
おわりに
というわけで本記事では、大手下着会社の指針やそれにまつわる炎上までを考察、感想をまとめた。
というのも先に述べた、誤解が多く心苦しい思いをしたという他にもう一つ、下着の歴史に残る出来事として書き留めておかねばと考えたからである。
今回の議論は、下着業界にとって新たな方向性を模索する一歩になると考えている。
多様性を尊重しつつ、すべての人が安心して下着を選べる未来が訪れることを願う。
拙筆ではあるが、いつか、「下着を学びたい」という人がこの記事を参照して今起きていたことについて留め置いてくれれば幸いだ。
今ある幸せから、より良い未来が成りますように。
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